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「翻訳魔法、ですか?」


 聞いたことのない魔法だけど、何となくどういう魔法かは分かる。


「はい。国が違うと言葉が違うこともあります。翻訳魔法さえ使えれば、精霊たちが通訳してくれるのです。聞こえる言葉はこちらの言葉になりますし、相手もあちらの言葉で聞くことができるようになります。簡単な魔法なので、少し練習すれば誰でも使えますよ」

「へえ……。私、使った覚えも使ってもらった覚えもないんですけど」

「そこまでは、なんとも」


 ミルカさんもそこまでは分からないらしい。私のことだから仕方ないだろうけど。

 翻訳魔法のそもそもの効果が精霊が翻訳してくれるということなら、もしかすると最初から精霊たちが手伝ってくれていたのかもしれない。多分、やっぱりアーちゃんかな。言っておいてほしかったなあ……。


「でもそうなると、すずちゃんが文字を覚えるのは難しいだろうね」


 クロスさんが困ったような笑顔で言う。やっぱり、そうなるよね。

 無理矢理に例えるなら、聞こえる言葉が全て日本語のまま英語を覚えるようなものだ。単語を書かれても文字列としては分かるけど、読み方が分からないという状態。とても、覚えにくい。


「大丈夫! 私が読み書きしてあげる!」


 ニノちゃんの笑顔がとても眩しいけど、姉としての威厳がね? こう、ほら、うん。どうしよう、泣きたい。


「ま、まあ、とりあえず時間はあるんだし、続けてみよう。手紙のやり取りをするわけじゃないなら、単語さえ覚えればどうとでもなると思うよ」


 クロスさんの優しさで心が痛いけど、一理ある。誰かに手紙を送りたいわけじゃないし、単語さえ覚えれば、どうにかなるはず。なるよね?

 私はクロスさんに頷いて、勉強を再開することにした。




 毎日昼から夕方まで勉強して、夕方と朝は復習して。それに二週間以上かけて、ようやく大事な単語は覚えることができた。相変わらず音と文字が一致しないけど、最低限自分の名前は書けるので問題ない、と思いたい。

 ニノちゃんがもう完璧に読み書きできるようになったから、最終手段として頼ることもできる。できれば、こんなことで頼りたくないけど。

 文字の後は、旅のやり方を教わる。といってもこれは実践できるわけでもないので、ざっくりしたものだけだ。


「どこかに行く予定でもあるのかい?」


 そう聞かれたので、素直に事情を話しておく。別に隠していることでもないし。

 ニノちゃんについてを話すと、クロスさんの表情が険しくなって、ミルカさんは泣きそうな顔になってしまった。対するニノちゃんが気にした様子もなくきょとんとしているのが印象的だ。

 クロスさんは何か言いたそうにしていたけど、すぐに首を振ってしまった。何を言いたかったんだろう?


「獣人についての情報を探すなら、ここから東にあるビルドという街に行くといいよ。獣人の商人がよく行商に来ているらしいから」

「東のビルド、ですか」

「うん。確か、僕の知り合いの商人がビルドに行く用事があるって言ってたから、紹介してあげようか? 信頼できる商人だから、色々と教えてくれると思うよ」


 それはとても有り難い提案だ。私たちだけだと、詳しい場所までは分からないから迷う可能性もあるし、自分たちで人を頼っても騙される可能性もある。その点、クロスさんならきっと大丈夫だ。

 まさかクロスさんが人を騙すとは思えないしね。……クロスさんが騙される可能性もあるかもしれないけど、そこまで疑いだしたらきりがない。その時はその時だ。


「はい。お願いします」

「分かった。声をかけておくよ」


 そう言ってクロスさんは頷いてくれた。




 翌日にはクロスさんは商人さんに話を通してくれたらしくて、出発は私たちのこの勉強が終わった後の三日後ということになった。それはつまり、私たちがこの町を離れる日が決まったということで。


「もうちょっとゆっくりしようよ」


 フロイちゃんが泣きそうになってる。ニノちゃんも寂しそうに私を見てくるけど、心を鬼にして首を振る。

 私も、フロイちゃんが気になるよ。でも、ずっとここにいるわけにもいかない。ここで旅立ちを延ばすと、そのままずるずると居座ることになりそうだから。


 ニノちゃんだけなら、ニノちゃんの人生だから好きにしていいと言えるけど、私はあまり長くいられない。だって、私は、成長しないから。一年以上は、私を不審に思う人がきっと出てくる。

 だから、旅立ちを決めたらもう迷わない。行かないといけない。ごめんね、フロイちゃん。


「フロイ。我が儘を言うな。すずちゃんたちがいつか出て行くことは、最初から分かっていただろう?」

「うん……」


 頷いてはくれるけど、それでも表情が晴れることはない。せめて、少しでも一緒にいてあげよう。ここはもう、家みたいに感じるし、フロイちゃんは家族みたいなものだもの。

 と、そんなことを零すと、


「じゃあ、私が妹?」


 フロイちゃんがそう言って、次にニノちゃんを抱き寄せて、


「ニノちゃんは私の妹ね!」


 フロイちゃんがニノちゃんに頬ずりしている。ニノちゃんはされるがままだ。嫌そうにはしていない、むしろ少し嬉しそうなので、放っておく。かわいいなあ。


「かわいいなあ」


 フロストさんの声。思わず隣を見ると、ものすごくだらしのない笑顔を浮かべていた。


「変態さん?」

「え。いや待てすずちゃん。それは誤解だ。ほら、娘が増えたみたいでさ、その二人が仲良くしていたらこう……。ほんわかしないか!?」

「言い訳にしか聞こえない! 兵士さーん! 変態がいるよー!」

「待って! 頼むから待って! むしろ俺が兵士だ!」


 外に飛び出そうとする私と、私にしがみついて止めるフロストさん。うん。


「どこ触ってるのかな……?」

「え。いや、待って。不可抗力……」

「フロイちゃん! ニノちゃん! どう思う!?」

「お父さん、さいてー」

「えっと、さいてー?」

「ぐふう……」


 フロストさんが崩れ落ちた。みんなでつんつんとフロストさんをつつく。フロイちゃんとニノちゃんは楽しそうだ。

 私は……。うん。楽しい、かな?




 勉強の期間もあっという間に終わって、クロスさんに手伝ってもらって旅立ちの準備をして。気付けばもう、出発前日になっていた。

 魔力結晶は無事に売れたみたいで、なんと金貨五百枚。大金持ちだ。ニノちゃんの希望通りにお腹いっぱい串焼き肉を食べたら、何故かフロストさんに怒られた。

 そんな思い出話をしつつ、私たちは夕食を食べる。今日は今までのお礼に私が奮発した。お金持ちだからね! お金にものを言わせて買い物をした!


「ふははー。ひれふせー」

「ひれふせー!」

「ひれふせー!」

「すずちゃん。フロイに変なことを教えるな」

「あ、はい。すみません」


 怒られた。当たり前だけど。


壁|w・)もうすぐ長かった第一話も終わりなのです。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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