プロローグ「花の大国」
初めに一人の女神が居た。夕暮れの太陽のようなオレンジの髪を持ち、生命の象徴とも言える草木と同じ、緑の目を持った、美しい花の女神が居た。
女神は死に侵された大地に立っていた。
草木は枯れ果て、土はひび割れ死した生き物の墓場となり、色は存在していない。そんな死んだ土地を花の女神は見下ろしていた。
見下ろす先に命あるものおらずただ延々と死のみが広がっていた。
歩く度に硬い土が足裏を傷付け、赤色をしみこませていった。女神はそれでも足を止めず、ある物を目指して歩いた。
向かう先に、岩のようなものが一つあった。薄汚い色をしていて所々ごつごつとしており、数匹のハエがあたりを飛んでいる。しばらくして女神はその岩の“正体”に気付き美しいその顔に苦痛を浮かべた。
それは岩ではなく、痩せこけた一人の子供だった。子供は呼吸をしておらず、体の一部は白く白骨化していた。あまりにも残酷な死が女神の緑色の目を揺らし、歪ませた。
女神はその子供の頭と思わしき場所を撫でた。べちゃべちゃとしていて異臭を放つその頭を、ただ慈悲深く撫でた。
不意に、女神はその行為をやめて真っ直ぐと前を見つめた。よく見てみると辺りには同じ岩のような死体がごろごろと転がっていた。
女神はこの光景に息を飲んで、一滴の涙を流した。
その涙は白く柔らかい頬を伝い、そのまま死んだ土地に落ちた。すると、死んだはずの土地に変化が起きた。
土がみるみると柔らかい茶色の土に変わっていき、そこから無数の草木や花が芽吹いた。その変化は女神を中心に段々と広がっていく。遠くの方まで広がり続けるこの“奇跡”は、もはや止まることもなく、女神の目が届かない所にまで到達した。辺りに転がる死体は気付けば柔らかくみずみずしい苔に覆われている。それを見届けると女神は涙を拭いて再び歩き始めた。今度は死ではなく、弱々しくともまだ確かに存在するであろう生を求めて。
その後、この土地には生き残っていた人々が訪れ、小さな村を作った。村は花や草木に囲まれていてもう死の香りはしなかった。川が流れ、花の匂いが満ちていた。子供達の笑い声が響いていた。
そしていつしか、村は町に変わり、町は国に変わった。
人々はこの国を「フロリア」と名付けた。
それは、命なき者達に涙を流し、死んだ土地に命を芽生えさせた、美しい花の女神の名であった。




