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25. 終わりのない不安(三沖side)


 旅行から帰ってきたその足で飛間の家に向かった。が、タイミングが悪いことに夜まで用事があったらしく、結局は顔も見れずに引き返した。家の前にいながら、『どっか出かけてる?』と連絡するのはなんとも惨めな気分だった。

 翌日バイトで会えるのに、なんでわざわざ家まで来たのだろうと思われたかもしれない。

 シフトがかぶるといっても、今日に限って時間帯がずれている。あいつは中番で俺は遅番だから、休憩を抜いたら一緒にいられる時間は短い。出勤前に行っても他のスタッフがいる。いつものように喋るのは難しい。

 俺は講義が終わったあと、すぐに駅前のカフェに向かった。これから飛間に会うというだけで胸が高鳴っている。空腹なはずなのに、何も口にする気になれなかった。

 ──飛間に会ったら何を言えばいいんだろう。

 ぼーっと考えながら抹茶ラテを受け取り、空いている席を探していたその時。


「え、三沖?」


 二人がけの席に座っていた男が笑顔で手を挙げた。飛間の大学の友達、小田だ。


「小田じゃん!」


「久しぶり〜、ここ座れよ」


 向かいの椅子を顎で指され、俺はそれに従った。


「三沖はこれからバイト?」


「そうそう。小田は? こっち住みなの?」


 大学が近いとはいえ、このあたりは特段栄えているわけではないし、小田の大学の近くに同じ系列店のカフェがあったはずだ。


「いや、用があって。てか俺らいつぶり? 最後に会ったの何ヶ月も前じゃん」


「めちゃくちゃ空いちゃったよな」


 そもそも知り合ったのは偶然だった。前のバイト先で仲良くなった人に呼ばれた飲み会に行ったらこいつがいて、会話の流れで飛間の友達だと判明したのだ。そのあと遊ぶたびに、飛間がレポートの提出に間に合わなかったとか、講義中に寝ていたとか、そういった情報をわざわざ伝えてくれていた。


「聞いたよ。最近、飛間の家に入り浸ってるらしいじゃん。俺とは遊んでくれないのに」


 小田は笑みを浮かべたまま、グラスに刺さったストローをくるくると回した。


「え、いや、入り浸っては……ないけど。そんな話したの」


「一昨日サークルの飲み会あってさ、そんとき言ってたよ。あいつ普段あんま酔わないのに、あの日ベロベロに酔ってまじ大変だった。ずっと三沖三沖うるせーし」


「……まじで?」


 勝手に話すなよとか、どこまで話したんだろうとか、そんなことよりもまず先に思ったのは、飛間も俺のことを考えてくれていたんだということだった。想像するだけで顔がニヤける。


「あとなんか女子に囲まれて弄られてたし。あいつ地味にモテるの腹立つよな〜」


「女子……」


 きっと、電話越しに聞こえた声のことだろう。やはり気のせいなんかじゃなかった。

 浮かびかけた気持ちを床に叩きつけられた俺は、行き場のない感情を抹茶ラテと共に喉奥に流し込んだ。

 ──飲み会のあと女子と抜けたかどうか聞きたい。でも、聞きたくない。もう充分すぎるほど嫉妬した。やめておこう。


「三沖?」


「ごめん。聞いてなかった」


「悲し」


「ごめんて」


「あっ、俺もう行かなきゃ」


 彼は慌ただしく立ち上がった。


「バイトがんば」


「うん」


「今度また三人で遊ぼーよ。なんか飛間に、お前と二人で会うなって言われたんだよね」 


「そ、そんなこと言ってた?」


「うん。仲間はずれにされんのが嫌なんかな〜、意外とそういうとこ可愛いよな」


 たぶんそれはあいつの独占欲だ──と言うわけにもいかず、俺はぎこちなく口角を上げた。


「じゃまた」


「あ、おう。おつかれ」


 飛間が彼氏になったら重くて大変そうだ。顔がいい割にこれまで女遊びをしなかったことを考えると、元々あいつは真面目な性格なのかもしれない。

 そんな彼の人生を、ゲイの俺が奪ってしまって本当にいいのだろうか。

 ──もし飛間の童貞を奪ったのが俺じゃなかったら?

 ──もしこれから女とセックスする機会があったら?

 いつ、道を間違えたことに気が付くのだろう。



 出勤の打刻を押して着替えを済ませても、飛間はなかなか降りて来なかった。オーダーと火消しが立て込んでいたからだ。

 チリチリチリ……とベルの音がフロントに響く。入店した男女がモニターに映った。空きは残り一部屋のみ。小窓からルームキーを手渡すと、エレベーターですぐ上がっていった。これでまたオーダーが入ってしまう。

(くそ、なんで今日に限って混んでんだよ)

 せっかく飛間と話せるチャンスなのに、これではまともに会話すらできずに休憩時間になる。

 どうしようと考えている間にブーッとオーダーの紙が流れてきた。それを千切り、トランシーバーに手を伸ばす。


「……飛間、オーダー追加きたけど俺行く?」


「いいよ。ついでに行ってくるから」


「あ、おけ……205号室、オレンジジュースと烏龍茶。アイスで」


「了解」


「あっ」


「ん、なんか言った?」


「ちょっと話したいことあって……早く」


 オーダーを任せたくせに早く降りて来いだなんて、自分でも横暴だと思う。


「……これ終わったら降りるよ」


 一瞬の沈黙のあとに聞こえた、飛間の穏やかな声。なぜか目の奥が熱くなった。


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基本的にBL書いてます。

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