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 私がやったことは、うん、自分でも褒められたことじゃないとは思う。でも昔、テレビでやってたから! ちょっとやってみようかなと思っただけなの。だから私は悪くない。……でももうやらないよ。うん。


 何をやったかと言えば、この街で一番高い料理のお店に行って、金貨百枚入った袋をどんとカウンターに置いてみた。そうしたら支配人さんが出てきて、いろいろとお願いを聞いてくれた。

 ここと、北門の隊長さんたちのところと、あとはギルドへと料理を届けてもらった。クロスさんとミルカさんにも伝えてあるので、きっとギルドで食べてくれている、はず。ちょっと恥ずかしいので確認はしてない。


「お肉が! お肉がとける!」

「なんだこの……、なんだこの。なんだこれ」


 料理を食べたフロイちゃんとフロストさんのテンションがおかしい。まったく、大げさだなあ。

 ……なにこれ。なにこの。え、あれ、すごく美味しい。お肉が! 肉汁がじゅわってして、ほろほろってほどけて、こう……。うん。私の語彙力じゃ表現できない!


「うまー!」


 ニノちゃんの尻尾が暴れてる。ゆっさゆっさ揺れて、隣に座る私を何度も叩く。ふわふわだから痛くないけど。でもちょっとくすぐったい。

 結構な量の料理があったけど、あっという間になくなってしまった。




 夜。フロイちゃんとニノちゃんはお互いにぎゅっと抱き合って眠っている。せっかく仲良くなれたのに、と思うと、私もちょっと心苦しくなってくる。

 三人が眠ったことを確認して、アーちゃんを呼び出した。


「おっまたせー! 以下略!」

「考えるのが面倒になったの?」

「なったの」


 じゃあ最初からやらなければいいのに。


「明日、この街を出るよ」

「うん。ついに遠くに行っちゃうんだね。寂しいなあ」

「寂しいって、いつでも会えるよね?」

「まあねー」


 でも寂しいの、とアーちゃんが頬ずりしてくる。なんだか犬みたい。むしろ私がぬいぐるみになった気分。


「何かあったら、いつでも帰ってくるんだよ。すずちゃんとニノちゃんの二人ぐらい、面倒見てあげるからね」

「あはは。うん。でもそうならないように、がんばるよ」


 アーちゃんと対等な友達でいるためにも、頑張って世界中を旅したいところだ。今はそれよりも、ニノちゃんの故郷を探す方が先だけど。


「ところでアーちゃん。あのね、ちょっと無理だろうなっていうお願いがあるんだけど」

「ん? なあに?」

「夜の見張りとか、してくれる精霊さんっていないかな?」


 今回は商人さんの馬車に乗るからまだ大丈夫だろうけど、その後はニノちゃんと二人で旅をすることになる。私は寝なくても平気だけど、ニノちゃんが納得しない。でも交代で眠ると、ニノちゃんの睡眠時間が減ってしまう。まだニノちゃんは小さいから、たっぷりと寝てほしい。

 なるほど、とアーちゃんは頷いて、笑顔で言った。


「分かった。何か用意しておくね」

「うん。ありがとう、アーちゃん。ごめんね、無理言って」

「大丈夫だよー。また遠慮なく言ってね」


 それじゃあ、とアーちゃんは手を振って消えてしまった。今日は早かったけど、もしかすると私のお願いのためかもしれない。

 何かお礼をした方がいいよね。何か考えておかないとなあ……。

 そんなことを考えながら、私もベッドに戻った。




 朝。出発の日。フロイちゃんが袖を掴んで離してくれない。


「フロイ。手を離しなさい」

「やだ……!」


 どうしよう。困った。

 隣のニノちゃんの見ると、この子も目に涙をためている。それでも、こちらは分かってくれているみたいで、掴んでいるのは私の手だ。

 うーん……。こういう時は記憶を探ってみよう。あの家にもたくさんの家族が訪れた時がある。田舎のあの家が楽しくて、帰りたくないって泣いていた子がいたはずだ。えっと、どうしてたっけ?

 あ、思い出した。無理矢理引きずって帰っていったやつだ。……参考にならない。

 こうしている間も、約束の時間は迫っている。どうしよう、どうするべきかな。


「あのね。フロイちゃん」

「やだ!」

「まだ何も言ってないよ!?」


 だめだ、これ何を言っても無駄なやつだ。

 お話とかだと、ここでいいことを言って、子供を納得させる場面がよくあるけど、実際にその立場になって分かったことがある。あれ、無理だよ。私もこう、ちょっと混乱してるし、フロイちゃんも聞く耳持たないし。あれは話す方も聞く方も、ある程度の知性というか落ち着きというか、そういったものがあって成り立つものだと思う。


「フロイちゃん」


 私とフロストさんが困り果てていると、ニノちゃんがフロイちゃんの手を握った。


「また来るから、今度は一緒にお外で遊ぼうね」

「お外で? 私が……?」

「うん。一緒に。約束」

「うん……。うん。約束」


 ありゃ。なんとも簡単に手を離してくれた。ぎゅっとニノちゃんとフロイちゃんが抱き合っている。仲が良いのはいいけど、あの短いやり取りで何が変わったのか……。

 フロストさんを見る。目が合ったかと思うと、肩をすくめられた。フロストさんも分からないってことかな。子供同士で通じるものがあったのかな。

 私も見た目は子供だけど。見た目だけね。


「それじゃあ、フロストさん。長い間、お世話になりました」

「いや。こちらこそ楽しかった。何かあったら、またいつでも戻ってくるといい。ここはもう、君の家だ。いつでも歓迎するよ」


 ああ、本当に。やっぱりフロストさんはいい人だ。


「はい! またいずれ、必ず! フロイちゃんも、元気でね」

「うん……。また来てね、お姉ちゃん、ニノちゃん」


 フロイちゃんをぎゅっと抱きしめて、一歩離れる。うん。もう大丈夫そう。目に涙はたまってるけど、ちゃんと笑顔だ。

 ニノちゃんと一緒に手を振って、私たちはフロストさんの家を離れた。

 あの家、あの家族が、幸せになれますように。そう祈りながら。




 ニノちゃんと一緒に東門へと走る。遠目にだけど、クロスさんとミルカさんがいるのが分かった。その側には三台の幌馬車と商人さん。三人は私たちに気が付くと、笑顔で手を振ってくれた。


「すずちゃん! ニノちゃん! もうすぐ出発だよ!」

「はーい! ごめんなさい!」


 クロスさんと商人さんに促されて、私たちは先頭の馬車に乗り込む。先に乗っていたのは護衛の冒険者さん。三人。


「同乗者がいるって聞いたけど、君たちか」

「えと。はい」


 はっきりと覚えてはいないけど、見覚えはある。何度かギルドで見かけていた人だ。クロスさんが私たちの勉強を見てくれていた間は、薬草採取の引率を代わりにしていたって聞いた。


「クロスたちに挨拶しなさいよ。お世話になったんでしょ?」


 女の冒険者さんがそう言ってくる。そうだった、クロスさんたちに挨拶しないと。

 私は慌てて馬車の後ろへ。こちらを見ていたクロスさんと目が合った。


「クロスさん! ミルカさん! 色々ありがとう!」

「いや、こちらこそ楽しかったよ。気をつけて行ってくるといい。良い旅を!」

「無理はしちゃだめですよ。健康第一です。約束ですからね!」

「はーい!」


 ニノちゃんと一緒に手を振る。二人も手を振り返してくれた。

 馬車が走り始める。クロスさんとミルカさんの姿が遠ざかる。なんだか、すごく寂しくなってきた。


「ニノちゃんニノちゃん」

「なあに?」

「もふもふしていい?」

「んー……? いいよ」


 ニノちゃんが尻尾をこちらに出してくれる。その尻尾を抱きしめる。えへへ、もふもふだあ。

 ……うん。もふもふだ。


「私も、ぎゅー」

「うん」


 ニノちゃんを抱きしめる。二人で、ぎゅー。

 うん。うん。寂しくない。

 街が遠ざかっていく中、私たちはそうやってしばらく抱きしめ合っていた。




 我に返った時にはみんなからにやにやと見られていて、ニノちゃんと二人で真っ赤になった。うあー、恥ずかしい……!


壁|w・)旅立ちました。

次話はフロスト視点でエピローグです。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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