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Prologue: 天恵にて、転生

ちょっと重い?注意です

プロローグは読まなくても大丈夫です。

 ここは、ある冬の夜の、日本のあるどこか。

 これは、"私"としての最期の夜。


「アタシ達、もう上司と部下っていうより、『親友』って感じね。だから早いとこ親友コンボを決めて、こいつらを倒すわよ!」

 6畳しかない狭い部屋の中、布団の中でプレイしていたゲームからそのセリフを聞いた。

「『親友コンボ』、だって。ふふ」

そう口にして笑った後で一粒、涙が零れてシーツに落ちた。


 親友が、死んだ。

 ゲームの話ではなく、私の実の親友のことだ。


 親友とは高校まではずっと一緒で、昼はひたすらだべって、夜は電話しながら寝落ちするまでゲームをしていた。

 大人になってからは、二人とも地元から離れてそれぞれ別の地に散った。

 それでも私達は、SNSや電話を通して繋がっていた。

 試験勉強や、就活、就職後の不安とか、色々しんどいことを愚痴りあった。

 お互いにいる場所は離れていても、心は最も近い距離にあった。


 そうしていつも通り、親友に愚痴りたいことができて。

 電話しようとメッセージを入れたのに、数日待っても返信がなかった。

 そんな時、親から一件のメッセージが入った。


 内容は、親友の訃報だった。


 職場からの電話に応答がなくて警察に通報したら、部屋で動かなくなった姿で見つかったのだとか。

 中毒死だったという。

 何が原因なのかとか、そういう詳細は親友の家族によって伏せられた。


――教えてくれないってことは、まさか自殺?


 葬式で久しぶりに見た親友は、酷くやつれていたように見えた。

 電話やSNSではよく連絡を取り合っていたけど、数年は顔を見ていなかった。

 これからも人生の苦しみを分かち合って、お互いの存在を支えに頑張れると思っていた。

――そう思っていたのは、私だけだったの?


 親友の死からは、すでに一年が経っている。

 ゲームの中のキャラクターが主人公に向けて言った『親友』という言葉に、もういないその人のことを思い出した。


 あふれだした涙を拭うため、布団から起き上がろうとした。

 月明りに照らされた自分の影が、不意に揺らめいだ。

 突然、大きな弧状の刃が目下の視界を遮り、喉を覆う皮膚にひたりと触れた。

「は……」

 呼吸が止まる。

 心臓の鼓動が速まった。

 刃の先を目でゆっくりと追ったが、そこには誰もいなかった。


「あら、確認を忘れるところでした」

 誰もいないはずの空間から、小鳥の囀りのような可愛らしい女性の声がした。

「貴女の命と記憶、いただいても良いですか?いずれにせよもうすぐ貴女は死にますけれど」

 選択肢によっては自分に流れる時が一瞬で終わりを迎えそうなその質問に、私は即答できないでいた。

 親友がいなくなって、何も手につかなくなった。

 時々、親友の後を追おうか、なんて馬鹿なことを考えてしまっていた。


『うん、絶対に生きて帰って、一緒に映画の続き見ようね、「親友」!』

 ゲームを起動させたままだったスマホから、主人公の声が響いた。

 親友がいなくなってから久しくプレイしていなかったゲームだが、今日ふと開いてみたのだ。

 でもそれがいけなかった。

 主人公が放ったそのたったの一言は、私の心を折るには十分だった。

 刃の先の声に頷きかけたが、それは声に遮られた。


「む。貴女の持っている端末の中のこの子、私にそっくりではありませんか!?それに貴女の記憶の中のこの子も、あの子によく似て!!……やはり人間はどの世界でも興味の尽きない生き物ですね」


――許可する前に勝手に記憶覗かれてるんだけど?

 不意な裏切りに気づいて急に頭が冷静になった。

 でもどうやって除いたのかも分からないし、そもそも見えない何かを相手にしているこの奇怪な状況に脳の理解は追いつけないでいる。


「はい、決めました。貴女には協力してもらいます。でも、貴女の記憶は一部封印ということで。そうすれば、貴女の魂を一番良い状態に保てますからね」

 喉元に当てられていた刃が、文字通り消失した。

 先程までの決意とは裏腹に、ほっと胸をなで下ろしてしまった。

「貴女の魂はここからいなくなるので、実質、この世界での"貴女"は死ぬことになります。ふふん、貴女の望み、忘れていませんよ」

 心を読めるのか、先ほどの問いに対する私の答えを既に知っていて話をしているようだ。

「そうだ、貴女の"次の器"として、私の身体をあげましょう。それならとっても都合がいいのです。なので、次の世界ではどうか、あの子をよろしくお願いしますね」


 鳥の囀りのようにささやかで軽やかなその声が段々と遠くなる。

 今度こそ私の意識は、そこで途切れた。

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