12話 レオノーラの過去
彼女の名前はレオノーラというらしい。
レオノーラさんの家は、全体的に白色のシンプルな家具で統一されていた。
部屋全体が白色だなんて目がチカチカしてしまうと思うだろうが、やかましい色ではなく、月の光を思わせるようなちょっと青みがかった色なので目に優しかった。
「部屋、汚くてごめんね。さっきまで執筆してたからさ。」
「いえ!お構いなく。」
彼女は食器棚からティーカップを出し、アリシアと自身のカップの中に紅茶を入れていく。
ふわりといい香りがアリシアに届いてきた。
「あの商人から連絡が入った時はびっくりしたわ。なんせあの人小説なんか読んでる暇なんてないって、私の眼の前で堂々といってきたのよ?」
「え!?本業の人の前で堂々と!?」
「ふふ、おかしな話でしょ?私もその時はびっくりしたわ。」
笑う姿も綺麗だな、とアリシアは思った。
たわいない話で盛り上がる中、ふと、アリシアはずっと聞きたいと思っていたことを思い出した。
「そういえば、レオノーラさんは暗澹の国出身なんだそうですね。」
「えぇ……あんまりいい思い出はないんだけどね。」
視線を下に下げたあと、またアリシアの方を向いて苦笑いするレオノーラ。
(あぁ、この人も辛い目にあったんだな。)
自分と似たようなものを抱えているのではないか、アリシアはそう思った。
実際、彼女の話を聞いていないから確実にそうだとはいえなくとも、なんとなく、本当になんとなくそう感じたのだ。
「私も…私もその国、暗澹の国出身なんです。」
「あなたも?でもあの国は今……。」
「何があったのか教えてくださいませんか?」
アリシアが彼女の目を見て頼み込む。
レオノーラはアリシアが真剣な顔をしているのを見て、ポツリポツリと自身の身の上に降りかかったことを話し始めた。
「あれは私が9歳の頃の冬……」
ーーー
レオノーラはまだ幼かった。幼かったなりに、自分でよく考え、気になったことは図書館などにいって調べたりもした。
そのうち、彼女が図書館に入り浸る時間が長くなっていった。学校がない日には1日中図書館にいるようになった。
しかし、レオノーラが図書館に頻繁に足を運ぶことが気に障ったのか、彼女の親はレオノーラを理不尽に叱った。
「本ばっか読んでないで勉強なさい!!」
「どうせくだらないものしか読んでないんだろう?お前は将来俺の後を継いで政治家になるんだ。……本当は男に継がせようと思ってたのだが……。」
「何よ?私のせいだっていうの?」
「お前が女を生んだんだろ?だったらお前のせいじゃないか。」
ある日、朝から図書館に行って夕方家に帰ってくると、親が自分に怒鳴ってきた。
怒られたと思えば、今度は両親が喧嘩し始めた。
跡取りがどうだ女がどうだの、レオノーラは今まで読んできた本から、それがなんのことを指しているのか、なんのことを言っているのかがわかっていた。
「とにかく俺は仕事で疲れてるんだ。子供を躾けるのはお前の役割だろ?お前が1人でやっておけ。」
父親が何処かへ行ってしまった。多分自分の寝室に行ったのだろう。
いなくなるや否や、母親は私の前で大声を出して
「あんたのせいで!!あんたが男の子だったらこうはならなかったのに!!」
顔こそ叩かれなかったものの、思いっきり腕を叩かれた。
なんで叩かれたのか、意味がわからなかった。自分は何も悪いことをしていないのに。ただ黙っていただけなのに。
母親も奥へ引っ込んでしまった。家庭内の熱は冷めきっていた。
レオノーラは自分の両親に嫌気がさしていた。
どこか遠くへ行きたくなった。
ある日、レオノーラの親戚が訪ねてきた。
母方の親戚の前で、仲むつまじい両親を演じていた。レオノーラもいい子でいるように圧をかけられた。
両親が外へ出かけている間、彼女は親戚に本当のことを話した。
『ほんとは仲良くなんてない。』 『私はパパとママにいじめられてるの。』『もっと違うとこに行きたい。』
それを聞いた親戚はひどくびっくりしたようだった。
まさか自分の家のものが子供に手を挙げているとは思わなかったようで、両親が帰ってきたときに、母方の親戚は私を連れて、自然の国へ行くと言った。
やっと嫌っていた暗澹の国から抜け出した後、自然の国の新しい両親のもとで、レオノーラはたくさんの本を読んで小説を書き始めた。
そうして今に至る。




