1.覚醒
初投稿となります。今までの自分のゲームなどで体験した内容を記載できたらと考えています。
〜とあるダンジョンの地下47階層〜
薄暗いダンジョンは静寂に包まれていた。時折、つらら石から滴る水の音が怪しく響いていた。
『このダンジョンを踏破すれば、俺はA級冒険者だ〜。』功名心に溢れる重戦士。
『はぁ。そんなことより、このフロア不気味じゃね。モンスターとのエンカウントもないし、嫌な予感しかなくねぇ?』シーフの女が現状を訝る。
『フン、俺たちの強さに恐れをなして逃走したんだろ〜。』と語気を強める重戦士。
『コレ、お前たちその辺にするのじゃ。奥の広場に強い魔力反応がある。注意するのじゃ。』と年配の兎獣人が警戒を促す。
その声と同時に剣を抜く女剣士、ロッドを強く握りしめる女治癒士。
ダンジョンの通りを抜けた広場で見た光景は、とあるモンスターの姿であった。
筋肉が隆起した長大な腕、鋭い爪が怪しく光る指先、毛皮に覆われた体は漆黒に包まれ、まるでダンジョンそのものと溶け合うようだった。顔は狼そのもので、鋭い牙が覗き、血のように赤く染まった目が闇を貫く。だが、何よりも驚愕したのは、傍のモンスターを食べている状況であった。
『ワーウルフの変異種‥、厄介だわ。』
一歩後ずされする女剣士。
『奴はこのダンジョンのモンスターを食べて、魔力を取り込んでいるようじゃ。おそらくA級以上のモンスターと見て、間違いないじゃろうな。』兎獣人が遠目から分析する。
『ここは一旦退いて、ギルドに報告しましょう。』冷静にその場の状況を判断する女治癒士。
『バカか。このまま退けるか〜。こっちはA級二人と、B級四人の六人係だぞ。負けるわけねぇ〜だろう。』既に一番槍とばかりに突撃する重戦士。
『あのバカ。突っ走りやがって。』
その後をフォローしに行く女シーフ。
それを合図に全員が戦闘体制に入る。
重戦士がワーウルフとの間合いを詰め、
スキル『鉄壁』と『威嚇』を発動させる。
それに釣られてワーウルフが重戦士に近づき攻撃するかに思えた。しかし、その爪が虚空を切り裂く刹那、モンスターの姿はゆらりと揺らぎ、まるで陽炎のように淡く溶ける残像となって消え去った。そこに実体はなく、ただ虚構の幻影だけが、嘲笑うかのように漂っていた。
そして、背筋を這う冷たい予感が、ボクの全身を突き抜けた。
後衛部隊の背後――そこに、まるで影が実体化したかのような存在が音もなく忍び寄っていた。女治癒士の小さな悲鳴が空気を切り裂いたが、それも一瞬。彼女の華奢な身体は、まるで人形のようにつまみ上げられ、次の瞬間には地面に叩きつけられていた。白いローブが泥と血に染まり、彼女の茶色の髪が無残に広がる。動かない。
「ユキ!」
女剣士が名前を叫んだ瞬間、視界の端で何かが弾丸のように飛んだ。兎獣人だった。今、彼の身体はまるで壊れた凧のようだった。鋭い蹴りの一撃を受けたのか、兎獣人は壁に激突し、鈍い音とともに崩れ落ちた。石壁にひびが入り、埃が舞う。彼の赤い瞳は虚ろに揺れ、口元から血が滴っていた。
そして、ボクはようやく気づいた。
左腕が――ない。
肩から先が、まるで最初から存在しなかったかのように消えていた。切り口はあまりにも綺麗で、血さえ滲むのが遅れているようだった。だが、次の瞬間、焼けるような激痛が脳天を貫いた。
「くそっ……!」
歯を食いしばり、膝が崩れそうになるのを必死で堪えた。目の前が真っ赤に染まり、意識が遠のきそうになる。だが、そんな暇はなかった。敵はまだそこにいた。いや、敵の姿すら捉えられていない。ただ、確かなのは、ボクたちの命が一瞬で刈り取られつつあるということだ。
戦場の空気が重く、冷たく張り詰めていた。彼らの叫び声が遠くで響いていた。
ボクは剣を握る右手を震わせながら立ち上がった。左腕の痛みも、失った感覚も、今はどうでもいい。
生き残るため、そして彼らを守るため――ボクが立ち上がったとき、冷たい風が首に巻き付いた感覚と共に、視界が徐々に黒く、そして薄くなっていった。
ー・ー・ー覚ー・ー・ー*ー・ー・ー醒ー・ー・ー
朝日が木の間越しから差し込み、暖かな光が頬を優しく撫でるように、静かに、しかし、ボクの眠りを侵していく。眩しい光がまぶたの裏に広がっていく。目を開けてからも、しばらくの間、心臓がどきどきしていた。
それから、自分がどこにいるのかを思い出した。
「ここは……どこ?」
声に出してみたが、言葉は空気の中で頼りなく溶けた。自分の声だという確信すら持てない。胸の奥で何かがざわめく。知っているはずなのに、つかめない。記憶が、まるで霧のように指の間をすり抜けていく。
辺りを見回す。大きな古木がそびえ立ち、その根元には苔が繁り、まるで時の流れを忘れたかのように静謐な空気が漂っていた。
だが、それ以上に奇妙なのは、何の親しみも感じないことだ。自分は何をしていたのか、ここはどこなのか、答えはどこにもない。
「ボクは……誰?」
言葉が喉に詰まる。頭の奥で何かが光るように思えたが、それはすぐに消えた。
記憶の断片――笑い声、冒険の日々、自分の力不足による不甲斐なさ――が一瞬だけ浮かんで、すぐに深い闇に沈む。つかもうとすればするほど、それは遠ざかる。
頭の中で、ステータスウインドウというインスピレーションが浮かび、それを開いてみることにしたのであった。