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物に宿る精霊が見えるのでアンティークショップで働きます  作者: 氷純
第三章 革命期編

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第十七話 支援要請

 秋の気配が近付いていた。

 表面上は落ち着きを取り戻した帝都だったが、内政派と征伐派の政治闘争は続いており、帝位は不在のまま様々な弊害が発生していた。

 人が減った影響か、虫や鳥の鳴き声が例年よりも多く聞こえるその夜、チトセは寝室にやってきたティ・キーに起こされた。


「チトセ、孵化精霊が訪ねてきたぞ」

「んー」


 眠い目を無理やり開いて、チトセはベッドの上に起き上がる。

 アシエラが不在でも孵化精霊は訪ねてくる。エルフの里での保護を求めてくる場合が多いが、こんな夜に起こされるということは別件だろう。

 ベッドから出て肌寒さに身を震わせるとエティが上着を持って飛んできてくれた。


「ありがとう、エティ」

「どういたしまして」


 上着を羽織ったチトセの肩に座ったエティが満足そうに言う。

 寝室を出たチトセはリビングテーブルの上に並んだ見慣れない孵化精霊たちを見て驚く。

 孵化精霊がまとまって訪ねてくるのは珍しい。宿り木の庭にいると感覚がマヒしてくるが、孵化精霊自体がそもそも珍しいのだ。


 事前に話し合っていたのか、訪ねてきた孵化精霊の一体、燕尾服を着た白ウサギが代表して訪問理由を告げる。


「我々は人で言うところの旧ディグジニア協商連合領に住まう孵化精霊でございます。宿り木の庭の代理店主チトセ殿に我々の所持者たちへの支援を願いに参りました」


 白ウサギの言葉に孵化精霊たちが頷く。

 チトセは窓辺に座っているシャンジを見た。


「なんだよ?」

「ちょっと思い出しただけ」


 孵化精霊にとって、自分が宿るアンティークを大事してくれた持ち主は家族のようなものだ。恩返しを考えるのは自然なことなのだろう。

 ディグジニア協商連合は独立軍が帝国軍を押しのけて勢力を拡大しつつあるが、いまだ独立戦争の最中。民間の被害がどうなっているのか、帝都のチトセにはわからない。


 だが、楽観視はできない状況なのだろう。白ウサギたち孵化精霊はそこらの人間を歯牙にもかけない戦力のはずだが、世の中暴力だけで解決する問題ばかりではない。

 チトセは白ウサギたちに質問する。


「支援って具体的には何をしてほしいの?」

「主に、経済的支援です。衣食住、医療など問題が多岐に渡っており、我々はもちろん各地の教会による支援も行き届かず現地は混乱の渦中にあるのです」


 提示された要望にシャンジやティ・キーが唸る。


「それは無茶ってもんだぜ?」

「うむ。お嬢はあくまでアンティークショップの代理店主にすぎぬ」


 経済支援といわれても、チトセが動かせる金額は限られている。この不景気で店も開店休業状態。とてもではないが、遠方の誰かを経済的に支援する余裕などない。

 しかし、無理難題であることを白ウサギたちも理解している。それでも頼るしかなかったのだろう。


「どうか支援をお願いいたします」


 白ウサギを筆頭に、孵化精霊たちが一斉に頭を下げる。

 断るだけなら簡単だ。白ウサギたちも無理を承知で頼みに来ている。


 チトセは本棚の上に鎮座する古びたぬいぐるみを見た。

 先月、男の子から預かった馬のぬいぐるみだ。あの後、店には市場価値はないが大事にしてきた物を預かってほしいという客がちらほらとやってきていた。スペースがないと言って断っているが、宿り精霊がついていればそのことを伝えるようにしている。

 誰もが大事なものを守ろうとしている。人にとっての物であり、精霊にとっての人であり、それぞれの繋がりや思い出を。


 チトセはため息をついて、白ウサギたちに声をかける。


「何か考えてみるよ」

「おい、チトセ。安請け合いするなって」


 流石にチトセの手に余ると考えたのか、シャンジが引き留める。

 シャンジの心配ももっともだと思うが、何もせずに断るのは違うとチトセははっきりと思う。

 何か手はないかと目を閉じて考えるチトセを見て、シャンジはエティの説得に切り替えた。


「エティからも言ってやってくれよ。十代半ばの子供にできることはないって」


 所持者を助けたいと願う孵化精霊は白ウサギたちだけではないはずだ。帝国全土にどれほどの数がいるかは分からないが、今後も助けを求めに訪ねてくるのは予想ができる。

 今回の願いを引き受ければ、今後も同様の願いを引き受けることになるだろう。ただでさえ少ない資金でそんなことをすれば破産するのは間違いない。

 計算ができるため帳簿の作成を手伝うシャンジは店の状況をよく理解している。だから止めているのだ。


 エティはチトセの肩に座ったままシャンジに対して首を横に振る。


「僕が孵化できたのは裏町でチトセが大事に守ってくれたからだよ」


 いくらでも物が壊され盗まれる環境、そんな裏町で王家のレガリアに宿っていたエティが無事だったのはひとえにチトセが守り抜いたからだ。

 エティはチトセの顔を覗き込んだ。


「宿り木の庭に来て、チトセの大事なものが増えて、裏町では僕の前でしか笑わなかったチトセの笑顔が増えた。アシエラがエルフの里に来いって言ってもチトセが絶対に店から離れないのは、この店が大事で守りたいからだよ。チトセの守りたい大事なものが増えて、笑顔が増えるなら、僕は協力する」


 チトセは思考を中断し、エティを横目でにらむ。


「恥ずかしいこと言わないで」

「恥ずかしいかな?」


 エティがチトセに全面協力する姿勢を示したことでシャンジも諦めたらしく肩を落とす。


「あんまり何でもかんでも抱え込むなよ……。まぁ、俺が言えた義理でもねぇけど」


 意見はまとまってもすぐに良案が出るわけではない。

 チトセは店の孵化精霊たちも全員集めて夜通しの会議を開いた。


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― 新着の感想 ―
帝国に店を構えてるのに、帝国と戦争してる組織に支援するといらん恨みを買いそうだし、どこまで隠せるかなぁ
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