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物に宿る精霊が見えるのでアンティークショップで働きます  作者: 氷純
第一章 帝政期編

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第十二話 お隣さん

 一夜明け、チトセはアシエラと一緒に蚤の市へ向かった。

 快晴の空の下、町一番の大広場に色とりどりのテントが張られている。

 チトセは遥か奥まで続く圧巻のテント群に驚いた。


「すごい数だね」


 人がすれ違える程度の通路を挟んで出店が並んでいる。通路の数は五本あり、計十列のテント群が奥へ奥へと続きチトセの身長では終わりが見えない。

 まだ開店前の時刻とあって客は見当たらないが、商品を並べるのに忙しい出店者たちですでに騒々しいほど。

 アシエラが整理番号を見ながら自分の店に向かう。


「おおよそ二百店が出るよ。商品を船で運べる利点が大きいから家具を出す店まであるくらい」

「うちはランプシェードとかだよね?」

「サウベリア王国の家具は優秀だから、下手なアンティーク家具を持ってきても売れないんだよ」


 いくつか売りたい家具があるアシエラは少し肩を落として泣いたふりをする。

 サウベリア王国は海と密接にかかわる国であり、船大工も多かった。国内の河川を利用した木材流送もあって船大工兼家具職人というのも多かったらしい。出来上がった家具は海を使って輸出という流れだ。


「職人の国なんだね」

「いや、船乗りの国だよ。言い回しも船乗りにまつわるものが多い」


 アシエラが足を止めたのは緑のテントだった。

 奥行き四メートル、幅五メートルほど。蚤の市というからこじんまりしたスペースを想像していたが、ずいぶんと広い。

 どうやら扱う商品によってスペースが違うようだ。

 アシエラのスペースは広い方ではあるが、商品を並べればすぐに窮屈に感じるだろう。


「さあ、商品を並べるよ。チトセちゃんも手伝って」

「はーい」


 アンティークのランプシェードの他、カトラリー類のセットや置物を並べていく。

 サウベリア王国時代の物の他、東方の礫砂漠を越えた先にあるというミリジア国の物や石材で有名なミナッツォ王国の物もある。

 国籍も種別も様々なアンティークを並べていたチトセは、商品にディッセラ帝国の物が一つもないことに気が付いた。

 売れないか、大事にされないとアシエラは判断したらしい。


 ミナッツォ王国のボードゲームをどこに置こうかと悩んでいると、横から視線を感じた。

 エティが暇を持て余しているのかと横目を向ける。

 チトセと同世代の少女が隣の店から覗き込んでいた。


「こんにちは!」


 快晴の潮風のように爽やかな、よく通る声で少女が挨拶してくる。

 まさか同世代の子がこんなかび臭いイベントにいるとは思わず、チトセは気圧されて顎を引き、身構えた。


「……こんにちは」


 チトセは身構えたまま、短く返す。これから数日間の蚤の市開催中はお隣同士だ。挨拶くらいは返さないと角が立つ。

 見れば、隣の店は古書物を扱っているようだった。革張装丁の古い本が日の光を避けるように木製棚に収められている。タイトルを読んでもチトセには価値がさっぱり分からない。


 アンティーク書棚を持ってきたら売れていたのかもしれないと思いながらボードゲームを置く場所を決めた時、少女が声をかけてくる。


「こんなところで同年代に会うと思わなかったよー。わたしはオーミー。よろしくね」

「チトセ」


 自己紹介だけ返して、チトセはボードゲームを組み立て机の上に置く。この組み立て机は商品展示用に貸し出されているものだ。

 一度店を出て見栄えを確かめようとするチトセの動きに合わせてオーミーも店を出てくる。


 オーミーは背の高い娘だった。チトセよりも十センチほどは背が高い。チトセ自身が同年代に比べて背が低いというのもあるが、身長差が大きかった。

 オーミーも意外だったのか、チトセを見下ろして丸眼鏡の奥の目を丸くしている。サウベリア王国系にしてはずいぶんと色白なのは古書店で働いていることと無関係ではないのだろう。肩で結わえた金髪の房を弄りながら、オーミーは気まずそうにチトセに目線を合わせて中腰になる。


「チトセちゃん何歳?」

「十一歳。それより、そっちも商品を並べるの急いだほうがいいよ。もうすぐ開始時間だから」

「やっぱり同い年だ! チトセちゃん小さくて可愛いね」

「頭は撫でないで」


 撫でようとするオーミーの手をするりと躱して、チトセは店の見栄えを確認し終えてさっさと中に戻る。そんなチトセの背中を見て、オーミーが呟いた。


「猫みたい」

「――分かる」


 やり取りを見ていたアシエラが大きく頷くと、古書店主のお婆さんがくっくっと笑い声をこぼす。

 アシエラが笑顔でお婆さんに挨拶をして世間話が始まった。上手く会話の出汁にされた気分でチトセは憮然としつつ、釣銭の小銅貨などの準備を済ませる。


 エティがふわふわとチトセの周りを飛んでいる。商品に宿っている精霊たちもそわそわと落ち着きがない。

 これほど大掛かりなイベントなら精霊が視える人間もやってくるかもしれないと、期待しているのだろう。

 準備を終えたチトセは店の奥に置いている椅子に座り込む。これも貸し出し品だが座り心地は悪くない。流石、サウベリア王国の職人が作っただけはある。


「忙しくなると良いねー」


 隣の店からオーミーがそう声をかけてくる。


「しばらくは静かなままだと思うよ。会場入り口から遠いから」


 宿り精霊たちを宥めるのも兼ねてチトセが予想を口にすると、オーミーが笑う。


「なら、いっぱいお話しできるね!」

「……そうだね」


 藪蛇だったと思う間もなく話題を振ってくるオーミーに適当な返事をしていると、蚤の市開催の鐘が鳴った。


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