鹿騎士と狼商人の休日☆
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「────ヴォルフ!」
「よぉ、リア」
待ちわびた声を聞きつけて、ヴォルフは顔を上げる。
夜会から2週間が経った今日。ヴォルフとアリアナがデートの待ち合わせ場所にしていたのは、王都の飲食店街に程近い広場だった。そこからは川向こうに大きな時計塔が見える。街の人々が待ち合わせをするのに、丁度うってつけな場所だ。ちなみに、現在時刻は11時ちょっと過ぎである。
民衆を器用に避けながらこちらにパタパタと駆け寄ってきたアリアナは、両の頬を上気させていた。そのままヴォルフの数歩前に来たところで、一旦立ち止まる。
アリアナは、つむじが見えるくらいまで頭を深く下げ、屈み込んだ。軽く曲げた自身の両膝に手を添えて、その弾んだ呼吸を整えるためだ。
最後に一息ついてから、彼女がふっと顔を上げた。
「……ごめん!待たせたね」
汗の粒が、アリアナのまだほんのり赤い頬をつるりと伝い、その輪郭をキラキラと輝かせる。
そんな何気ないはずの一瞬でさえ、ヴォルフにはとんでもなく特別に思えた。……グッ!と心臓を掴まれるようにして見惚れたヴォルフが、ふわりと1回だけ、瞬きをする。
…それからやっと、アリアナの謝罪に肩を竦ませながら応えた。
「別に謝らなくて良いよ、まだ約束してた時間じゃないし。それに俺も、今着いたところだ」
「……………………」
ヴォルフはさらりと嘘を吐いた。
何気なく言ってみせたのに、アリアナはこちらをじ…っと見て首を傾げる。
…「本当は、もっと前に着いていた」。…そのことが、敏い彼女にはバレバレであるらしい。
(……まあ、それもそうか)
と、ヴォルフは取り繕うのを早々に諦めて、再度肩を竦ませた。
いくら待ち合わせに多用される場所だからとはいえ、今のここらの人口密度は異常だ……しかもその男女比率は、圧倒的に女性が多い。──理由は明白だ。飼い主を待つ忠犬よろしく鎮座しっぱなしだった自分を中心に、『こちらをちらちらと窺っては足を止める』という動作をする女性たちで、渋滞が出来ていたからである。
「声までは掛けられない」と思うなら、見るだけ見てサッと通り過ぎてくれたら良いのに。
…まるで、自分が待ち合わせの目印にでもなり代わってしまったかのような心地である…。
(…容姿が整ってるっていうのも、楽じゃないな)
「気遣い屋な待ち人に、仮初めの余裕も演出出来ないなんて!」──と、ヴォルフはこっそり拗ねた。
これじゃ晴れて両想いになれた『恋人』──つまりアリアナ!──に会うのが楽しみすぎて早く着き、時間にして30分程待ち惚けていたのが隠しようもない。
「………」
ヴォルフは顔を横に向け、なお見つめてくるアリアナの視線をザックリ躱すと、仕切り直すように「ふう」とため息をついた。
そして周囲からの注視もすべてスルーし、今一度アリアナに向かい合って語り掛ける。
「────何だ。お前、実家の方には帰らなかったのか?」
「えっ?…ああ、この服のことか。そうなんだよ、ちょっと日勤への引き継ぎが長引いてしまってね…」
「家に寄って着替えていたら、待ち合わせの時間に間に合いそうもなかったから……」そう続けたアリアナの服装は、王都支部内で使う普段着だった。騎士団から支給されている服とも少し違う、『個人的に用意している練習着』……といった感じの。
だから、ヴォルフにも「アリアナが支部から直接ここまで駆け付けて来てくれたのだ」ということが、すぐに分かったのである。
(……そういえば……)
と、ヴォルフはこれまでに自分と出掛けた際のアリアナを、自然と思い返していた。
今までの彼女も、私服はスポーティーな物を選んでいた印象だったが…今日のはまた、それとも違う──。
……そう。まさに自分とアリアナが初めて会ったあの時に、彼女が着ていたような服装だった。
(…懐かしいな………)
まだたったの3ヶ月ほどしか経っていないはずなのに感慨深くなったヴォルフが、しげしげとアリアナを眺めていると、彼女がそっ…と下からこちらを見遣った。
「……そういう君は、今日もものすごく格好良いな。とても素敵な服だ」
「そうか??」
と、ヴォルフは少しだけ両手を緩く上げる。
今日のヴォルフの格好は、大きめのサッパリした白い半袖のシャツと、細身のパンツだ。かなりシンプルかつラフな印象である。
「着心地が悪くなくて、着ていける場所に汎用性がある服なら何でもいいか」、という程度には服にこだわる方じゃない自分だ。そんなコーディネートを意図せず褒められて、小さく苦笑する。
だが、アリアナは至極当然というように「そうだよ!」と深く頷いた。
「…うぅーん…。……やっぱり私も、家でちゃんとした服に着替えてきたら良かったなぁ…………」
「いや。良い」
小さく唸って自身が着ている胸元のシャツをちょい、と摘んだアリアナに、ヴォルフは即答する。
「良い」どころか、服装以上に『アリアナが息を切らしてこちらに駆けて来てくれる』というシチュエーションがかなり刺さった為、ヴォルフは満足している。きっと彼女は本来、相手よりも前に待ち合わせ場所へ到着しているタイプの人間だ。だからこれはこれで、中々拝めないシーンだったと思う。
「でもそうだな………次からは、慌てないといけなくなった時点で連絡しろ。集合時間を変える」
アリアナが今後も「時間に間に合わないから」と急いでやって来て、忘れ物をしたり事故が起きたりしては事なので、時間変更は応相談である。
何となく、「お役人サマというのは就業時間が厳密に決まっていて、変動が無い」とヴォルフは思い込んでいたのだけど、実際そうでもないならなおのことだ。…まあ、『お役人』の中でもアリアナの職種が特異なのかもしれないが。
「……俺が『初めてのデートだ』なんだってごねたから、『絶対に遅れちゃいけない』って気を遣わせちまったんだよな。悪い」
「次から」と言わず、今日連絡をしてくれても良かったはずなのに、アリアナがそうはせずこうして急いでやって来てくれたのは、たぶんそれが原因だ。
(……って。…思っても良いよな?)
と、ヴォルフは少し自惚れてみる。
…そして、同時に反省をした。
そう。アリアナにデートの約束を取り付けたあの夜───、自分は誰がどう見ても浮かれていた。彼女と付き合えた喜びがあまりに大きすぎたせいで、アリアナに対する想いが極限を超えて膨張していたのである。そして、そんな自分と同じくらい「彼女にもそうであって欲しい」と望んでしまっていた。
多少冷静になった今なら、それがどんなに無茶な要求だったかが分かる。
あの夜経験した、全身の熱がぶち上がるみたいな感覚──あんなのと釣り合う人間なんて、そうそういるはずがない。……言ってしまえば、恋愛経験の無いアリアナに『求めすぎていた』のだ。
ベルガレットの言葉を借りるとすれば、「歩調を合わせる」努力を怠っていた。
「これからはデートの予定に限らず、アリアナと関わる時はそもそも無茶なスケジュールを組まないよう努めなければ」…………と、ヴォルフは自戒する。「でないと、この『欲しがり』には際限が無いのだ」ということには、もう気が付いていた。
ヴォルフは苦く笑って、「ありがとうな」と述べる。
────すると、こちらを見つめていたアリアナが小首を傾げて笑った。
「そうだよ?今日は『初デート』だ!────だから私が、早く君に会いたかったんだよっ?」
「」
パアァッ───………!!と。
……弾けるようなアリアナの笑顔を中心に、光線が飛び散りヴォルフの背後へと過ぎ去っていく。
(ハ、ァ………?)
途端に雑踏が小さくなったように感じられ、婚約者の頬を撫でようと伸ばしていた手は思わずピシリ、と固まった。
「………?」
きょとん。とした顔で、こちらを見上げてくる緑の瞳。
それが、次にこちらの固まった手を見て───「あ、そうか分かったぞ!」とでも言わんばかりの勢いで、ぽすりっとそこへ自らの頬を収めた。
「……………。」
(……いや、違う違う。『俺のしたいことを当ててみてゲーム』じゃない……!!)
未だじんわりと火照り、脈打つアリアナの頬。
もういっそ「生々しい」とさえ言えてしまうような感触が、確かに右の手のひらから伝わってきて、ヴォルフは頭を抱えたくなる。
───『男子、三日会わざれば刮目して見よ』。
ミズガルダの東部には、そんな諺があるのだけれど。
不思議なことにその言葉は、アスガルズ育ちでかつ女性であるはずのアリアナにも、きちんと適用されるようであった。……だってちょっと見ない内に、ヴォルフに対するスタンスがまた変化している。
(………ほんと常々予想を超えてくるな…)
ヴォルフはそんな風に愕然とした後、「まあそれもそうか…」とぼんやり思い直す。
何しろ、生まれながらにして区別しない莫大な愛情を持っているがゆえに、こと恋愛面において「今は全くの脈なしだ」とこちらが長期戦の覚悟を決めていたところへ、突然告白を仕掛けてくるような、読めない女性であるので。
「………………」
ヴォルフは諺に習い、注意深くアリアナを観察してみることにした。
…舞踏会の夜から、たったの2週間。
そのうちにいったい、何があったというのだろう??
あくまでヴォルフから見た感覚ではあるのだけれど、確かにあの夜の時点では、アリアナが『契約者』の枠を越えた接触に──つまり『恋人』同士としての触れ合いに──、受動的かつ恥じらいを感じていたのは明らかなはずだったのに。
なんならこっちは「数日経って冷静になったアリアナが、自分のことを避けるようになるのでは」、とこっそり危惧さえしていた程だ。
…いや。もちろん今の能動的なアリアナだって大歓迎ではあるのだが。
「…ふふ……っ。でも、君のその寛容な提案はありがたいな、次からはそうさせてもらおう。
どうやら私、君には『素敵だ』と思って貰えるような服装で、会いたかったみたいだから」
「……………………………………………………。」
「そのことに、今気付いたんだよ…不思議だろう?自分自身のことなのに。
私ときたら、ここに着くまでただ『会いたい』と急ぐばかりで───。…つまりね、」
と言葉を切ったアリアナが、彼女の頬に添えていたヴォルフの手を、自身の手で覆う。そしてきゅう、とそこに力が込められた。
「…………」
……アリアナは目を伏せ、「ふう…」と静かに……でも言葉を紡ぎ出すのに十分な量、息を吸う。
その頬が、落ち着いてきていたはずの熱を取り戻し────いや一層熱く、赤らんで見えた時、勘違いではない程に潤んだ彼女の瞳が、こちらの瞳を捕まえた。
「…今日。君に会えて本当に嬉しい。
とても幸せだ……──どうかな、ちゃんと伝わってる?」
「…………………………………………うん。」
───気付いたらヴォルフは、ただそれだけ答えていた。
こちらの手を取って擦り寄り、「ふふ」とあまつさえ幸せそうに微笑む恋人。その様子に、状況を見極めようと動いていたはずの脳が、「やめた、やめた」と匙を投げたのだ。
(可愛い。────俺の彼女、超可愛い)
「──なら良くね??何でも」。
そんな短絡的かつ強制的な思考の停止に、ヴォルフは自分が恐ろしくなる。こちとら物心ついた時から『利口な男』をやってきた自覚がある…なのに何なんだ、この有り様は。
(………はあ…)
ヴォルフは内心でため息を吐いた。
こんな頭でも現状をザックリと分析するならば…、多分アリアナのスキンシップは、駆け引きめいたものじゃない。裏もなければ打算もない、ただただ『こちらに分かりやすく好意を伝えよう』とする彼女が編み出した、表現方法の1つなのだろう。
アリアナにとって、舞踏会を終えるまでに『言わなかった』ことで被った損失が、如何に手痛かったかが伺える…………きっと彼女は、この2週間で『どんなことでも伝えた方がマシだ』という考えに至ってしまったのだ。
この考え方は、一見すると自分とアリアナの意識を、『契約者』から『恋人同士』へ押し上げるのに、最も有効かつ簡単な方法に感じられた。
ただ1つ、難点を上げるとすれば、それはヴォルフの『忍耐力』という柱へのダメージを、アリアナが一切考慮していない点だろうか。
ヴォルフの理性が倒壊したとしても、アリアナの方ではそれをいなすだけの能力(物理)があるため、「何の問題も無い」と彼女が断じてしまえるのがいけなかった。
「……………………………………」
ヴォルフは思わず、むっすりと顔をしかめてしまう。
(…『伝わってる?』、だって??)
まったく。…そんな程度の話ではない。
肩が温まって来たらしいアリアナの言葉は、いつも通りのストレート……それもなりふり構わない豪速球だった。
その上、彼女の溶かし尽くさんばかりに熱の籠った瞳は、強制的に理解を促している。
(……、会えて幸せ…。か)
ある種、開き直りとも取れるアリアナの大胆さ───それにヴォルフは複雑な感情を覚えた。
ああ、やはり…「何でも良い」訳が無かったのだ。
アリアナからの気持ちはもちろん嬉しい。
…だけど問題は、これが「正真正銘彼女の全て」である、ということであった。
…………こんな。…こんな眩しくてあたたかくて、綺麗な。
そう───自分のものとは、全然違う。
アリアナがくれる感情は、あまりにも健全過ぎた。
ヴォルフが彼女に抱くような、仄暗い下心や燃えるような独占欲は、皆無なのである。
…そして厄介なことに、そのことがヴォルフの闘争心のようなものを、えらく刺激する。
言ってしまうと、分からせたくて、仕方なくさせられる───アリアナが持つ美しいばかりの恋愛観を、作り替えたくてたまらなくさせるのだ。
「…………」
心の奥底で、獣が嗤う。
──「そら見ろ」。と。
──「お前がいくら『俺』を押さえ込んだって、足りないんだよ」。「他でもないアリアナが、『俺』を可愛がりたくて仕方がないんだ」──と。
(……ふん。曲解も良いところだ)
「リアはそんなつもりで甘いんじゃない」と、ヴォルフは獣に言い返す。
告白をした夜、酒を飲み明かして獣も自分もヘロヘロになった頃──珍しくガンガンとした頭を抱えつつも、ふいにやって来た「一体何をやってんだ俺は…」の冷静なターンを上手く活用して、ヴォルフは檻を何重にも建て増ししていた。純然たる違法建築である。
そこへ、逃げ出していた獣を取っ捕まえて何とかブチ込み「アリアナと結婚するまでそこにいろ!」とよくよく言い聞かせたのだ。以前「好きになって貰えるまで」と決めたときより、もっと強くである。
そんな獣への横暴を、正義感の強いアリアナは無意識に察して指摘する。「そんな風にしたら危ないし、可哀想だよ」、「少し自由にしてあげるくらい何の問題もないじゃないか」と手を差し伸べようとする。
「やめろ、そうじゃない!嬉しいけど、『今』じゃない!!」。
……そう叫んで彼女に注意すれば良いのに、ヴォルフはしなかった。
…………だって。
紛れもなく、獣も自分だ。
…本当は、「アリアナに全て見て欲しい」と願っているのだ。
(…………でも、存在を認めて優しく撫でて貰うだけじゃ、足りないんだよ)
────アリアナは知らない。
この獣は彼女が思う以上に、狡猾で、獰猛で、飢えている。危険なのだ。
(どうにか出来ると思ってるんだろう?)
───いざとなれば、そのご自慢の角で獣を撃退することが可能だ、と。
(出来ないよ)
獣は、その柔い喉笛に噛み付く方法を、いくつも知っているから。
「…………」
………………ヴォルフはまたため息をついた。
本当は、アリアナ自身が彼女の周りに有刺鉄線を張り巡らせるぐらいで、丁度良い………いや、それでも足りないと言うのに。
勇気ある婚約者サマはそれをせず、獣とは和平を目指すことにしたようだった。
……ならば、こちらがアリアナを守れるように、手を打つ他無い。
「…ん」
ヴォルフはアリアナの手を握って引き寄せた。
…そして次に、その背中へ両手を回して抱き締める。
……優しく最後に、頬をなぞった。
………………そうやって、最終ラインを見極める。
「?ヴォルフ…?」
アリアナは無言のコミュニケーションに、少々不安になったのかもしれない。だけど、こちらを見上げて目が合うと、彼女はにこっと笑って見せてくれた。
「……」
…どこまでも無邪気だ。………無防備すぎる。
それに対して、ヴォルフも微笑み返した。アリアナのふわふわした髪を撫でる。
…………………あの夜も、本当は薄々勘づいていた。
(…………………あーあ。…………クソ…)
少し色を匂わせて肌に触れるだけで、あの反応なのだ。
きっと、アリアナの唇にキスなんてした日には、見たことの無い表情で縋りついてくるに違いない……というのはただの妄想で、思い上がりが過ぎるだろうか。
だがもしそうなれば、自分は絶対に最後まで止まれはしない。
(……なら、ここらが限界、…だよな)
アリアナにその気が全く無いのなら、なおさらだ。
故に───ヴォルフは大変屈辱的ながら、己に『口輪』を課したのだった。
「…」
………『抱き締める』以上のことは決してせずに、ゆ…っくりと。
……ヴォルフは静かに、アリアナから身を離す。
「…飯。…食ったか?」
「いや、食べていないよ。君は??」
「俺も。もう腹ぺこだ」
「…いろんな意味で」とは、心の中でだけぽつりと呟く。
「そうか、じゃあ先に腹拵えをしよう!久しぶりに<R's>へ行く?」
「あ―――、いや…」
「??……どうかした?」
「実は、少し前に仲間と飲んで騒ぎすぎたせいで、ちょっと顔を出しづらいんだ」
「ええ??君、そんなに酒癖が悪かったのか?」
「だって、夜会の時もお酒を飲んでいたはずだけど、そんな様子は無かっただろう?」と言われて、ヴォルフは一瞬口を噤む。
あの夜、「しっかり休むように」と彼女から釘を刺されたその直後に、しこたま<R's>で飲み明かしたことがばれては事だと思ったのだ。
「いや。その日だけはちょっと『特別』だったんだよ」
そう濁して、ヴォルフは肩を竦ませたのだった。
◇◇◇
「───はあ、美味しかったね!」
「だな。もうお腹いっぱいだ」
そんな風に言い合いながら、アリアナとヴォルフは店の外へ出る。
結局、昼は<R's>とは別の、大通りにあるレストランでパスタを食べた。サッと完食し終わって、アリアナは馬車に乗り込む。
「ここからはいよいよ、結婚後の新居探しだ!」──と、アリアナは心からワクワクした。
車内には、後から乗り込んで扉を閉めてくれたヴォルフと自分の2人以外、誰もいない。これから行く物件らの鍵は、予め彼が不動産屋に訪ね、管理者から借り受けていた。
ヴォルフはその際不動産屋から渡されたのであろう資料をペラペラ捲ってから、口を開いた。
「最初に行く物件は、築23年だ。少人数の家族用で、庭がついてる。今日行く中では一番広い庭だぞ。2階建てだ」
「庭かあ……!!いいね…!」
「んー。どうかな、夏は芝刈りが骨かも」
「刈るよ、私が!…知ってるか?騎士見習いは、芝刈りなんかの施設整備も業務の内なんだ!
芝の高さを揃えるのが絶妙に難しいんだけれど、上手く出来た時は格別に気持ち良いんだよ。それが癖になってのめり込んだら、皆より飛び抜けて上手くなってね。卒業する頃には同期達に『達人』と呼ばれていた。教官にも、よくその出来映えを褒められたものだよ。私の芝刈り機捌きを見たら、君もきっと驚くはずだ」
芝刈り機の取っ手を掴む振りをした後、「だから任せて欲しい!」と言って胸を張ると、ヴォルフが「まだここに住むって決まった訳じゃないぞ?」とクスクス笑った。
「けどまあ、正直俺的にはかなりおすすめの物件ではある。大本命だな。でもお前の基準で決めてくれていい。あ、そうそう、他にもこの家にはな……」
と、続けて家の詳細を話すヴォルフの横顔を、アリアナはじっ……と見つめた。
明日は日曜日だ……いつもなら仕事は休みだけど、例によって自分は明日も出勤である。だから今夜は、早めに王都支部へ帰らねばならない。
そんな自分を思いやって、早くに支部へ送り届けられるよう彼は今日までにたくさんの段取りを整えてきてくれたのだろう。
(君だって大きな商会の社長だ…とても忙しい身だろうに)
と、アリアナは胸が熱くなる。「無理しないで、次からは不動産屋の担当者に、物件探しや案内を依頼してくれたってかまわないんだよ」と言えたら良かったのだけど、なぜかそう出来なかった。ヴォルフがとてもにこにこと嬉しそうに話しているのを見ていたら、不思議と言葉が出なかったのだ。そのことに、罪悪感やら彼への愛おしさやらの諸々が、ない交ぜになって沸き上がる。
「…」
アリアナは言葉の代わりに、そっと隣に座るヴォルフの手を握ってみた。
(………そう言えば)
前までは、馬車に乗るときも自分達は対面の席に座っていたのに。
「これが正式な婚約者同士の距離感か…!」とアリアナはこっそり驚嘆して、パッとヴォルフの顔を見上げた。
「……………………………。」
「、」
──「急にどうしたんだよ、リア」。
そんな風な声掛けは全く来なくて、逆にアリアナの方が「どうしたの、ヴォルフ」と訊ねたくなる。
それぐらい、彼はジッと食い入るようにしてこちらを見ていた。
「「……………」」
(──あ、れ。……私、何か間違えたかな……)
アリアナはちょっと不安になる。……だけどすぐに、こう思い直した。
(私自身が『ヴォルフに触れたい』と思ったんだ。だから、それで良い──間違いなんて無い!)
この婚約者殿が自分にとってあまりにも魅力的過ぎるせいで、何だか妙にどぎまぎしてしまうけれど……。思えば、身体の接触でコミュニケーションを図るのは、別に異常なことではないはずだ。
「普段潜入中で声が出せない時なんかも、ジャックや仲間達の身体に触れて合図を出したりしているし」───と、アリアナは考えていた。
……再三告げてきたが、アリアナは『騎士』である。
騎士は常に死と隣合わせであり、その事実から目を逸らすことは出来ない。むしろ、騎士として上を目指すなら、よりリアルな危機感を持つべきであるし、生き延びるための努力を惜しんではならない。
……そう。言うなれば、生き残るための命をかけた『自身のアップデート』が常に求められているのである。
よって、騎士として手練れで、かつ女性故に基礎体力で劣ってしまうアリアナには、同じ環境にいる他者よりも強い内省の癖がついていた。そしてそれはいつしか、騎士としての業務外───つまり人生における全ての事象へと適用されていったのである。
当然、『自分にとって大切な人』……ヴォルフとの関係向上に繋がることであれば、なおさら強く、だ。
───この2週間。アリアナは、夜会中ヴォルフに見せてしまった「らしくない」行為の数々から、驚くべきスピードで教訓を獲得していった。
そして、愛する人とこれから永く過ごしていけるようになるための最も重要な解を導き出す。
(そう。私がヴォルフを大切にする上で、必要なこと…)
それは───『自分の意志』に自信を持つこと。
そしてその気持ちを、言葉と態度で正確にヴォルフへ伝えること。
──────これに尽きる。
「…」
アリアナは、黙ってこっそりと深呼吸した。
「言葉と態度で正確に」、と言っても……自分の出力したそれが『恋人』として適正なものであるかどうかは甚だ疑問だ────なぜなら、自分は全然恋愛慣れしていない。ひょんなことに、このとんでもなく恋愛経験値に差があるであろう婚約者殿が、人生で初の恋人なのだから。
(………、)
その事実を再認識すると、アリアナは少し緊張してしまった。
…………でも、『初めて』は誰にでもあるのだ。
アリアナは極めてザックリと、そう割り切った。
恋愛初心者故に、いわゆる『普通』でない突飛な行動をしてしまったとしても「一時の恥くらいはもういいや」の心持ちである。
ヴォルフへはもちろん、自分達の周囲に対しても、出来もしない背伸びをして「何とか面目を保とう」だなんていう気は、もはや毛頭ありはしなかったのだ。
とは言え……かつての自意識がまだほんの少し顔を覗かせ、新しくなろうとする自分を不安げに窺っているようだった。「間違いなんて無い!」と感じた先ほどの気持ちを、「ただの強がりだ」と自分自身に思わせてしまう前に、手を打たなければ。
緊張で、また一段と頬が熱くなってきている…。こんな変化も、ヴォルフにはバレてしまっているだろうか。
(……いや、バレているはずだ。──だって、こんなにも近い)
…しかし、そうして発生した熱は活きの良い血と共に酸素を全身に巡らせ、かえってアリアナを身軽にさせた。
(勘を掴むまでは、ぶつかり稽古のようになってしまって申し訳ないけれど………どうか付き合ってくれ…)
そんな風に、アリアナはヴォルフへ祈る。
夜会のときは、ヴォルフへの気持ちに無自覚だったが故に遅れを取ってしまったけれど………もう自分の気持ちを伝えることに、タイムロスなど作らない。
(───二度と君を悲しませたり、不安にだなんてさせないよ)
アリアナは手に力を込め、快活に笑った。
「ふふ…すっごく楽しみだね?ありがとう、ヴォルフ!」
「………………………………、」
その瞬間だった。
ジッと─────最初からないものを見透かそうとしていたような視線が、急にその印象を変える。
ヴォルフが苦しそうに、眉根を寄せたのだ。
(────え?)
その表情には、見覚えがあった。
悔しそうで、悲しそうで、怒っているような泣きそうなような。それでいて、どこか優しいような…………複雑で自ずと引き込まれてしまう………そんな表情。
…ヴォルフが、夜会の日までに度々浮かべていたものだ。
「…ヴォルフ。大丈夫か…?」
「ん、何が??全然平気だよ」
アリアナが思わず声をかけると、サッと表情が変わった──いつも通りの、自信家で飄々とした顔に。
「………………」
アリアナは心配になって、ヴォルフの左右の眼を交互に見遣った。
今度はこちらが見透かそうとする番だ。彼の目の奥から、その真意を読み解かなければ。
……しかし、ヴォルフとアリアナの結果は同じに終わった。……何も感じ取れなかったのだ。分かったのは、彼の凍った湖のような瞳はいつも通り綺麗だと言うことだけ。
ヴォルフも苦笑するだけで、戸惑う自分に何も言うつもりは無いようだった。
「………………………」
アリアナは視線を落とす。
夜会までに見たヴォルフの「らしくない」表情は、てっきり自分の「らしくない」行動と同じ、両想いに至るまでの葛藤だったのだ、と解釈していた………だから、こうして想いが通じあった今なら、彼にもっと晴れ晴れとした顔をさせてあげられると思っていたのだけど。
そしてそうなれない訳を、この婚約者殿は説明する気がないらしい……。…そう、まだ今は。
「もしかして、自分にはまだ信用が足りていないのか……?」と、アリアナはちょっぴり未熟さを嘆いて自己嫌悪に陥ったが、すぐに現実へと戻ってきた。
あれこれ想像しても仕方ない……。彼に安心して色々なことを打ち明けて貰えるよう、ただ努力すればいいのだ。その時間はたくさんある。
手始めに、アリアナはヴォルフのプレッシャーにならない程度に気持ちを伝えようと、彼の手を掬うように下から持ち上げてから、その甲をもう片方の手の平でぽんぽん…と労るように撫でた。
「いつでも聞かせてくれていいんだぞ」、「そうして貰えるととっても嬉しいんだ、私は」という気持ちをありったけに込めたコミュニケーションだった。
それに対しヴォルフはまた、「何だよ?」といって甘く苦笑したのだった。
程なくして、今日見る1件目の家に着いた時、アリアナは「うわあ…!」と感嘆の声を漏らした。
思わず白い門扉に触れて、広い庭の先にある家を繁々と眺める。
その2階建ての家は、昔ながらの煉瓦造りの家で、緑の小高くなった庭を見晴らすように建っていた。平らな白い庭石が、点々と扉までの道を彩っている。橙がかった壁面は濃く広がる緑と引き立てあって、ほっとするような明るさと暖かさを目に感じさせてくれていた。
広い庭がそうさせるのか、家はとても小さく見える……華々しすぎない装飾が施された家屋は、秘密の楽園に造られた精霊たちの住み処みたいだ。
「………可愛い…」
ポツリとそう呟くと、すぐ後ろにいたヴォルフがくすくす笑ってこめかみのところにキスした。
「気に入って貰えて何より。中も見ようぜ」
そう言ったヴォルフが、高過ぎない門扉の鍵を開ける。「はい」と差し出された手を握ると、彼が先導して家へと歩き出した。
ヴォルフは今日の内見の前に、物件の候補を絞るため一度下見に来ていたのだそうだ。…だからだろうか?彼は案内すると言うより、まるで招き入れるみたいな自然さで前を歩く。
『元よりこの家の住人』のような気軽さで、こちらの手を引くヴォルフ。その後ろ姿に、アリアナは経験しているはずのない懐かしさのような感覚を覚えながら、硬い庭石の上に足を乗せ進んだ。
さわさわと、風が少し長くなってしまった芝を撫でる。どこからか、木の葉がざーっ…と擦れる音もした。…どうしたことだろう。目に入る景色どころか、耳に入る音にまで覚えがあるように思えてきた。
ヴォルフはもう何年も開け締めしているみたいに慣れた手つきで、家の鍵を開ける。すると、その家の中からはどことなく甘い、木の匂いがした。
埃っぽさや湿っぽさもない。よほど前の持ち主が大切に使っていたのか、あるいは不動産屋の管理が良いのか……はたまたその両方か。
とにかくその家の中には眩いばかりの陽光が差し込み、物が少ないはずの屋内に少しの寂しさも感じさせなかった。むしろ、その家に残された余白に、自分達が歓迎されているようにさえ思える。
「───………」
ヴォルフに連れられるまま、アリアナは静かに玄関と白い壁の廊下を抜け、ダイニングに入った。
そこの壁はオレンジ味のクリーム色…その隣のリビングはどうだろう?アリアナが顔を覗かせると、その部屋には大きな窓が付いていた。他の白い壁と別に、窓がある壁だけ落ち着いた薄い水色になっている。
アリアナは一度立ち止まり、「窓を開けてみても良い?」とヴォルフに聞いてみた。すると彼は「ああ、今日は気持ちの良い風が吹いてるもんなぁ」なんて穏やかに言う。
鍵を開けると、彼の言う通りだった。ふわりと温かい風が吹いて、アリアナは眼を瞑る。部屋の中に「お邪魔します」と入ってきた風が、ついでにこちらの髪を優しく揺らしていった。
アリアナは眼を開く。目の前に、大きな木が立っていた。でも、家に陰をかけるほど枝を伸ばした木ではない。「まだまだこれから」、そんな可能性を感じさせる木だ。
「リア?」
いつの間にか大きな窓の前で隣に並んでいたヴォルフが、黙り込む自分を気にかけて名を呼ぶ。
アリアナは横に並び立つヴォルフを見上げた。
窓から入る光が彼の髪や肌を明るく照らし、目元を柔らかく見せ、笑った時の歯をいっそう白く浮かび上がらせる。
(………ああ)
「毎日、こんなヴォルフを見ていたい」。
アリアナはそう思った。
出来れば、ずっと永く。───それもここで!
「ヴォルフ。…私、この家がいいな」
「え?…いやいや。まだ1件目だぞ??2階も見てないし……。…そんなに気に入った??」
「うん!それに見てくれ、懸垂によさそうな木まである!!」
そう言って窓の向こうを指差すと、ヴォルフは「へ?!」と珍しくすっとんきょうな声を上げた。
「いや、お前のツボそこ?」とまで出かかって、ヴォルフは口を噤む。と言うのは、この家を「大本命」としたヴォルフの決め手も大概だったからだ。
「通いの手伝いを雇えば、なんとか2人でも家事や管理を回せるだろう」──そんなぐらいのちょうど良い広さが、ヴォルフ的にポイントが高かった。
結婚後徹底的に2人だけの時間を確保するため、ヴォルフは他者の介入余地を出来る限り許さなかったのである。
そんなこんなで、逆にアリアナから「じゃあ君のツボは?」と尋ねられては困ると思ったヴォルフは、結局肩を竦めるだけにとどめたのだった。
「そうだね、確かに急ぎすぎたな……じゃあ2階も見に行こう??」
アリアナは、勿論そんな婚約者の胸の内など知る由もない。無邪気に笑って、今度は逆にヴォルフの手を引いたのだった。
2階と、今日見る分として選考した他の2件も見て回ったアリアナとヴォルフ。
だが結局、心は揺らがなかった。
アリアナはもう、例の家に心を置いてきていたのである。
ヴォルフからは「こんなにチョロくて大丈夫か?」、「いつか、自分以外の誰かにコロッと騙されるんじゃなかろうか」……などと密かに心配されてしまう程だ。
そんなことなんて露知らず、「良い家が見つかってよかった」とアリアナは笑う。
「まあ、お前がそんなに気に入ったっていうなら、俺に異論はないよ。
『結構遅くなるかも』って思ってたけど───だいぶ早く済んだな」
今日のメインが早々に一段落したとあって、安心した様子のヴォルフ。
「良かった。余裕でお前を送れそうだ」と続けた婚約者に、「何を言ってるんだい?」とアリアナは返した。
「これから君の指輪を探しに行くんだよ!」
アリアナはすぐに宝石店へと足を向けた。
意外に思われるかも知れないが、アリアナは王都の宝石店に詳しい。
誤解の無いように言っておくと、残念ながら流行り廃りや「宝石」に詳しいのではない──ただ仲間たちからの情報で、「店」にだけは詳しいのである。
多分、自分の性別がそうさせるのだと思うのだけど、普段男性騎士の仲間達は、あまり浮いた話を聞かせてこない。
だが、こと本気の交際に限り、彼らはよくアリアナにも話をしてくれていたのである。
──「『愛の日』に向けて、彼女に贈るプレゼントを買った」とか、「とある店の指輪でプロポーズしたら、とても喜んで貰えた!!」──とか。
そうして、アリアナからの惜しみ無い「おめでとう!!」、「君なら必ず成功すると信じていたよ!」などの喝采を、彼らは照れ臭そうに、だが誇らしげに浴びるのである。「…あ~。やっぱアルは、僻みがないからイイわー」だなんて、わざと誤魔化すように笑いながら。
だからアリアナにも、大事な節目に用立てする『素敵な宝石店』には、確かな覚えがあったのである。
──「言われてみれば、仕事で人に会うとき以外、余計な装飾品を着けない」。
店に着いてからヴォルフにそう告げられてしまい、アリアナは酷く悩んでしまった。
ヴォルフから婚約指輪を貰った時のあの感動を、彼にも味わって貰いたかったのに……どうしよう??
考えに考えて………、結局アリアナはサインペンを贈った。
宝石職人というのは本当に素晴らしい技術の持ち主で、彼らが石で輝かせるのは指輪だけに留まらない。
そのサインペンは、ペン先と持ち手が接続する部分に、ヴォルフの瞳に良く似た宝石がパーツとして加工され挟まっていた。指輪ではないけれど、これも世界にただ一つの贈り物だ。
それを持って感触を確かめていたヴォルフが「へえ、良いじゃないか」、「自然とペン先側に重心が来るのも良い」と、言ってくれた。どうやら気に入ってくれたようだ…。
そのことに、アリアナはホッとした。
断じて、自分が贈った指輪をヴォルフが身に付け─しかも普段はそういったことに縁の無い人間に強要して─、それをアリアナが知らない多くの人間が認識する………という特別感──もとい、あからさまな所有欲の発露に、土壇場で怖じ気づいたからでは無い………………断じて。
贈る側になってみて、「さらりとやってのけるヴォルフは凄いなぁ」と変な方向に感心する。
アリアナは「自分がヴォルフからそれを向けられている」、ということには全く思い至らなかった。
ただただ、彼が「ありがとう」と笑ってペンを受け取ってくれたという事実が、アリアナを幸福にしただけである。
このついでに、アリアナは自分用のチェーンを買おうとした。
ヴォルフには言っていなかったが、実は訓練中にアクセサリーをつけるのは禁止されている。硬い物を身に付けている、と言うことは予期せぬ衝撃を受けたときに皮膚を損傷するリスクが高くなるからだ。
寮で共同生活を送る者は皆持っている、鍵付きの貴重品箱に普段は入れておくにしても、着脱の際に、うっかり落として転がったりしていかないか、アリアナは不安だった。
小さな隙間に入って取り出せなかったり、見付けられなかったりしては一大事である。チェーンを指輪に着けておけば、紛失をある程度防止できるだろう。
自分がチェーンを探していること─指輪を『薬指に着けない』という事実─に何故か不満そうなヴォルフだったが、こちらの事情を聞くと快くチェーンを贈ってくれたのだった。
───場所は変わって、王都の中心街。
不動産屋の担当者である男性が、資料のうずたかく積まれたデスクの向こうで、鍵の返却を待ち受けていた。
「いや、このまま鍵をくれ」──そんな風にヴォルフに告げられた担当者は、あまりにスムーズな事の成り行きにあわてふためく。だが、「逃す手は無い」と思ったのだろう、彼は急いで契約書を用意してくれた。
その事に感謝しつつ、アリアナとヴォルフはデスクの前に並んだ椅子へと腰掛ける。
ヴォルフが、さっそくアリアナに贈られた例のサインペンで、建物と土地の契約書にサインした。「はい。リアも」と、続いてペンを手渡され、アリアナもサインをする。
「…君といると、何かとサインする運命みたいだ」
書き終えたアリアナが、思わずポツリと呟く。
「…これからも、たくさん隣でサインしてくれよ?」
そう言って、ヴォルフがくつくつと笑った。
番外編追加しました。
▼対応するお話「鹿騎士と狼商人の選定」
https://ncode.syosetu.com/n8272ha/6/
歩調を合わせようと苦心するヴォルフに対し、アリアナはきらきら一生懸命に走ってヴォルフに追いつこうとするので、しっかりと歩幅が合うのにはもう少々かかるかと思います。
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