38
隠し部屋の外、兵舎の入り口を兵で固めて、狂った使用人や外からなだれ込む奴隷たちの猛攻をなんとかしのいでいる。
貴族の人たちは冷たい床に座り込んで時が過ぎるのをただ待ってる。
パレントさんたち、どうしてるかな。
-
「では、バルコニーに出るよ。みな気を引き締めてくれ。」
パレントが展望室から外に出るや否や、正確無比のマジックショットがパレントの眉間に刺さらんとしていた。
懐刀を抜きマジックショットをはたき落として、柵に駆け寄り飛来した方向を確認する。
「なんてやつだ。姿ももうない。ただ距離が遠くて助かっているな。反応はでき。」
突如としてパレントの目の前に男と女がひとりずつ、マジックショットを構えて現れた。
「な!?」
「ニセモンかよ。」
パレントに魔法の矢が放たれた。
「ち、そっちも光の空持ちかよ。」
「村長、恩にきる。」
「じゃあここに用はねーな。」
「くそ、どこに飛んだか。」
「パレントさん、行きますよ。」
パレントとキエフが護衛を置き去りにしてバルコニーから消えた。
男と女はもうひとりの女がいる場所に転移していた。
「これから兵舎に突入する。お前はここで無属性と遊んでいてくれ。いくぞ。」
「わかった。」
「・・・。」
空間魔法を使う女は黙って男のそばにより、魔法を唱えた。
「いってらっしゃーい。ご主人様ー。帰ってきたらお帰りのチューねー。よおし、頑張っちゃうぞ。」
女の首筋に手刀が入る。
気を失い倒れ込むところをキエフが抱えた。
「村長、その手際と身のこなし、まさかとは思いますけど。キエフといえば帝国の。」
キエフに続いて暗がりからパレントが現れ、キエフをじっと観察している。
「ご想像にお任せしますが、エクシル君をはじめ、ゼコン村の人たちを私は愛しています。これだけは真実ですよ。」
「ふふ、急にミステリアスになりましたね。味方なら頼もしいことこの上ない。おそらくこの女が無属性を操っていた張本人。次に奴が向かった場所は私でもわかります。村長、急ぎましょう。」
パレントが倒れている女をチラリと見た。
「ええ、何かあれば奴らはここに戻ってくるでしょうけど、この女はここに置いておきましょう。」
「経験ですか?」
「ええ。おそらく彼女、貴重な存在ですから。それに、こうしておいた方が都合がいい。さて、行きますか。やつの弓はとんでもないですからね。」
キエフが倒れている女の額を触り、何か施しているように、パレントからは見えた。
パレントが冷淡に微笑む。
「うちのとんでもないのと、どちらが勝ちますかね。」
「そりゃ、言わずもがなではないですか?対策をちゃんと練らないと、私でも危ういですよ。何度も立ち上がり向かってくる精神力は大したものです。さあ、子どもたちの勇姿を見に行きましょう。」
-
猛攻していた使用人たちが急にふらふらとして目が虚になり、その場で昏倒する。
「陛下!使用人たちの攻撃が止まりました!みな気を失ったように倒れていきます!」
「よし!やったかパレント!でかした!」
その兵の前に、男の人と女の人が突然現れた。
「よーう兄弟。くふふ、死ね!」
マジックショットが護衛のひとりの鎧に刺さる。
「ちっ、空間魔法か。スカイル、誰に教わった。俺がお前に空間魔法を教えないように手を回していたのによ。」
「貴様のせいだったのか!しかし残念だったな!こうして私は魔法を使える!」
スカイル様の後ろで、あっ、と女の人が声を上げた。
エリザ様の顔色が悪い。
「まさか!其方が、そんなはずは!」
エリザ様が指さす方向は、空間魔法を使った、あの人は!黒い女の人!
「契約なら、とうの昔に消去しましたよ。エリザ王妃殿下。」
男へと兵が果敢に挑む。
だめだ、空間魔法で簡単に逃げられる。
「上にいた奴は囮だろう?奴隷が止まっちまってるところ、うまいことやられたようだが。しかし、俺の勝利は目前、まさに王手だ。食いやがれ、屠龍!」
赤い光が男の人の構えた手に集まる。
黒い女の人がスカイル様を掴んで王様から遠ざける。
王様は逃げることができないのか、敵に後ろを向けることを良しと思っていないのか、動かない?動けない?
周りの人たちも男の技に圧倒されてるのか、ただぼーっと男の人を見てるだけだ。
「父上!」
スカイル様が王様の前に転移してきた。
黒い女の人はスカイル様を離して自分だけ即座に転移し、同時にスカイル様の前にノーラさんが手足を伸ばして立ちはだかり、屠龍をその体で受け止めようとしている。
「スカイル殿下!」
「だめ!」
僕は走った。
間に合え、ノーラさんの前だ。
「もろとも消えちまええええ!」
―
赤い光の柱のようなものが王に向かって真っ直ぐ、射出された。
その光の柱に何本かの光の矢が生き物のように付き従い標的へと飛んでいく。
王の前、スカイルの前に立ちはだかるノーラの顔が赤い光に照らされた。
恐怖のあまりに顔だけ避け、目を瞑る。
これで終わり、かな。
少しはスカイル様の役に立てたなら、嬉しいな。
そう死を覚悟した彼女に、男が放った光の柱が当たることはなかった。
恐る恐る目を開ける。
目の前に誰かいる、小さい影、誰?
屠龍の光の柱を両手で押さえている影をノーラは確かに見た。
周りからしたらほんの一瞬の出来事なのかもしれないが、ノーラにとってその目の前の光景は、とても長い時間に感じられた。
小さな影が後ろに吹き飛ばされ追尾の赤い光がその小さな体を貫通する。
全ての光が消えた。
影の持ち主は震える体で立ち上がり、男と全く同じ構えをした。
体から口から、血が流れている。
「屠龍。」
静かに唱えられた同じ技の名前。
赤い光が構えられた手に集中し、男から放たれた屠龍と同じものが形成されていく。
「な、なぜ、何故それが使える!!」
年端も行かない子どもに自分と同じ技を使われた挙句、溜められた赤い光の柱を見せつけられ、男は狼狽えた。
生き残りの結界師がふたりをここぞとばかりに限定領域に閉じ込める。
「くそ、俺より小さなその一撃だけで、俺を倒せると思うなよおおお!」
子どもの頭上にある光の玉が強く発光する。
「百花、繚乱。」
エクシルの手にあるものと全く同じ形状のものが、何本もその小さな体の周りに火花を散らして花開く。
「な、に・・・?」
限界まで引かれた弦を放して矢を射るように、右手を離す動作をした。
小さな体の周りにある幾つもの屠龍が男に向けて放たれた。
屠龍が触れた場所からは百花繚乱の効果で爆発が起こり、兵舎内が轟音と激震に見舞われる。
爆発に耐えきれず限定領域が、ガラスが割れるように強制的に解除され、爆煙が周りにいる者たちを襲った。
爆発も爆風も振動も全ておさまったはずだが、耳からまだあの轟音が離れず、目だけが正確な情報を伝えていた。
赤く染まった地面のすぐ近くに少年が立ち尽くしているのが見える。
標的となった男は姿形もなく、まるで最初からそのような存在はいなかった、とさえ思えるほど、跡形もなく消し飛んでしまったようだ。
いち早く我に返った黒装束の女は、震える足を鼓舞して自らを転送させ逃走した。
黒装束の女と入れ替わりにパレントとキエフが転送で帰ってきた。
-
「すまない、使用人たちを操っていた魔術師は見つけて無力化したんだが、男の方は逃してしまった、が。これは・・・。エクシル、大丈夫かい?回復しよう。」
男の人がここに来たのに気がついたみたいだ。
パレントさんの唱えた回復魔法に包まれた。
「うん。大丈夫。パレントさん。」
「何だい?」
「僕、人を殺した。」
パレントさんが床に広がる血を見た。
「・・・そうだね。敵を殺して、何人も犠牲にして。人から恐れられて。無理をして全部受け止めなくて良い。私もエクシルと同じ。たくさんの人を殺めてきて恐れられた。でも今はひとりじゃない、みんなと戦ったんだ。みんなもエクシルと同じ分だけ、悲しい気持ちになっているはずだ。おいで、こういう時はこうするのさ。」
無言のままパレントさんに近づいて、抱きしめられた瞬間、僕は泣いてしまった。
「よしよし。」
僕の頭を優しく撫でる手を感じる。
僕の頭をわしゃわしゃ撫でる人がいる。
パレントさんから少し離れて顔だけ振り向くと、王様がいた。
「よく、よくやってくれた。すまない。こんな目に合わせて、すまない!」
「う、ぐ、うわあぁぁ。」
王様がパレントさんから譲り受けるように僕を強く抱きしめて、僕も強く抱きしめ返した。
王様、僕のために泣いてくれてありがとう。
思い切り泣いてしまった。
「立てるか、エクシル。いや、立ってくれ、ここにいる全て者のために。いつまでも泣いてはおれん。ここを立て直さなけらばならない。街の被害も見なければ。スカイル!行けるか!?」
王様はすごい。
すぐに人のために動く。
僕はまだ、涙がおさまらない。
「ええ、父上、いつでも!」
王様とスカイル様が行き先について話してる。
ノーラさんが僕にまた着替えを持って渡したあと、何かを決心したのかスカイル様の方に向いた。
「あの、スカイル殿下!私も護衛としてお供を。」
「ああ、来てくれてノーラ。君は私の命の恩人だ。陛下と共に被害状況の確認だ!」
「はっ!!」
王様とスカイル様とノーラさんが3人して空間魔法で飛んでいった。
急にロビンが僕の手を掴んで、僕は少し驚いてしまった。
「また、凄いのが出てきたな、エクシル。その光の玉魔法を食っちまうんだな。」
「うん、そう見たい。赤いから多分光の赤の魔法、こっちは色の紫の魔法を食べるみたいなんだ。食べられる量も決まってるみたい。」
ロビンが玉を観察してる。
「あとあれ、屠龍と百花繚乱の、技と技の混ざり合い、あれこそ融合ってやつだろ。同じ属性、だよな、同じ属性同士なら技は融合できんのかもな。にしてもすげー威力だったな・・・。俺まじでビビった。しょんべん漏らすかと思ったよ。」
ロビンが少し内股になってるってことは、そういうことなの?
「そんなことが起こっていたのかい?!屠龍か、ドラゴン殺しなんて傲慢な技名だね。男の人柄を表しているようだよ。」
「うん。」
「その技を覚えるにとどまらず、技と技を混ぜ合わせて威力を昇華させてしまった、と。」
また人を化け物みたいな目で見ないでよ、パレントさん。
もう何度目かも忘れたけど。
いきなり、僕の体が回復魔法に包まれた。
「セシリア、ありがとう。リタさんもエリザ様も。・・・エリザ様?」
「エクシル、わたくしとの約束は覚えておりますわね?」
あ、うん。
「陛下も今日は戻らないでしょうし、部屋も廊下も散らかってしまっておりますわね。貴族たちの泊まる部屋を確保しなければ。わたくしもやらなければならないことがありますので、これで。エクシル、約束は絶対ですよ!行きますよ、ヨシュア。」
「はっ。王妃殿下。エクシル、また後でな。手伝える者は来てくれ。」
慌ただしくエリザ様とヨシュアさん、ヨシュアさんが集めた兵が外に出て行った。
他の兵の人たちも王宮の方に行ったりして片付けを始めるみたいだ。
貴族の人たちを外に誘導してる。
「さて、我々はどうしましょうか。ここにいても邪魔になるだろうし、街の宿は満室でしょう。王宮は使用人たちが転がっているでしょうし。あまり見たくない見せたくないものも。・・・野営でもしますか?」
「野営でございますか?!わたくし、初めてでございますので是非!」
マリー様が即座に反応して目を爛々と輝かせてる。
そんなに珍しいこと、か。
マリー様にとっては。
「おいマリー野営は大変なんだぞ?服も汚れるし、その、しょんべんも外だぞ?良いのか?」
「良いも何も、この兵舎に来る前に旦那様がわたくしに片時も離れるな、とおっしゃられたではありませんか。旦那様は野営されるのでしょう?わたくし、どこに行くでもついて行きますわ。旅に出るならわたくしも一緒です。メリーも。もちろん節度も弁えて。」
腰に手を当てて怒ったり、口元を両手で覆って恥ずかしがったり、ロビンの前だからこそ見せる素振り、て感じだ。
隣の人形のように立ってるメリーも、見方によってはしらけた感じに見えなくもない。
「そーかよ。それじゃ村長、野営しようぜ。」
セシリアがマリー様の手を取った。
とても嬉しそうに。
「ふふ、新しい仲間が増えたね!改めてよろしくね、マリーちゃん。」
「セシリア、ちゃん、よろしくお。よろしくね!」
「お互い怪我の絶えない旦那を持つと大変ね。」
「「ねー。」」
リタさんも加わって早速意気投合してる。
「それじゃあ、ちょっと不安だからマリー殿下の護衛にもついてきてもらおうかな。お願いします。よし!川の近くで野営をしようか。それじゃあみんな手を繋いで。光の空、転送。」
川が近くに流れてる。
もう夜だけど街の方から光りが溢れてきて明るい。
「さて、食事にしようか。私の収納魔法にはこういう時のためにいろんなものが入ってるんだよ。火も、もう付いてるね、少し炙って、さあご賞味あれ。」
村長の肉ー。ん?あれは?影?魔獣か?!
エクシル(所持金:82ガルド500ジルバ)
種族:人間
階級:銅
武器:ホークアイ
属性:無 (光赤黄、色紫空赤)
才能:融合、学習
技法:・威風 ・消失 ・赤い玉 ・紫の球
覚えた技
・光
赤:百花繚乱、屠龍
黄:サジタリウス
・色
紫:パイロクラスティックフロウ
空:アブソリュートゼロ
赤:シールドブロウ
TOFの弓の人です。
もうこれしか出てきませんでした。




