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「ケサラン!早く!」
杉玉が我を呼んでいる。
今日は、杉玉と一緒にユグドラシルの様子を見に来た。
杉玉は嬉しそうにぴょんぴょん跳ねて我先にとユグドラシルへ向かっている。
ここは気味の悪い壁の付近、誰も来ないエリアだ。
それにしてもだ。
我の知らぬ間に、変な奴がいる。
立ち居振る舞いもおかしいならば、言動もおかしい。
おかしいものならいくらでも見たことがあるが、漂う気配もおかしい。
穢れを纏っていないのになぜか暗く見えることがある。
名前は(仮)というらしい。
一番おかしいのは名前に言霊が乗っていないのだ。
杉玉に聴いたら、やはりおかしいという。
我が偉大なるワンコロ様は大変お強いので、あんな木っ端、気にするほどでもないらしい。
さすがワンコロ様である。
家主は多少警戒をしているらしいが甘いところがあるからそのうちほだされるかもしれない。
あの小うるさいロボットは警戒というか家の中に入ったやつにスキャニングというのをしているらしい。
スキャニングすることにより、体内の異常を早期発見したり、行動パターンや趣味嗜好を分析して皆の求める今日の料理を作ったりしているらしい。
実力の無駄遣いだと思うのだが、すべてのものが対象ということで(仮)も我も皆スキャニングされているらしい。
ロッテはぼやーっとしているし、我らが注意せねばな!と杉玉に同意を求める。
「注意せねばな!」
杉玉がぴょんぴょん跳ねながら同意してくれた。
安心だ。
我らは今、ポンコツ夫婦のところ、ユグドラシルの様子を見に来ている。
(仮)はいつの間にか居て、いつの間にか居なくなっていることが良くある。
このような密談は(仮)が確実にいない所でするに限る。
それにしてもユグドラシルは瑞々しく枝葉を広げるようになった。
もっと大きくなって欲しいので、今日はあの蘊蓄しか言わないロボットに聴いてきた方法を試してみる。
本当は偉大なるワンコロ様をお連れして一気に闘魂注入などしてもらえれば一番良いのだが、ユグドラシルが許さない。
やはり昔、幹をぶった切られたのを思い出すのも辛いのだろう。
ワンコロ様をお呼びするのだけは本当にやめて欲しいと、ユグドラシルからも杉玉からも言われている。
ユグドラシルがたくさん光を浴びられるように少しだけ杉玉と草木を間引く。
そして蘊蓄ロボットから聴いた結界を張る。
蘊蓄ロボット曰く、神聖なるものを中心に4本の柱を囲うように建てると良いらしい。
あまり大きくなければ縄で囲った方が良いと言われた。
それは武御名方殿のお社を由来としているのかと問うと、地鎮祭というのでも同じように結界を張るのだと謎の主張をされた。
我が言いたかったのは、武御名方殿にお前も心酔しているのか聴きたかったのだが。
蘊蓄ロボットから見本として渡された一枚のカードには4本の柱が立っている。
安全な場所を示すそうだ。
カードと同じようにユグドラシルの周りに柱を4本建てる。
地面に突き刺すのは大変難しいので柱を土の中に伸ばすことにした。
家主が発明したコピぺとやらを使用してみたが、これは上手くいった。
建てた柱の長さと同じくらい地中深くに伸ばした。
カードには楽しそうな人がいる。
杉玉に聴いてみる。
「我々で一緒に楽しく踊れば良いのでは?」
流石、我の相棒。
だが、我は踊りを見たことがあっても踊ったことがない。
上手く踊れるのであろうか。
不安に思っていると、杉玉がユグドラシルを中心にぴょんぴょん跳ねて回りだした。
「我とケサランだけだから気にすることはない、踊ろう!」
そうだ、我々だけだから気にすることはない。
我も一緒に踊りだす。
杉玉が、歌も歌うと楽しかろうと歌いだす。
「わが神 ユグドラシルよ われらと供に栄えん
われらが地を這い 泥を啜るときも 気高く繁らん」
死者の国の歌だが陽気な歌だからだろうか、一緒に歌ってみると案外楽しい。
ユグドラシルも嬉しそうに枝葉が弾んでいる。
笑いながら歌い踊っていると、鳥や獣たちが寄ってきた。
皆も交わろう、とやつらを誘い大きな輪になって皆で歌いながら踊り周る。
鳥たちは楽しそうに合奏する。
獣たちは思い思いの形で踊りだす。
鹿は不思議なステップを踏み、猿はグルグルと前転する。
ユグドラシルが大きく揺れて花が咲き、実がなった。
虫たちが花の蜜を吸い、鳥たちが実をついばむ。
熊と虎が相撲を取る。
寝転んで観戦するもの、勝っただの負けただの皆で大はしゃぎするもの。
こうしてみると、死者の国の恐ろしいあいつらも楽しかったのかもしれん。
我らは日が沈むまで、皆で歌い踊りながら笑いあった。




