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鹿騎士と大鴉の作戦会議

2026年になりましたね。ご挨拶が遅くなりましたが、本年もよろしくお願いいたします!

「…………」

「………アリー?…またブラックリストを見ているんですか??」


 黙ったままじっと固まっていたアリアナに対して、言いにくそうにそんな声を掛けてきたのはレイバンだった。


 アールブ公国にある<Strix>のギルド。そこは本拠地でもあるヴァナン王国のギルドより小規模ではあるものの、いちギルドとしては十分すぎるほどの設備を持つ建物だった。

 <Strix>に登録のある傭兵なら、誰でもギルドのロビーを自由に使って寛ぐことが出来る。


 そこに点々と置かれた丸テーブル──その一席に、アリアナは座っていた。


「それを手に入れた当初は、捜索の進展を確信していたんですがね…。…まさか空振りに終わるとは…。

あなたを気落ちさせてしまいましたよね」


 「全く、<大鴉>の勘も鈍ったかな」と、レイバンが椅子に腰掛けつつ自虐的に言う。それを、アリアナは頭を横に振ることで返した。


「いや。多分そうじゃないと思う」

「…と言うと?」

「君とは種類が違うかもしれないけれど、私だって情報や戦況を読み解くのには慣れてる方なんだ、職業柄ね。その経験から言うと──このリストには確かに『何か』がある気がするんだ。


………でも、()()()()()()()()()()()()、ね」


 アリアナが言いつつ、肘を伸ばしてブラックリストとの距離を離す。目を細めたり開いたりしながら、何か見え方が変わるのを期待したのだ。その様子を、テーブルの向かいに座るレイバンが見つめていた。


「…では、誰なら気付けるんでしょう?」


「…それは……。…………分からない」


 アリアナが正直に言うと、レイバンはガックリと肩を落とした。

 「なんじゃそりゃ」という意味ではないと思う。レイバンは多分、自分が彼を慰めるために「何かがある」と言っただけ、と勘違いしたのだ。


 決してそんなつもりでは無かったのだけど……。アリアナは一旦ブラックリストを伏せて、ふふっ、と笑った。


「さあ!ご覧の通り、私はまだまだ気落ちなんてしていないよ。

それよりも、これからの話をしようじゃないか」


 「作戦会議だ!」。アリアナがそう言うと、レイバンも眉を下げ「ええ、そうしましょう」と気を取り直したように小さく笑った。



 彼が取り出したのは、アールブ公国とその周辺地域の地図である。


「こちらからの能動的な捜索は奮いませんでしたが、こうして受動的に構えているだけでも、得られる情報はいくつかありました───『変わったこと』と『変わらないこと』です」


 それを聞いたアリアナは、「なるほど」と深く頷く。


「それはつまり───『天候』と『ヴォルフの所在地』だね?」


 「その通り」。と、レイバンは満足気に微笑んだ。


「話を順番に整理しましょう。

…まず、俺達は『ヴォルフを拐った連中がアールブ公国に留まっている』と推測していました」

「うん。それは当たっているはずだ。

なぜならアールブで誘拐が起こった時点で、『台風により交通網が麻痺し始めていたから』ね」

「そうです。しかしその台風も、誘拐発生の5日後に消失し、6日目からは小雨になっていた……」

「つまり、『昨日の時点で誘拐犯たちは拠点を移動し始めていないとおかしい』……。

…だって『アールブ公国にはマーナガラム商会の敵がいないから』、という訳だね?」


 そう問われたレイバンが、強く頷く。そして地図に視線を向けた。


「アールブ公国は大陸の右端に位置しています。見ての通り、地続きの道はヴァナン王国にしか通じてません」


 厚手の地図の上、アールブとヴァナンの国境に沿うように、レイバンは指を滑らせた。


「一応もう一つの隣国として──この南東の海に島国もありますが…。ここは法律でアールブ公国との国交が厳しく制限されているんです」

「となれば、誘拐犯たちが国外に真の拠点を持っていると仮定したなら、必ずヴァナン王国か港を経由しないといけない訳だな?」

「ええ。しかし国境と港の警備からは何の連絡も入っていない」

「ううん…じゃあ考えられるのは……。誘拐犯たちが仲間割れを起こして、国境越えの足をなくしてしまった、とか??」


 「人ひとりを拘束したまま誰にもバレずに移送するには、そこそこの人手がいる。その人材を確保しあぐねているのではないか」、とアリアナは考えたのだ。しかし、レイバンは「うーん…」と眉をしかめた。


「いえ、その可能性もあるにはあるんですが…。となればそれこそ、<Strix(何でも屋)>の出番でしょう?」


 「今、ちょうどリクエストボードを確認して来たところですが、そんな依頼は掲載されていませんでした」とレイバンが告げる。


「そうか…。じゃあ君は、この情報たちをどう捉える?ストレートに考えるなら、『実はアールブ公国にはヴォルフを恨む者がいた』という筋書きが成立しそうだけど……」

「……………。…………そのことなんですが…、」


 と、レイバンは自身の顎に手を当てて言う。じっと目を閉じて、数秒考え込んだ。


「俺は商会周りの交友関係や動向を一通り把握しています。

───間違いありません。()()()()、商会とアールブには因縁がない」

「……そうか……」

「───────ですが、」

「?」

「『()()()()()()()()()()()()』としたら、どうでしょう?」


 レイバンにそう言われて、アリアナは首をかしげた。


「実は、俺はヴォルフから一つ、調査を頼まれていましてね。今回、ヴォルフの出張に同行出来なかった理由もそれです」


 「…すみません、社外秘であまり詳しい事はお伝え出来ないんですが…」とレイバンが言葉を濁す。アリアナは「分かっているよ」と目で合図した。

 自分も、家族のヴォルフやその他の一般人に、騎士団での細かい職務の内容を話したりはしない。規則で禁止されているのだ。

 だからいつも、アリアナは家を空ける大体の日数や、「くたびれたな」とか「頑張ったよ」とか、そんな程度の事しか伝えない。


 それが、お互いにちょうど良いのだろう。アリアナとヴォルフは仕事の詳しい会話は持ち込まず、ただただ心の通った温かく何気ない言葉のやり取りばかりを、あの家に溢れさせている。アリアナが唯一深入りしたのは、商会で開かれた決起集会の時ぐらいだった。


「とにかく、この事件が起こってからは手付かずになっていた調査なんです」

「そうか…!君はその調査の結果が、アールブ公国との因縁に繋がるんじゃないかと睨んでいる訳だね??」


 「はい」と頷いたレイバンがこちらを見つめる。


「だから、調査のためにほんの少しの間だけ、俺はここを離れよう思います」

「!………」

「こちらでの指揮を、お任せしても良いですか?」


 問われて、アリアナは少し眉をひそめた。


「アリー?……何か不都合でも……??」


 と声を掛けられたアリアナがハッとする。


「あ、いや……もちろん大丈夫だ!任せてくれ!」

「…どうしたんですか、アリー…??」

「……………、…ええと…」


 心配そうに聞き返されてしまい、アリアナは観念した。


「………ただその……。

君とせっかく相棒になれたのに、もうコンビ解消だなんて……。『残念だな』、と思ってただけなんだ…」


 「すまない、だから心配しなくても大丈夫だよ」とレイバンに笑いかけた時、彼が豆鉄砲を喰らった鳩のような顔でこちらを見ていたことに気がつき、アリアナは目を丸くする。


「ああ、もうアリー…。…『相棒』だなんて、そんな………止してください。ヴォルフに殺される」


 そう言ったレイバンの表情は、物騒な言葉の内容とはうってかわって、なんだか照れ臭そうに見えた。


「……でも光栄ですね。──安心してください、本当に直ぐ、あなたの元へ帰りますよ」


 そう言って、大きな鴉は静かにアールブ公国を発った。


 アリアナはそれを見送り……「はあ」と誰にもばれないようこっそりとため息をつく。

 ……ヴォルフのことが、心から心配だった。ちゃんと食事を摂れるような環境なら良いが………もしそうでないなら、そろそろヴォルフの体力は限界が近付いているはずだ。

 それが分かるだけに、焦りで頭が真っ白になってしまいそうになる。


(………落ち着いて。必ず助けるんだ!)


 アリアナはすー……はー……と深呼吸をした。

 今はただ、ヴォルフとレイバンたち、そして自分を信じて進むしかない……。それが分かっていたアリアナは、少しでも情報集めの足しになればと、アールブ公国の繁華街へと足を向けていた。


 そこであの人物と再び出会うだなんて、この時は思いもしていなかったのである。





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