古の神々の憂い
「我らこそ世界を司る強者故に名を貶める事でしか対抗できなかった混沌に埋もれし神々。名を辱め過ぎたが故にこの世の虚を覆う人の罪から生まれた澱の力を取りみ復活を果たした。
俺こそが全知全能を騙る偽神の傲慢を打ち破り人に夜明けを告げる神シャヘル、貴様らにはルシフェルとでも名乗った方が判りやすいか」
「ククク、神に対する憤怒の権能、英雄神と恐れられた我が名はウルスラグナ。
アラストルと言われても判るまいな」
「嫉妬を糧として亡ぼしてくれるわ、妾こそが最強の竜にして混沌の海に住む神ティアマト。
リヴァイアサンと言われれば判るじゃろうて」
「怠惰に溺れさせてあげましょう、嘗て豊穣を司りし名を穢された女神たる我が名はアスタルト」
「強欲を罪だとほざいた偽善者どもに力を貰ったこの皮肉さがたまらぬな、名誉を、金を、地位を欲する己が心に問いかけよ我が名は豊穣の角を持つ神アメン。
プルートス、いやマモンのほうが有名かの」
「盲目の徒が敵国の豊かさに羨望を込め我を貶めた、豊穣なる食料を齎せし事を暴食と呼ばれた神の一柱バアル。
蠅の王と偉大なる我が名をお主たちは読んでいるな」
「多数を愛する事を否定するなど笑止。色欲上等荒ぶる心は抑えられない、浮気は妻に刺される文化だろう。
我が名は天空の神ディヤウス、、色欲のアスモデウスとも呼ばれて結構なことだ」
――ババーン
と、効果音が響き渡りそうなポージングを決めた神々。
「って感じで行こうとおもってるんだけどさ。
どう思う」
そう問いかけたのはリーダー的存在のシャヘル。
ちょっとイケメン風で眩しい、というか見辛い。
「いやあ、いいんじゃないかな、ほら昨今の状況だったら俺たちの本当の名も知られてきてる訳だし」
そう答えたのは英雄神ウルスラグナ。
最近認知度が高まっているので満更でもないようだ。
「そうじゃな、妾もこれでいいと思うぞ七つの大罪には必ず登場するのじゃ」
満足気に頷いているティアマト、見た目が幼い合法のじゃロリという属性まで持っている。
「私もう少し知名度が欲しいのですけども、ティアマトちゃん程じゃないのよねえ」
ちょっと緩い雰囲気のアスタルト。
元々が豊穣を司るだけあって豊満なわがままバディを持つ彼女が悩まし気に動くだけで合法のじゃロリに多大なダメージを与えるなどと思っていない。
罪な女神である。
「まあ其々神名は色々あるからさ、俺なんて色々合体しちゃったりするし。
でもさ、まあ有名にはなりたい的な」
チャラい訳ではないのだけれど、どうも喋り方が軽い、太陽を司る事が多いが他にも担当したりする訳で同一視されちゃったりもする。
彼の悩みはアメンといえばラーみたいになる事らしい。
「最近は減りましたけどね、相変わらず蠅蠅と言われるとウンザリするから知らしめることには賛成ですよ」
ちょっと知的系が入った眼鏡をクイッと中指で上げたのはバアル。
大罪系でもゲームでも大人気でシャヘルと双璧を為す存在でもある。
ちょっと元の名前の知名度的に自分の方が有名なので口元が緩みがちなのは他の面々にバレていると気がつかない残念な所があったりする。
「うーん、でも俺なんか酷い事してるような感じに思われてるよね」
「いやいや、やり過ぎだろう」
「え、まだ反省してなかったの。
浮気ばれて被害者結構出してるよね」
「浮気の常習犯として有名過ぎるのじゃ。
コヤツのみリアル過ぎじゃ」
「奥さん怖いのによくやると思います。
友達も被害者ですよ」
「雷の、懲りぬなあお主も、ウチのもんにも手をだしてたよな」
「嫁さんにも注意して欲しいって頼まれてるんだよね」
フルボッコにされているのは何処かの主神も務めちゃうディヤウス。
頭から子供が生まれような悪行もし放題。
奔放具合では一番なのかもしれない。
「ちょ、お前らヤッテる事は他の神々も変わらないって、寧ろいろんな神を呼んだり引き入れたりして名前を変えても同じ神として敬うようにしてた……らしいよその神」
今更感があり過ぎる言い訳だが、まあ名前を微妙に変えた地中海の神としては色んな神を取り入れていたのは確かな話。
「失礼、盛り上がっておられます所申し訳ございませんけれど少々不穏な空気を感じまして。
申し遅れましたね、私、御中悠と申しまして、こういう者です」
さっと出されて名刺。
其処に書かれているのは喫茶プリモルディア店長、御中悠と書かれただけのシンプルな物。
だが見る者がみればその名刺から感じる神気は抗うのも馬鹿らしい程圧倒的な物。
「あ、貴方は一体、なぜ私たちに」
リーダーだけあって情報は仕入れているようで御中の事は知っていた。
敵対だけはしてはいけない相手だと言う事で。
「あ、ああ俺は戦いは好きだが最初から判り切った結末のある戦いはしねえ」
戦慣れしているだけあってウルスラグナは即座に降参を決めた。
其処の見えない男となど一戦交える気にもならない。
「ひぃ、まだ何もしておらんのじゃ、ほ、ほれ妾子供じゃし」
誤魔化せて無いと思う。
まあ可愛いは正義で乗り切れるのかどうかの瀬戸際だろう。
「あらあらぁ、この方先程見かけたような」
何気に会場をチェックしていたアスタルト。
勿論壁ドンのポスターをチェック済み。
怠惰を担当していても乙女心を失っているのじゃとは一味違うらしい。
「む、太陽神ネットワークで回覧板に載っていた方ではないのか」
先日回覧した太陽属性の神様だけの通信、通称太陽神ネットワークでアマテラスから情報は入っていた。
まあ、情報は見ても覚えて活用しないと意味が無いという例だろう。
「これは撤収、いや、逃げられる確率さえないのか」
知的担当だけあって即座に撤収を考えたが無駄だと悟るのもまた早かった。
無駄に諦めが早すぎるのも如何なものか。
「おいおい、なーにビビってんの俺ら」
まあ一人だけ呑気である。
宇宙最強(笑)な武器とか持ってるので強気な男。
ちょっとイケイケなヤンチャな所に母性がくすぐられるらしい。
だが、今回のメンバーは容赦が無かった。
「黙れ」「やめろ馬鹿」「洒落にならんのじゃ」「おいたしちゃ駄目」「暫く黙っとれ」「下手な発言をするな」と全員から連射砲の如く突っ込みが入り「お、おう?」と判ってないけど頷いた。
伊達に頭の中に知恵の女神を入れたままにしていないようだ。
「ここは不穏な話をする場所ではありません。
幾らその手の話をしてても変だと思われないとしてもです。
まあコスプレで七つの大罪をアピールされる事で認知度を上げる事を目的にされるだけならいいですけれど、オイタだけはしないでくださいね。
私の知り合いも多くいます。
この国は神であろうと仏であろうと上手く併せて文化に取り込みますからね。
よき人生を過ごしてください」
「あ、後でブースに伺ってもいいですか」
「なんじゃ、何か飲めるのかの」
「思い出したの、た・し・か、壁ドンとか大好きホールドとか色々とこの方にしてもらって撮影してもらえるのよー」
「ふ、ふん、壁ドンとかされても怖いのじゃ」
「抱っこもあるわよ」
「抱っこもありなのか」
「ふふふ、おいで下さったら抱っこぐらいはサービスさせて貰いますよ」
「是非伺うのじゃ」
女神二名は既に御中のブースに行くことが決定したようだ。
中々積極的な平和的ですよというアピールでもある。
まあのじゃロリは本当に抱っこ目当てになっているだけだが。
長いものには巻かれる本能があるのかもしれない、リヴァイアサンだけに。
「その、私たちの活動は、名前を広めて認知度を上げようというだけでして、そのきちんと仲間の抑えはしておきます、ご迷惑をおかけする気はありませんので」
汗を拭きながら説明するシャヘル。
「そうですか、それなら良いのですよ。
先日もちょっとした勘違いな男に対処するのが手間だったもので。
ナンパとか一般人にも見境の無いような行為は慎ませてくださいね。
責任とらない人を許す気はないので」
まあ何もしなければ御中さんは怖くない。
只、最近は守る者達が増えたのでちょーっと注意を促しに来ただけだった。
「は、はい」
「おうおう、にい「黙っとれボケェ」はぐぁ」
「す、すまんのう、雷の馬鹿には儂からも言うておくでの」
空気を読まない男は速攻でウルスラグナが殴り倒している。
漸く起動した太陽ネットワークで確認したアメンも続いてフォローに回った。
雷の運命がヤバイと。
そこで沈黙しつつ考え込んでいた知的担当が意を決して話しかけた。
「あの、一つお願いがございます」
数日後、御中の撮影会場に新たなメンバーが追加された。
キラっと光るイケメン明星光。
マッスル担当、野郎にも何故か人気な夏日星英雄。
白髪執事系担当、マダムに人気の大日亜門。
スタッフとして参加しているマスコットキャラになったのじゃロリ深海乙姫。
次回は握手会の開催を期待されているスタッフの宵待美星。
知的眼鏡のインテリ担当、謎の眼鏡押し雨慈恵。
不良系オヤジキャラ、リピーターが少ない大空太歳。
上から順にシャヘル、ウルスラグナ、ティアマト、アスタルト、アメン、バアル、ディヤウス。
あの日、雨慈恵ことバアルは必死になって御中悠に頼み込んだ。
お手伝いで構いませんから一緒に仕事をと。
序で構わないので全員でポージングを考えて作ったパンフの販売だけ許可を貰えればと。
まあ、こんな美味しい話に食いつかないオーナー一条七尾ではない。
早速衣装やらコンセプトを考え出して撮影スタッフと次回宣伝用にのじゃロリやお色気系が通じるかを試すように手配を済ませていた。
勿論、現行スタッフの大山姉妹、八千代と咲夜も参加が決定している。
最近ではベッドに放り投げる、押し倒すなどのバリエーションも増やして黄色い声を心の中で上げている。
今の好物は男装の麗人と執事スタイルの御中悠の絡みシーン。
天才と何かが紙一重なのはどこの世界も変わらない、もう手遅れのようだ。
七尾プロデュースによるにPV作成された聖戦――古の神々――の対戦映像はあまりの出来に大手から是非映画化をと詰め寄られているのだそうだ。
まあ、ガチではないが本当の神秘がさく裂する模擬戦がショボい筈が無かった。
バアルの眼鏡がキラリと光る。
彼はインテリ風なだけでなく見事に目的を果たせそうである。
まあ、どこかの不良系オヤジの妻が浮気を心配して殴り込んできたりした本当の戦闘シーンもあったとかなかったとか。
「う、浮気はしてないー、ギャア」
「夫婦喧嘩は犬も食わないでしょう、放置ですね」
「うんうん」
まあ、病気に近い浮気癖が原因なので誰も助けなかったらしい。
喫茶プリモルディアは以前よりも少しだけ賑やかになったようだ。