2.ステータスウインドウ
GWの今日は、良い天気だったので、気分転換に散歩してきました。五月なのに暑いです(^◇^;)
突如として視界が歪んだ。平衡感覚を失い、世界が裏返るような吐き気に襲われた後、目の前に冷徹な青白い光の枠が浮かび上がる。
それは、アスクという存在を記号へと書き換えた「ステータスウィンドウ」だった。
【ステータスウィンドウ】
名前:アスク / 種族:人間 / ジョブ:レンジャー / LV:1
「……アスク。それが、ボクの名前か」
呟いた瞬間、奇妙な悪寒が走った。自分の名前であるはずなのに、まるで他人のラベルを覗き見ているような疎外感。記憶の底を探ろうとしても、そこには厚い霧が立ち込めていた。
視線が項目の詳細へと滑る。
APは100。日々の行動でこれを消費し、LVが上がる仕組みらしい。だが、自分がこれまで何を成し遂げてこの場所に立っているのか、その過程がどうしても思い出せない。
HP:120 / MP:20
能力値:筋力10、体力10、敏捷10、器用10、知力10、精神10
生命の重みであるはずのHPは120。対照的に、呪文を紡ぐ力であるMPはわずか20しかない。六角形のグラフに示された能力値も、すべてが「10」という平坦な数値で並んでいた。特別な才能も、圧倒的な力もない。その残酷な現実が、未知の森に一人取り残された重圧をいっそう色濃くした。
「……っ、これ、は」
ふと、装備欄の末尾に目が止まる。
装備:ナイフ、緑のチュニック、革のブーツ、誓いの腕輪
記憶にない「誓いの腕輪」という名前に、彼は弾かれたように自分の左腕を凝視した。
そこには、淡く透明な輝きを放つクリスタルを埋め込んだ腕輪が嵌まっていた。
恐ろしいほどに肌に馴染んでいる。まるで、最初から体の一部であったかのように。
「……外れろ、これ! 外れろよ!」
焦燥に突き動かされ、指先に力を込める。爪を立て、肌を真っ赤に腫らしながら引き抜こうとしたが、腕輪はびくともしない。回そうとしても、まるで見えない力で肉に吸い付いているかのように固定されている。
ステータスを詳細まで確認しても、腕輪の効果は「なし」と表示されるだけ。
SPを割り振ってスキルの練度を上げようとも、この物理的な拘束を解く術は見当たらない。強化もなければ、呪いすら記されていない。だが、この外れない腕輪は、まるで誰かに「お前は逃がさない」と告げられているようで、背筋が凍った。
一瞬、脳裏をよぎったのは、家畜に刻まれる烙印のイメージだ。
誰かの意志によって、この場所に繋ぎ止められた飼い犬の首輪。その屈辱的な予感が、じわりと心を蝕んでいく。
レンジャーの技術である「短剣」や「探知」の使い方は、知識として頭にある。だが、その技をいつ、誰に教わったのか。その記憶すら、腕輪の冷たい感触に塗りつぶされていく。
自分が何者で、なぜここにいるのか。
この腕輪の正体を突き止め、失われた記憶の霧を晴らさなければ、自分は自分として生きることすら叶わない。
腕輪のことは、今は深く考えなくてもいいだろう。触っても冷たいだけで、呪われているような不吉な気配もない。
アスクはそう結論付けた。記憶の全てを失っているのだ。この腕輪の秘密も、きっと旅の中で思い出す日が来るに違いない。むしろ、こういった物語では、こういう得体の知れないアイテムこそ、重要な役割を果たすものだ。
「もしかしたら、窮地に陥った時にレアなスキルが覚醒するような、とんでもないチートアイテムかもしれない」
彼はそう楽観的に考え、僅かに口元を緩めた。今はLV1という厳しい現実があるが、この腕輪が自分を導いてくれるかもしれない。そう考えると、この旅に対する不安よりも期待の方が勝るのだった。
自分が誰かも分からないのに、このステータスやスキルがある世界が、アスクにはなぜか馴染み深く、楽しみにすら感じられた。抑えきれない冒険への憧れが胸の奥で燃えていた。世界の果てを見てみたい、未知の生物に出会いたい、そして、誰もが夢見る伝説の宝を探し当てたい。
彼は、まだ知らない数々の試練と出会うだろう。しかし、彼の胸には、得体の知れない希望と勇気が満ち溢れていた。失われた記憶の代わりに、その腕にいつの間にか嵌められていた不思議な腕輪と共に、彼は新たな自分を探し、この広大な世界を駆け巡るのだ。
問題は、この世界がどれだけ危険か、ということだ。
アスクは冷静に、【LV:1】という冷徹な数字を見つめた。レベル1の自分が、ダンジョンに潜む凶悪なモンスターに襲われたら、おそらく一撃で終わるだろう。HPが満タンだろうと、意味はない。この喜びと興奮の裏には、薄氷を踏むような死の危険が横たわっている。
「よし、まずはこの『探知』を試してみよう」
危険だとを承知の上で、アスクは最初の行動を決めた。彼は目を閉じ、意識を集中することにした――自身の命運が、この初級スキルにかかっていることを知っていたからだ。
今後、ステータスの割り振りに悩むことになります。




