首輪とメンテナンス
警察庁特殊犯罪捜査課には、それぞれの班に一人ずつ吸血鬼が所属している。
戦闘能力の高い吸血鬼を相手にするには、同じ吸血鬼を使うのが一番効率が良く、制圧・逮捕の成功率も高いからだ。
だが、同族を狩る猟犬を飼い慣らすためにも、保険は必要だ。
万が一にも、その猟犬が暴走した時の矛先が自分たちや市民へと向かないよう、制御するための首輪を必ずつけろというのが、上層部の考えらしい。
「これ、嫌いなんだよなぁ」
その首輪代わりのものーー鼻から下の顔面を覆うマスクと、首につけられたチョーカー型の装置をいじりながら、第3班の吸血鬼ー冴島 大和は膨れた。
ちなみに、マスクは匂いを遮断するため、チョーカー型の装置はいざとなった時の“制御”装置だ。
ここは警察本部の地下にある、吸血鬼用医務室。
その一室で、一条、桜、花巻、そして冴島の4名が出動の準備をしていたのである。
「大和、文句言わないの。所属の吸血鬼はみんな着けるっていう規則なんだから。それに、かっこよくていいじゃない!顔の半分が隠れて隠密機動みたいよ?」
保険となる装備を大和につけながら、花巻は彼を嗜めた。
その口ぶりは、まるで幼い子供に言い聞かせるようなものだ。
鏑木の前や緊迫感のある現場では、彼女はクールな班長の印象が強かったのだが、こうしてみると面倒見の良いお姉さんのように見える。
おそらく彼女の素はこちらなのだろう。
合同捜査としては初めて組む班長なので、一条はまだ彼女に対して距離感を測れずにいた。
そんな班長のよいしょを持ってしても、大和の不機嫌は治らず、ぶすくれたままだ。
「つーか、何で俺だけコレつけなきゃいけないんすかー?吸血鬼なのはそちらさんも一緒でしょ?不公平っすよ」
大和が指を刺した先は、防弾チョッキを着ようとしていた桜。
確かに桜は大和と違い、マスクをしていなければチョーカーもつけていない。
「鏑木課長が決めたことだしね。特例措置なのよ。水無深さんは鬼狩りは長いけど、暴走したことはないらしいじゃない?」
「…えぇ、まぁ」
一条は桜がいつから鬼狩りを務めているのかは知らない。
だが、鏑木とは古くからの付き合いだという。
吸血鬼のチーム入りを真っ向から反対した時に、反論として言われたのは、「彼女は鬼狩りを務めてから数十人の逮捕者を出したが、それまで暴走したことがない」という事実だった。
「でも、私は一条さんがつけろというなら、つけますよ」
にこにこと笑いながら、桜は背伸びをして一条の顔の前にチョーカーとマスクをぶら下げる。
一条の額に青筋がたつ。
漫画で言うところの“ピキッ”だ。
本当にこの吸血鬼は、人の神経を逆撫でるのが得意なのだろう。
この笑顔を見ていると、意味もなくイラついてしまう。
「いらん。暴走した時は俺が殺してやる」
100%嫌味のつもりだった。
そして、本心だった。
なのに。
「はいっ!!」
目の前の吸血鬼は一条のその一言を聞いて、さらに満足気にニコニコと笑うのだ。
(イかれてんのか、こいつは!!)
理解できない、頭が痛い。
本当に自分が殺されることをわかっているのか、コイツは。
(それとも、俺にはできないとたかを括っているのか?)
それはそれでさらに腹が立つ。
イライラが止まらなくなりそうだった一条は、落ち着きを取り戻すために、目の前のぶっ壊れた吸血鬼に対して考えることを辞めた。
「ほら、補血剤だ。さっさと飲んでメンテナンス行ってこい」
「はい!」
桜は一条から渡された補血剤を水で流し込む。
そして、健康状態・飢餓状態の確認や、赤血球数の簡易測定など、一連のチェックを行うため、医務官の元へとかけて行った。
特殊犯罪捜査課所属の吸血鬼は、この“メンテナンス”という作業を行わなくてはならない。
このメンテナンスは、月に1回は必ず実施し、さらに大きな事件で吸血鬼が出動する時なども行う決まりになっている。
理由は単純、吸血鬼の暴走を未然に防ぐためだ。
吸血鬼犯罪は多くの場合が、現場に血が流れている。
それを味方であるはずの吸血鬼が感じてしまい、暴走してしまったら元も子もない。
そのため、補血剤を服用し、赤血球数を調べて万全の体調を確認してから出動する規則になっているのだ。
これに関しては、桜も例外はない。
班長である一条の監視下で補血剤の服用を確認し、医務官のもとで検査を受ける。
そんなこんなで一通りのチェックが終了し、4人は装備を携帯して出動へと向かった。




