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物に宿る精霊が見えるのでアンティークショップで働きます  作者: 氷純
第一章 帝政期編

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第三話  アンティーク

 店先を掃いていると朝刊を売り歩いている少年や開門と同時に帝都に入ったらしい行商人の馬車などが通り過ぎていく。

 表の人たちは朝が早いらしいと感心しながら集めた砂を捨てに行く。

 店の裏手にあるゴミ箱に砂を捨てて、チトセは店に戻った。

 精霊たちがあちこちで思い思いに過ごしていた。だが、チトセに気付くと一斉に寄ってくる。


「ナンサイ?」

「イツマデイル?」

「オハナ好き?」


 質問攻めにされて適当に答えながらカウンター裏に箒を戻す。

 ちょうどその時、住居スペースとを隔てる扉が開き、アシエラがやってきた。


「はいはい、みんな。質問は後。チトセちゃんにはこれから仕事を教えるんだから。みんなの相手をしてたら働く前に疲れちゃうでしょ」

「ハーイ」


 少し不満そうな声だったがアシエラの言うことを素直に聞いて、精霊たちが自分の宿る商品に戻っていく。何体かは仲がいい精霊同士で窓辺に飛んでいき、遊び始めた。

 アシエラはカウンター裏の椅子に座るようチトセに手で示して、店の商品の丸椅子を持ってきた。


「にぎやかでしょ」

「アイツラ、ウルサイ」

「エティ、喧嘩はダメ」

「フンッ」


 チトセの言うことでもこれだけは聞けない、とエティは腕組みをしてそっぽを向く。

 アシエラはその様子に笑いながら店内を見回した。


「ここにあるのは新しくても五十年前、古いと三百年前に作られた物なんだ」


 店の前の通りを歩いている大半の人間よりもここにおいてある物の方が長い時間を過ごしている。


「それでも、人間と直接言葉を交わした経験がある精霊はほんの一握り。チトセちゃんが視えると知って浮かれてるんだよ。大目に見てあげて」

「仕事の邪魔をしないなら別にいい」


 チトセの返答に耳を澄ませていた精霊たちから歓声が上がる。肩の上に座っていたエティが耳を押さえた。


「アイツラ、ウルサイ!」


 生まれた時からチトセがそばにいたエティには、この店の精霊たちの感情は理解しにくいのだろう。

 チトセがエティをなだめている間にアシエラが店内の精霊たちを宥め、店内がようやく静かになる。

 アシエラにとっては精霊たちが騒ぐのも日常茶飯事なのか、すぐに切り替えてチトセに業務内容を教えるべくカウンターの引き出しを開けた。


「客は人間か精霊。精霊の場合は孵化精霊だろうから、わたしに回して。チトセちゃんは人間相手の接客をお願い」


 業務内容は大まかに買取と販売、商品の説明と簡単なものであれば修理を請け負い、専門知識や技術が必要な場合は修理が可能な工房を紹介するらしい。

 アシエラがカウンターの引き出しから取り出したのは工房への紹介状を書く際の紙だった。シーリングスタンプもあるらしいが、紹介状を書く場合はアシエラに内容を確認してスタンプを押してもらう流れになる。


「それから、お客が買取を希望した場合でもついている宿り精霊が嫌がったらお断りして」

「宿り精霊がついていない場合は?」

「チトセちゃんの判断で売っていい。この帳簿に書いてね」


 業務の流れがおぼろげながら見えてきた。


 ただ、一つ重大な問題がある。

 この店の商品には値札が付いていないものがほとんどなのだ。

 宿り精霊が客を嫌がった際に円滑に断るためのものなのか、時価なのかは分からないが価値が分からないものは売れない。

 チトセの不安を見て取ったアシエラが口を開く。


「それじゃ、価値をしっかりと理解するためにも歴史と製法、修理方法の勉強をしようか」

「えぇ……」


 簡単な仕事ではないと思っていたが、まさか勉強なんてすることになるとは。

 裏町育ちとはいえ、曲がりなりにも修理を請け負っていたチトセは学ぶことに多少慣れている。

 しかし、技術習得ではなく純粋な知識の習得となると自信がない。

 しかし、アシエラはノリノリだった。


「まずは基礎からということで、アンティークについての勉強から始めようか」


 対照的に乗り気がしないチトセだったが、仕事もせずに居候するわけにもいかない。仕方なくアシエラの講義に耳を傾ける。


「例えばそこのイメターナ帝期の間仕切り。四十年前に病没した先帝イメターナは戦争ばかりしていてね」


 二十代の半ばにしか見えないアシエラだが、エルフだけあって見た目よりもずっと歳を重ねている。四十年以上前のことを昨日のことのようにすらすらと話し出した。


 いわく、イメターナ帝は周辺諸国を侵略して回り、戦争に従軍した帝国民の中には後遺症を患って帰還した者も多かった。

 しかも、男たちが徴兵されたことで女たちが後遺症を患った帰還兵の世話をすることになる。

 仕事、子供の世話や家事の傍らで介護を行う必要があり、声が届かない別室ではなく同室でも人目を避けられるように、間仕切りの需要が高まった。

 そうして流行したのがイメターナ帝期の間仕切りらしい。


「最近は需要が大分減ったけど、そろそろ戦後生まれが子供を作る頃だから辺境の方では需要が増えてくると思う」

「客層が変わるんだね」

「あくまでも道具だから、時代に合わせて使い方が変わったりもするんだよ」


 需要の見極めが大変そうだな、とチトセは他人事のように思う。


「アンティークってもっと古い物だと思ってた。四十年前のものでもアンティークなんだ?」

「良い質問だね」


 アシエラがチトセの質問に笑顔で頷く。


「定義は曖昧だけど、一般的には百年以上前の物をアンティークと呼ぶんだよ。それよりも新しいものはヴィンテージ」

「じゃあ、あのなんちゃら帝の間仕切りはヴィンテージ?」

「五十年前あたりを境にシャビーと呼び分ける場合もあるの。イメターナ帝の間仕切りはちょうどヴィンテージとシャビーの境界に位置するからお客さんの感性に合わせて呼び分けようね」


 チトセはあからさまに面倒臭そうな顔をする。接客からは逃げられないとはいえ、呼び分けるのは単純に手間だ。

 ややこしい商品を置かないでほしいと思うチトセだったが、ふと疑問が浮かぶ。

 ここは帝都。帝国の中心地だ。辺境で需要があろうとここまで間仕切りを買いに来る客が果たしてどれくらいいるのだろうか。


「……売れるの?」

「蚤の市に持って行こうかと思ってる。もちろん、来店したお客さんが欲しがるならその方がこっちも楽だけど」


 一応、売る算段はあるらしい。

 アシエラが次の話に移ろうとしたとき、店の窓辺で遊んでいた宿り精霊たちがチトセたちを振り向いた。


「キャク、ハイラナイ」

「マッテル」


 宿り精霊たちが窓の外を指さして報告する。

 どうやら、店の前で客らしき人間が困っているらしい。

 アシエラが苦笑する。


「エルフがやっている店となると敷居が高くなるみたいでね。たまにあるんだよ。出迎えあげて」

「この店、本当に大丈夫なの?」

「こう見えて老舗だよ?」


 エルフが言う老舗は洒落にならない。

 チトセは席を立ち、客を出迎えるべく入口へ足を運んだ。


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