35
兵舎につくとノーラさんが着替えをすぐに持ってきてくれた。
剣を置いて、今着てる服がどうにかならないよう慎重に脱いで、使用人にスカイル様のものであることを伝えて渡す。
ノーラさんから持ってきた服を渡された。
「その服は王族の方々と剣の稽古をする時にお召しになられる服だ。動きやすいだろう。私も大きさは違えど来ている服は変わらないものだ。」
装備を取ってわざわざ中に着ている服を見せてくれた。
重そうな鎧からは想像がつかないほどの体つきだった。
出るとこは出てて、細いところは細い、筋肉もすごい。
僕があの腕にぶら下がっても全然平気なんじゃないかな。
そういえば腕に切り傷がいっぱいある。
ノーラさんはセシリアの可憐な、とかリタさんの妖艶な、とかではなくて、健康的なかっこいい美人といった感じだ。
スカイル様がこれに気が付けばな、気が付かないだろうな、あの王子様。
「早く着替えて護衛に戻れ。」
そうだった。
急いで服を着替えた。
胸にいんしぐにあを付ける。
「これ、返す。」
「これは練習用の剣か。ああ、預かろう。ただ護衛が丸腰ではな。この素振り棒は持てるか?」
あの焼けた素振り棒より少し長めで重い素振り棒だ。
「持てるよ。ありがとう。それじゃ。」
あ、待った。
「みんなはあの挨拶の後どこに行くの?」
「客人のもてなしは我々と使用人で行うが、陛下は謁見の間におられる。王妃殿下は自室におられると思うぞ。」
「場所がわからないんだ。」
「・・・そんなので護衛が務まるのか?」
だってスカイル様が飛ぶんだもん。
「連れて行ってやろうか?」
「うん。」
ノーラさんと一緒にエリザ様の部屋を目指した。
途中何人かの使用人とすれ違い、挨拶をして分かれるけど、この中のどれくらいが協力者なのか全くわからない。
全員が協力者として見た方がいいのかな。
でもそれだと、もう王様たちを守り切れるのだろうか。
「いろいろ思案しているようだな。」
「あ、うん。」
「もうすぐ着く。王妃殿下の前では自分の不安を押し殺せ。王妃殿下の不安をまず第一に消せ。いいな。」
「うん、ありがとう。」
コンコン、とノックして中から声がするまで待つ。
「何者だ。」
中から声がした、あの護衛の人だ。
「エクシルです。」
「入れ。」
ドアを開けて中に入ると、エリザ様は朝の宣言の格好からもっと身軽な格好に着替えてる。
「あら、あの服を脱いでしまったの?」
「うん、護衛するのには向いてないから。」
あんな服着て何かあったら僕の首が飛ぶ。
こっちの命がいくつあっても足りないよ。
「残念ね。あのままの格好で舞踏会にいてもらおうと思っておりましたのに。まあ、もう見てしまいましたから、其方がそのどのような服を着ていようがわかりますでしょうが。」
それって舞踏会の時に話しかけられたりするんだろうか。
「それじゃ護衛が。」
「いや、かえってやりやすいかもしれん。」
なんで。
「貴様に貴族が群がれば警戒する対象が絞られるだろう。舞踏会の雑踏に乗じて陛下の命を狙う、と言う手が使えなくなるかもな。エリザ様の周囲は我々で警戒する。貴様はどのお方からも離れるようにして構えていてはどうだ?」
貴族の相手を僕ひとりで?無理だよ。
「ひとり?」
「ああ。」
「どうしてたらいいの?」
「先ほどのように優しく微笑んでいれば良いだろう。」
どのくらい長い時間やらなきゃいけないんだろう。
「なにも最初から舞踏会場にいなくても良いだろう。最初は会場の外、終盤あたりに会場の中に入れば良い。その間に怪しいものの目星はつけておくさ。例の貴族とよく接触する者などな。」
そうか、ずっと王族についてることはないのか。
それに舞踏会を経験してる人の方が雰囲気に飲まれなくて済む。
僕は多分飲み込まれちゃうだろう。
「舞踏会は日暮れからはじまり、夜遅くなる前に閉会する。日暮れまでは今日王宮に着いた貴族たちの旅の疲れを癒していただく時間だ。私の魔法でこの部屋の外の警戒はしている。また散策でもしてきてはどうだ?」
「迷うからここにいる。」
椅子に座ってこちらの様子をずっと窺ってたセシリアとリタさんの近くに行った。
僕はやっぱりこの2人と一緒にいた方が安心できる。
「やっと、2人のとこに戻ってきた。」
「エクシルぅ、なんで服脱いじゃったの?」
「かっこよかったわよ?そのまま拐っちゃいたいくらい。」
このー、言いたいこと言ってー。
「今度、セシリアもリタさんも王族の服着せてもらいなよ。」
「それはちょっと。」
「恐縮するわよ。」
僕もおんなじ気持ち。
エリザ様が何か読み物を始めた。
僕らも魔術書を開いて読書を始める。
使用人たちが食事を部屋に持ってきたり、途中で衣装を変えにエリザ様が着替えるので部屋を出たりして、時間が過ぎてそろそろ舞踏会の時間だ。
エリザ様が立ち上がる。
僕らもそれを見て立ち上がる。
これから本番だ。気を引き締めていこう。
パレントさんもロビンもちゃんと護衛ができるだろう。
僕の護衛次第だ。
-
初めの予定の通り、舞踏会場についたらセシリアやリタさんと離れ外の護衛につき、エリザ様から離れて貴族の監視に当たった。
外には護衛に選出されなかった兵が沢山いる。
ノーラさんもいたけど任務に集中しているようだ。
会場内に貴族が集まっていく。
途中、朝の時の僕に気づいた貴族もいたけど、会場内に入らなければいけないから捕まって質問攻めとかにあうことはなかった。
会場内では音楽が鳴り響く。
人が集まるに連れて話し声や笑い声も大きくなってきた。
最後に来た貴族の男の人がチラッと僕を見た。
何もなく、会場内に入っていく。
すると音楽が止んで話し声もすぐに聞こえなくなった。
誰かが話してる、この声は王様か?
集まってくれてありがとう、存分に楽しんでくれ、そんなこと言ってた。
また楽しそうな音楽が流れ始めた。
中の様子はどうなってるんだろうな。
-
「よお、陛下。久しぶりだな。」
「っ!!貴様!」
大きな声を出さず、絞り出すように王が目の前の貴族の男に対して声を出した。
「昨日の余興は素晴らしかったな。外にいるやつがキマイラにとどめを刺したやつだろ?陛下も人がいいな。それに余興を今年限りにしちまうなんてな。俺ならもっと、もっと見ていたいがな。腐るほどいるんだ。毎日でもやっていたい。」
パレントが王の背後に立ち貴族の男の様子を窺う。
「ふふふ、なかなかの護衛をつけているな。兵はそうでもないが、ここには似つかわしくない冒険者は、なかなかの手練れだな。俺は別にここでは何もしないさ。この景色、家族の顔、よく見ておくんだな。王は2人といらない。陛下、貴様に代わって俺がその役目必ず貰い受けよう。さて俺も、舞踏会を存分に楽しませてもらおうか。」
王はただ黙って、舞踏会が台無しにならぬよう男の声を浴び続けた。
背後にいるパレントは、この王国には去って行ったあの貴族の男は不要で、争いごとの火種になる忌まわしき存在となることを直観していた。
どうにかして消さねばならないが、去って行った先の他の貴族からの歓迎ぶりなどを見ていると、ただ闇に葬るだけではいつか他の貴族からあの男を消したことがわかってしまい反発反感を買い今の王政が瓦解してしまうだろう。
パレントは、ここでは、と言った男の言葉を反芻し、あと12日の間に仕掛けてくる何かから王を守り切ることを心に誓った。
「陛下、今は楽しみましょう。難しい顔をしていては他の貴族から訝しがられて評判を落としますよ。」
「ああ、わかっておる。」
少し離れて貴族の婦人たちに囲まれたエリザもその様子を見逃すことも聞き逃すこともなかった。
協力者は、今エリザの近くにいるあの男を婿にとった婦人か、それともまた別の者か、ここにいるのかいないのか、護衛に目で、しっかり見張れ、と目で合図を送っていた。
スカイルの周りでは次期王妃の座を争いマウンティング合戦が繰り広げられている。
ロビン、セシリアは合間を見てデーブルの上に広げられた料理を口に放り込んで楽しみ、マリーは周りに集う令嬢たちと男のタイプについて盛り上がっている。
リタは貴族たちからの軟派な声かけには全く応じず、食事の貢物には手を出す姿を見た同じ年頃の令嬢たちが、おこぼれに預かるハイエナのようにリタのナンパに失敗した男たちをさらっていく。
「ここでもプレート自慢なのね。薄っぺらで見せかけの金より、ずしり重い本物の銅の方が価値は高いわ。」
エクシルはこの部屋の中のことなど露知らず、漏れてくる音楽に耳を傾けながら外で呑気に護衛と称して廊下にただ立っていた。
-
何時間経ったのかな。
中から女の人、大人から子どもまで、子どもが圧倒的に多いけど、出てくる。
男の人は、出てくる人はいないみたいだ。
もうそろそろ終わるのかな。
外に人が増えるなら、僕は中に入った方がよさそうだ。
一度誰かがで始めると、次から次へと出てくる出てくる。
出てくる人の波で中になかなか入れない。
いつの間にか、女の人に囲まれていた。
「あなた、今朝王妃殿下の隣にいた子よね?」
「格好は全く違うけれども、顔は変わらないもの。とてもこの世のものとは思えないほどの造形美だったわね。」
「あなた、王妃殿下とどんな関係なのかしら?」
質問が後から後から湧いて出てくる。
こういう時は笑顔で。
あれだけ騒がしかった女の人たちの声がやむ。
この隙に!
ああ!と口惜しそうな声が聞こえてきたけど振り向かないで会場内に入りエリザ様を探す。
いた、護衛の女の人が近くにいる、そばに近づく必要はなさそうだ。
さっきみたく寄ってこられても迷惑だろう。
セシリアは、食べてる、片っ端から甘いものを。
リタさんは、男の人に囲まれてるな。
ロビンはマリー様の近くにいて、村長とパレントさんもそれぞれつくべき人に付いている。
リタさんの方に行こう。
「リタさん。」
話しかけようとすると貴族の男の人?リタさんよりは歳上?が僕の前に立った。
「おい、今この私がこの麗しき女性に話しかけているのだ。邪魔をするな。それとも、私よりもこの女性に相応しいとでも?こんな子どもを相手にするわけがなかろうが。」
あーうん。
セシリアはまだしも、リタさんが契約してくれたのには少し不思議な感じがするよ。
「護衛だよ。」
「ほほう、そうか。護衛か!ますます腹ただしいな。貴様のようなお子様に一体何ができるのか?!」
声が大きいな。
みんなこっち向いてるよ。
エリザ様も、護衛の女の人は、頭に手を当てて何やってるんだって感じを出してる。
ごめんなさい。
「どこを見ている!」
怒ってる男の人からリタさんの方を横から見ると、自分でどうにかしてみなさい、と言わんばかりに口角が上がって僕を見てる。
はー、こういう時は。
「どこへ行く!はは、諦めたか!」
エリザ様の隣に立って笑顔。
手を振る。
「あ、ん?今朝王妃殿下の隣にいた、美少年・・・っ?!」
視線が僕に集まった後、男の人へと刺すような視線が集まった。
「うまいな。」
護衛の女の人がひそひそと褒めてくれた。
王妃殿下が僕の肩に手を置いた。
「な、王妃殿下の、近しい間柄なのか?!」
男の人がビクビクし始めた。
エリザ様に軽くお辞儀してまたリタさんに近づく。
「な、なんだよ。」
さっきの勢いはどこへ行ったのだろう。
男の人の横からリタさんをジト目で覗く。
なんだか嬉しそうな顔してるよ。
男の人はもう僕を止めるつもりがないのか、男の人をかわしてリタさんの目の前にたった。
「中、入らない方が良かったかな。外、質問で大変だったんだ。お腹も。」
「なら、仕事の途中だけど一緒に取りに行きましょ。」
リタさんは周りの男を押しのけるようにして料理の並ぶテーブル目指して進み始めた。
僕のそれに続く。
け、なんだ?少年が趣味かよ、そんな吐き捨てるような声が後ろから聞こえる。
うーん、言ってることあながち間違ってないような気がするから複雑。
「セシリア、よく食べるね。」
「あ、エクシル。うん。魔法使うとお腹減るからね。」
「え?使ってるの?」
「うん、エクシルにアナライズと。」
セシリアが耳打ちした。
「怪しい人にもアナライズ。リタさんもしてると思うよ。バレないようにかけるの大変なの。声とかわからないけど、誰の近くにいるとかはわかるから。」
なるほど、ちゃんと仕事をしてたのか。
僕は外でただ立ってるだけだった、恥ずかしい。
「セシリア、すごいね。」
セシリアが顔を赤らめてモジモジし始めた。
「リタさんも。」
「うふふ、すごいでしょ?あたしたち。」
セシリアが僕の腕を掴んだ。
「今夜は寝かさないんだから。」
囁くように言ったセシリアのセリフに、僕は凍りついた。
「ご、護衛の仕事あるから!」
「まあ、そうね。セシリアちゃん、護衛の仕事が終わったら、エクシルを存分に楽しみましょ。それまでガ・マ・ン♪」
楽しまれる側としては一体何をされるのか気になるところだけど。
王族を見渡してみんな異常がないことを確認して手前にある料理をつまむ。
すごく視線を感じる。
舞踏会が始まる前に感じたものと同じ視線だ、ぞくぞくする。
「あの男よ。対象は。」
リタさんの視線の先に、こちらを向いている男の視線とぶつかった。
「嫌な、感じ。」
音楽が止んで誰かが手を叩き始めて、会場中に広がる。
王様が挨拶をして、舞踏会はとりあえず何事もなく終わり、貴族が会場から出て行った。
「あやつは、何を企んでいるのだ・・・。」
会場を後にして王都の外に出た男は、待っていたのだろうひとりの女性に近づくと、抱き寄せてキスを交わす。
「そろそろ全ての奴隷に行き渡る頃だ。明日の夜に決行しよう。我々が夢見た夜明けをようやく臨むことができる。」
再度、またキスを交わした男女は夜の闇に消えて行った。




