番外終 永遠の愛
「・・・・・・ねえ、本当に良かったの?テラ」
月の王国から帰還し、王都の前の高台に二人は居た。マナは浮かない表情でテラを見詰める。
一方、テラは話の意図が見えないのか、きょとんっとしている。
「うん?何が?」
「自分の能力を封印してしまって・・・。それは・・・」
「ああ・・・なるほどね・・・」
テラはようやくマナの言いたい事を把握した。ふっと微笑むと、マナを抱き寄せた。
マナもテラの背に腕を回し、抱き締めた。
「・・・・・・テラ」
「確かに、僕にとって破壊と創造の権能は僕の大事な一部だ。この能力のせいで多くの苦悩を味わう事もあったけれど、それでもこの力のお陰で守れた物もあった」
「なら・・・」
「でも、例え封印した所でこの力が無くなる訳じゃない。僕が僕でなくなる訳じゃないんだ」
テラはマナを優しく抱き締め、背中をそっと撫でる。マナは思わず涙ぐむ。
———ああ、やはりテラはテラだ。あの時と何も変わらない。
マナの脳裏にかつての記憶が蘇る。
・・・・・・・・・
豊葦原瑞穂国———神域の森。
森の奥深くにある開けた場所に、まだ幼いテラとマナが居た。二人共、本当に楽しそうに笑っている。
「ねえ、名無し君・・・貴方は私の事・・・好き、かな・・・・・・?」
「うん?んー・・・・・・うんっ!!大好きだよ」
もじもじと赤面しながら問い掛けるマナに、テラは屈託の無い笑みで頷く。その返答に、マナはぱあっと花が咲く様な笑みを浮かべてテラに抱き付く。
テラも満面の笑みで、マナを抱き締めた。
「ありがとうっ!!私も貴方の事が大好きだよ」
「うん・・・・・・僕も君の事が大好きだ。きっと、ずっと変わらずに大好きだ!!」
・・・抱き締め合う二人。それは、余りにも純粋な恋だった。純粋すぎる恋だった。
そんなある日の事。
「痛っ!!!」
「っ、名無し君!?」
テラが大木から落下し、軽い怪我を負った。マナが慌てて駆け寄る。テラは額から血を流していた。
その血を見て、マナは動揺する。しかし、そんなマナをテラは笑って宥める。
「大丈夫だよ・・・。もう治っているから」
「えっ?」
「ほら・・・」
確かに、既にテラの額の傷は無くなっていた。その不可思議な現象に、マナは更に動揺する。
「えっ・・・これは?どういう・・・・・・」
「・・・僕はね、不死者なんだよ」
テラは苦笑を浮かべて言った。マナはきょとんっとした顔をする。
「・・・えっ?不死者?」
「うん、僕は死なないんだよ。ほらっ」
テラは額の血を腕で拭い、笑った。額には、やはり傷は既に無い。
死なない。不死者。その単語を聞いて、マナはしばらく放心した後に心配そうな顔をした。
「名無し君は・・・辛くないの?」
「うん?」
「・・・死ねなくて辛くないの?」
その発想は、当時まだ幼かったテラには無かった様でしばらくきょとんっとした。しかし、すぐに屈託の無い笑顔でマナを抱き締めた。
「大丈夫だよ。僕は僕だ、辛い事があってもきっと、乗り越えられる筈さ」
余りにも純粋で屈託の無い笑顔。
大丈夫。その言葉にしばらく呆気に取られた後、マナは満面の笑みで頷いた。
・・・その後、テラと別れてマナが城に帰ろうと空間の亀裂に近付いた瞬間。
ビキキッ!!!
空間の亀裂が更に大きく広がった。徐々に亀裂は広がり、ゆっくりと世界の境界が破壊されてゆく。
その光景に、マナは驚く。こんな事は初めてだった。
慌てて天照達神々が現れる。空間の亀裂を見た瞬間、全員が顔色を変える。
「こっ、此れは!!?」
「姉ちゃん!!急いで境界を修復するぞ!!!」
「待って下さい!!その前に、この娘を何とかしなくては!!」
月読の言葉に、天照と須佐之男ははっとしてマナを見る。マナは不安そうに三貴神を見る。
天照は真剣な瞳で、マナを真っ直ぐ見据える。
「良いですか?良く聞いて下さい」
天照はマナに真実を告げた。
この亀裂はマナの能力による物である事。マナの能力の制御がまだ甘い事。そして、それ故に現在能力が暴走している事を。
「そ、そんな・・・・・・」
「今から能力を封印します。けど、その際貴方はこれまでの記憶を失う事でしょう」
覚悟は良いですか?と真剣な瞳で問う天照。びくっとマナは肩を震わせる。
テラと別れたく無い。大切なテラとの記憶を失いたくない。しかし・・・。
マナの脳裏にテラの笑顔が浮かぶ。あの日向の様に暖かな笑顔。
———辛い事があってもきっと、乗り越えられる筈さ。
「・・・分かりました、お願いします」
その返答に、天照はふっと笑みを浮かべる。
「大丈夫です。強い想いがあれば、また再び二人を引き合わせてくれます。信じなさい、再開の時を」
マナを暖かい光が包み込んだ。
・・・・・・・・・
「マナ?マナ?」
「・・・えっ、あ!!な、何?」
気付けば、マナの顔をテラが覗き込んでいた。どうやら、少し考え込んでいたらしい。
「・・・・・・いや、何か物思いに耽っていた様だから」
「そ、そうですか・・・?」
「そろそろ帰ろう」
そう言って、テラは高台を降りていく。マナはその後ろ姿を見て一言———
「テラ、貴方に永遠の愛を誓います」
「・・・うん?何か言ったか?マナ」
「いいえ、何でもありません」
そう言って、マナは笑顔でテラの後ろを付いていった。マナもテラも、その口元は微笑んでいた。
ついに完結しました。




