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第一班


初めまして。

nanacoと申します。

こちらの作品は、簡単に紹介するならば、

『両片思いの一筋縄ではいかない、切ない恋物語』です。

その他にも、ダークファンタジー、警察、社会派などいろんな要素を詰め込みました。

楽しんでいただけると嬉しいです!!


また、評価、ブクマ、メッセージ大歓迎です!!

励みになりますので、ぜひお願いいたします!!





太陽の落ちた夜の街。

影すら成さない黒の世界は、彼らの好む帳だ。



5月22日(金)


ウーーー……


ネオンで煌びやかに飾られた繁華街。

そんな大通りから1、2本ほど裏路地へ入れば、そこにはもう暗闇が落ちる。


そういう場所は、奴らの巣窟だ。 


廃れたビル、使っているのかもわからない倉庫、人の気配がないボロい民家。

どこもかしこも、明かりの一つすらついていない。

その中でも一際不気味な古いビルの周りを、その場に合わない真っ黄色のテープが張り巡らされていた。

テープには黒い文字で『KEEP OUT 警察庁』と永遠に続いており、一目で何か良くないことが起こったのだと判る。

規制線の前には、警備用のドローンが2体置かれていただけで、人の気配はない。

ーー彼ら以外には。


「一班、傾注」


テープの向こう側。

その場にいたのは、男性4名と女性1名だ。

そのうちの1人ーー精悍な顔立ちをした黒髪の男が、言葉を発する。


「これより、作戦行動を開始する。コトリ、状況を」


「はい。約2時間前、シン新宿区のアパートで、吸血痕のある女性の遺体が発見されました。近くの防犯カメラより、死亡推定時刻にアパートから逃げる男を検知し、マル被とみて身元を特定。男は新山(にいやま) 和寿(かずとし)、32歳。“鬼”で間違いありません」


コトリと呼ばれた彼女は、腕時計型の携帯端末から浮かび上がった情報を、スラスラと読み上げる。


「やはりか。ヨク、現場の状態はどうだった?」 


黒髪の男から呼ばれた少し小柄な青年ーーヨクは、後頭部の髪を軽く触りながら報告し始める。


「ん〜、遺体からはかなりの量が吸われていたのに、床にはほとんど血が溢れてなかった。まぁ、まず初犯じゃないだろうね。あと、吸血した量からして興奮状態は少なくともレベル3までいってると思うよ」


“レベル3“

最後の一言を聞き、メンバーの顔に緊張感が走る。

興奮状態のレベルが3以上ということは、制圧するにはかなり難易度が高いといえるからだ。

下手をすれば死人が出かねない。


「…よし。俺とアサヒは先遣、ヨクは退路を塞げ。ユキはスナイプポイントから援護しろ。窓を突き破る際は遠慮なく電気銃を使え。コトリは伝令だ」


「「了解」」


「本案件は二三〇五より作戦を開始とする。解散」





………………………………………





「ねぇ、そこの仏頂面した班長殿。“彼女”は作戦に呼ばなくていいの?」


23:00。

各自が持ち場につき、あと5分で突入というタイミングで声をかけてきたのは、茶髪で優しげな目元が印象的な同僚だ。


「課長に言われてたんだろ?“彼女”も連れて行け、って」


「マル被は一人だ。あいつの力を借りるまでもない」


「…ふーん。そっか」


言葉は納得していたが、その表情は不服そうだ。

それを見なかったふりをして、男はインカムで指示を入れる。


『総員、準備はできているな?これより、作戦開始とする』


後ろにいる同僚にアイコンタクトで合図を送り、携帯している拳銃のグリップを握りなおす。

時計の針は、作戦開始まで残り5秒を示す。

男は深呼吸を一つして、ビルの裏口の取手に手をかけた。


『…Go』


ギィー…と、立て付けの悪いドアの開く音が響き渡る。

対照的に、二人は足音一つ立てずに拳銃を構えたまま素早くビルの中へと入っていく。


『コトリより班長へ。サーモグラフィーカメラより新山の位置を特定。3階南側のフロアで間違いありません』


『了解。3階へ移動する』


後ろをついてきていた同僚ーーアサヒにハンドサインを送り、近くの階段から3階へと上がる。

取り壊し直前の古いビルは壁がすでに打ち抜かれており、コンクリートが剥き出しのほぼワンフロアとなっていた。

3階まで上がってきたところで、男は近くに積まれた段ボールの影から対象を確認する。


「……いた。あれか」


そこには、ひょろっとした男性ーー新山が、ケータイ端末に向かって何かを話しながら落ち着かない様子で右往左往していた。


「だから!!〜に伝えてくれ!!早くしないと捕まっちまうんだって!!」


かなり大きな声で叫んでいたが、相手の名前の部分はうまく聞き取れない。


「……相手は共犯者か?」


「もしくは逃亡を手助けする誰か、かな」


どちらにせよ、人をよばれる前に制圧しなければならない。


「どう見る」


「んー、相手は鬼だけど体格はそこまでいいわけじゃない。制圧するのは不可能じゃないと思う。でも、できればここで戦闘にはなりたくないね。床が抜けている部分があって危険だ」


コン、と床のコンクリートを軽く叩いてアサヒは男に目を向けた。


「こんなとき、“彼女”なら身軽だから戦えるだろうけどね」


呆れたような、ニヤリと笑ったような表情を浮かべたアサヒに、男は思わず眉を顰める。


「アイツの力は借りない。…というか、いつまでこの話を引きずるつもりだ!」


これ以上の追求は男の機嫌を損ねると判断したらしい。

もう言わないよ、と言わんばかりにアサヒは片手を上げた。


「…仕方がない。窓際まで追い詰めて、外からユキに撃ってもらおう」


「了解」


数十メートル離れた向かいのビルに狙撃手として待機している班員ーーユキに、男はインカムで指示を入れた。


『3カウントでいくぞ。ユキ、いいな?』


『……いつでも』


インカムの裏で、カチャリと電気銃を構える音が聞こえた。

皆が一堂に息を呑む。


「……3…2…1…Go」


「動くな、警察だ!!」


男は大きく声を張り、拳銃を構えたまま新山へと近づいていく。

少し遅れてアサヒが周囲に共犯がいないか確認しながら、男の後を追う。


「なっ!?こんなに早くなんて…」


近くに来てはっきりと認識できたのは、新山の虹彩が赤く変わっていたことだ。


(やはりレベル3まで落ちてるな)


「新山 和寿だな。吸血殺人容疑で貴様を逮捕する。…大人しくしろ、抵抗すれば撃つ」


ジリジリと追い詰めていくその先は大きなガラスの窓だ。

対象が窓から2mまで近づけば、ユキの狙撃可能範囲に入る。


(よし…そのまま大人しく下がれよ…)


だが、新山は男の希望通りには動かなかった。


「チクショウ!!あんな地獄(更生施設)になんてもう戻らねぇぞ、俺は!!」


あと射撃可能な範囲まで数歩、というところで新山はーー


「あっ、おい!!」


パリーンッ!


その窓を体当たりで割って、なんと3階から逃亡した。

慌てて窓から下を見たが、新山は多少足を引きずっているものの、ほぼ無傷のようだ。


「冗談だろ…!?」


まざまざと見せつけられる。

これが、人間と“彼ら”の違いなのだと。


「キョウ!!まずい、このままだと大通りに逃げられる」


アサヒが男に向かって叫ぶ。


はっとして急いで階段から下へと降りるが、とてもじゃないが間に合わない。


「クソッ!!」


息をきらしながらインカムで周りの仲間に指示を飛ばす。


『ユキ、上からの狙撃は!?』


『…ダメ。遮蔽物、影に入られた』


『ヨク、表へ回れ!奴を通りに出すな!!』


『りょーかい!』


指示を一応は出したが、裏口から新山が逃げた方向へは距離がある。

地上にいるヨクでも間に合わないことは、本人を含むその場の全員が察していた。


そして、男とアサヒが地上へと到着したとき、新山はすでに大通りへ出る直前だった。


(このままだと、一般人に被害が出る…!!)


興奮状態はすでにレベル3以上。

間違いなく、人間が殺られるーー!


「新山ァァァ!!」


その差は約100m。

今から全力で走っても、追いつくことは不可能だ。

走っていた新山が勝ち誇ったようにこちらを振り返った、その瞬間だった。


ドゴッ‼︎


「ガッ!?」


新山が、その文字の通り“吹っ飛んだ”。


「「!?」」


男とアサヒは突然のことに驚いて思わず身構える。


(何だ!?)


ビルとビルの隙間の細道から大通りへと逃げようとしていた新山を、上から降ってきた影が蹴り飛ばしたのだ。

その影はそのまま、起きあがろうとしたヒョロ男に間髪入れずに回し蹴りを入れる。


「グァッ!!」


今度は横に吹っ飛び、その体は他のビルの壁に激突した。

それでも気を失わない頑丈なヒョロ男の上に馬乗りになったその影は、どこから出したのか、高電圧スタンガンを首元にくらわせた。


バチバチバチッッ!!!!


「ガッ…グァアッ……」


「…………。」


はっとしてその場まで急いで駆けつける。

やっと追いついた男は、その影ーーどちらかといえば華奢な彼女ーーを認識して、途端に目を細め、額に青筋を浮かべた。


「あっ、一条さん!ご無事ですか!?」


彼女は自分よりも背が高い男を見上げて、近くに駆け寄った。

闇夜に映える青みがかった銀髪に、陶器のように滑らかな白い肌。

大きく丸い瞳と鼻筋の通った可愛らしい顔。

日本では物珍しい銀髪だということを除いても、芸能人並みに目立つであろうその姿は、大抵の男をダメにするという。

そう、この男を除いて。


「なぜお前がここにいる」


自分を心配してるであろう彼女の言葉をフル無視し、機嫌の悪さが一発でわかるほどの声を発する。


「え?いや、だって…」


「お前は本部で待機と言ったはずだ」


「でも、これ“鬼狩り”の任務ですよね?なら私も…」


「黙れ。班長の命令が聞けない奴はうちの班には必要ない。だから今回も外したんだ」


途端にシュンとする彼女。

それはまるで、悪戯をして飼い主に怒られる子犬のようだ。

その落ち込みようは、他の人間が見れば垂れた耳まで幻覚で見えそうなくらいだった。

しかし、そんな彼女の様子を前にしても、男の態度は変わらない。


「まぁそう怒んないでよ、班長殿?事実、サクラちゃんのおかげで一般人への被害はなかったんだしね」


いつのまにか追いついてきていたアサヒは、彼女ーサクラの肩にポンっと手を置いて、お手柄だね、と笑って褒めた。


「〜〜っ、はい!!」


サクラはアサヒの言葉でパァァっと顔が明るくなり、再びニコニコと男の方を見つめる。

ーーまるで、褒めて褒めてとねだる子犬のようだ。


「……任務完了。本部へ戻るぞ」


それでも、男は最後まで頑なに彼女を褒めることはなかった。


「やれやれ。うちの班長は頑固もんだね」


こちらにまで聞こえるように言ったであろうアサヒの言葉に、心の中で舌打ちをする。


(認めるわけないだろ。奴はーー“吸血鬼”だぞ)



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