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りんなとゆうちゃん  作者: 如月海月
Chapter1
10/49

裏エピソード6

 遼君を家にあげたのはこれが初めてだ。リビングに遼君を通し、彼がもの珍しそうに辺りを見回している間、私はキッチンに行ってまず冷蔵庫の中身を確認した。うん、これなら大丈夫だ。夕食も作れる。

 戸棚からお盆を引っ張り出し、冷茶を注いだコップをリビングに持っていく。

 彼はコップに手をかけながら、わずかに微笑んだ。

「お気遣いなく。僕が押し掛けたわけだし」

「ただのお茶よ。気遣いも何もないわよ」

 私も笑って答える。窓の外は、今にも降り出しそうな曇り空。それから2階に駆けあがって急いでベランダに出ると、一気に洗濯物を取り込んでしまう。今ここで畳むのは何だか遼君に悪いような気がしたので、私は下に行って先に夕食を作ってしまうことにした。

 階段を降りると、遼君はテレビの脇に置いてある小さな写真を眺めていた。

「それね。私達が5歳の頃の」

 今からもう10年も昔になる。今日の夢に出て来た某遊園地で撮った写真。私達お母さんが二人後ろに並んで、私の首ったまに飛びついている優太朗と、それを若干迷惑そうに、でも本当は満更じゃないような顔をした私が映っている。多分、迷子事件から生還した後だろう。普段の優太朗は恥ずかしがり屋だったからこんなことはしない。無事生還することができて、私に感謝と親愛の極みを感じていたからこそ撮れた一枚だ。

 この写真を見るだけで、自然と心が温まってくる。私はそれに視線を落としたままの彼に尋ねた。彼の後頭部に向かって、後ろから声をかける。

「それが、どうしたの?」

 彼は答えずじっとその写真を見つめている。気になって隣に並ぶと、ようやく遼君は視線を上げた。

「ううん。なんでもないよ」

 浮かんでいるのはいつもの微笑み。

「ふうん」相槌を打って、私はキッチンに向かった。


 

冷蔵庫からキャベツを一玉取り出して、半分ほど切り出した時だった。遼君が突然提案してきた。

「ねえ、凜奈ちゃんの部屋を見たいんだけどさ」

 沸騰を待っていたお鍋の火を消して、私は包丁を置いた。

 私の顔には多分、困惑が浮かんでいたと思う。

「なんで?」

 彼はキッチンまでやってきて、私の傍らに立った。

「なんでも。ちょっとだけ、ね?」

「今、料理の途中だから……」

「お願い! 凜奈ちゃん!」

 パン! と音を立てて拝まれる。どうして私の部屋がそんなに見たいのだろうか。そして何より、どうして私は彼を部屋に上げることに気乗りしないのだろうか。少し考えていると、不意に優太朗の蔑んだような瞳が脳裏に浮かんできた。『りょうとセックスしてるんだろ』

 遼君はそんな人間じゃないし、そもそも私達はそんな関係じゃない。どこからあんな発想が湧いてきたのだろう? 遼君もどちらかと言うと控えめで優しい人間なのだ。それゆえ、その遼君が粘るのはやっぱり珍しいことだから、私はやっぱり断りにくい。

「しょうがないな」

 曖昧に笑って、私は許してしまうのだ。


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