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魔王、帰還す〜追放された傭兵は圧倒的な機動力と火力をもつ機体を駆り戦場を支配する  作者: 夜切 怜
強化計画

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キャパシティ・ビルディング

 後日、隻翼一家が小惑星ガブリエル内で祭りの準備をする。名目は謝肉祭だ。

 名目はガブリエルに丸投げした。ハレの日はどのような戒律があっても選択の幅が広がる。


「指定された鍋を用意しましたが、本当にこれでよろしいのでしょうか」


 丸い鉄の鍋に細長い穴が空いている。


「完璧だ。――隻翼一家。準備は万端だ。仕込みを開始してくれ」


 広大なホールで一斉に準備が始まる。


「これはどういう料理でしょうか。良い香りです」


 ガブリエルが興味津々といった風で隻翼に近付いてきた。


「ジンギスカン鍋だ」

「鍋? 焼き肉に見えますが」

「これは焼き、蒸す料理なんだよ。羊肉を焼くと油が穴から下にしたたり落ちる。その肉汁で野菜を蒸しながら火を通すことできるんだ。肉も野菜も美味しいぞ」

「お腹が空いてきました! なんでジンギスカンなのでしょうか。モンゴルの英雄ですよね?」

「それが語源ともいう俗説はあるが詳細は知らないな。かつての地球、北海道で親しまれている料理だったという。羊は他の地方だとメインではないな」

「羊肉は素晴らしいチョイスです。最初、羊肉を指定されたときは気を遣い過ぎではないかと思ったのですが杞憂だったようです」

「牛肉もあっただろ。製造装置、しかもガブリエルの名の下で作られた食材だ。タブーと言い出す奴はいないさ」

「調味料も私が指定させました。文句はいわせませんよ」

「ベルゼブブがうるさいからフリースタイル、戒律遵守派、戒律厳格派用の料理にわけておいたぞ。とくに制限がない者まで付き合わす必要はあるまい。それでいてメインは同じジンギスカン鍋だ」

「お気遣いありがとうございます。これで私のスフィアの者たちが同じものを食べることができますね」

「屋台も好きなだけ食っていけ。ステーキに牛串、焼き鳥だ。肉巻きがお勧めだな」

「まずこのジンギスカンを攻略してからですね」


 ガブリエルはフォークと大皿を手にに焼き野菜と焼いた肉を載せ、たれを漬ける。

 口にいれた瞬間、目を丸くした。


「野菜が甘くて美味しい。羊もさっぱりしていますね!」

「上手いだろう。普通の焼き肉もある。とはいえあんた自身はフリースタイルでいいのか」

「もちろんです。私は誰にも教義など強制していない。私自身には教義すら関係がないのですから。フリースタイルでいきますよ」

「模している存在的にはどうなんだ」

「模している存在やがその食べ物は食べてはならないといっていたら食べませんが、ガブリエルにそんな逸話はありませんからね。系統ごとのカテゴリで厳密適用ならEL勢力は四つ足禁止ですよ」

「そうもそうか。もっと食え。今から焼く」


 肉を焼いている姿を注視するガブリエルは子供のようだった。


「味覚や嗅覚がこれほど素晴らしいとは思いませんでした」

「せっかく肉体を得たのに、ずいぶんと禁欲的な生活をしていたんだな」

「超越知能的には栄養と満腹感さえあれば食欲は制御できると判断していたんです。ですが実際人の身となるといかに机上の空論だったか、思い知らされます。美味しい」


 ガブリエルは涙目になってジンギスカン鍋を頬張っている。

 隻翼と一緒に別のテーブルに移動する。こちらはステーキ用の鉄板だ。


「ステーキもいいですね。豪快に塩だけですね」

「いい食べっぷりだ」


 エイルがデザートを皿に山盛りにしている。

 そのまま二人に近付いてきた。


「肉ばっかり食べていないで。ガブリエル。りんご飴に綿飴、鯛焼きもありますよ」

「これ熱いですね。鯛焼きとは……」

「魚は入っていないぞ。あくまでそんな形というだけだ」


 ハッピートリガーも大皿をもってきました。


「ガブリエルさん。こちらもどうぞ!」


 丸いものがたくさん乗っている。


「これは?」

「右端から大判焼き。真ん中が今川焼き。回転焼き。天輪焼き。御座候。最後が最新のベイクドモチョチョですね」

「全部同じにみえますが」

「気にしなくていい。好きなのをつまんでくれ。お勧めはエイルのもってきた鯛焼きだな。白餡をチョイスしている。割ってみて」


 ガブリエルは鯛焼きを割って中身を確認する。白い餡だ。

 丸いものからは大判焼きを一つ選び、割ってみると黒い餡が入っている。


「これを食べますね」

「ハッピートリガー。それ全部食えよ」

「え?」

「皿に盛ったんだ。残さず食え」


 おおかたベルゼブブあたりの差し金だろう。

 隻翼は無慈悲な命令を下した。


「余裕っす!」


 意気揚々と引き返すハッピートリガー。

 丸い円盤状の食べ物でお腹が膨れることは間違いない。


「ここまでいろんな料理を…… ありがとうございます。どうお礼をいっていいやら」

「礼はいらん。そのかわりスフィアの住人には自立してもらうぞ」

「自立? どういうことでしょうか」

「まずは食い終わってからだ。好きなだけ食ってこい」

「わかりました」


 そういってガブリエルはケバブの屋台に向かっていく。

 

「餓えた獣だな」


 ベルゼブブが近寄ってきた。


「そう仕向けるための美食野郎放送だったんだろ」

「当然だ。そうでないと人間は進化しない。あいつは今人間とほぼ変わらないんだからな。いつまでも超越知能気取りじゃ困るんだよ」

「悪魔王は優しいな」

「ガブリエルはまだ間に合った。ミカエルのように暴君化されては人類の進歩などない」

「その意見には賛成だ」

「ジンギスカン鍋のテーブルは一つまるごと確保させてもらったからな」

「悪魔王がEL勢力ど真ん中で配信していいのかよ」


 そういわれるとベルゼブブの笑みが深くなる。


「だからいいんじゃないか」

「悪魔だったな、そういえば」


 他のEL勢力は色めき立つかもしれない。

 ベルゼブブの意図をようやく把握した隻翼だった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ガブリエルはご満悦だ。

 チョコとバニラのソフトクリームを口にしている。


「どれもとても美味しかったです! 塩焼きが多かったですね」

「戒律に厳しい系統だと酒も厳禁。みりんすらダメだからな。そういう食生活のスフィアは俺たちカミスフィアとは相容れん」

「そうですね」

「その割に酒呑みが多い気がするのはどうしてだろうか」

「それはいいっこなしということで」


 ガブリエルが人指し指を口にあて、にかっと笑う。

 少女というよりは少年のような、快活さだった。


「それもそうだな」

「しかし一夜限りの饗宴もこれでおしまいですか」

「さっきもいっただろ。鍋はどうするんだ」

「? 溶鉱炉にいれて原料に戻すつもりです」

「そこがいけないんだ。洗って保存しろ。肉を焼くだけだろ! 覚えろ」

「しかし私たちには仕込みなどはできず……」

「できる。指導する。エイルの提案だ。美味しい料理を食べさせたあと、永遠に取り上げるのは拷問に等しいと」


 その言葉を発したエイルにロズルやドヴァリンたちも深々と肯いた。

 疑体がないとき痛切に感じたようだ。お供えだけが希望だったと。


「エイル! 彼女は今や私の親友ですね。はい。ガブリエルスフィアも学びます。私も肉を焼くぐらいならできます!」

「焼き肉だけじゃない。簡単なスィーツも覚えておけ。甘味も欲しいだろ」

「甘味は…… あれは人間を引きつけてやまないものです。鯛焼きは美味しかったです」

「口にあって何よりだ。簡単なケーキのレシピも残しておく。スフィアの住人にも覚えてもらえ」

「必ず! なんといっていいのやら」

「エイルいわくキャパシティ・ビルディングだそうだ。俺たちがいなくなってもいいように」

「支援には重要な概念ですね。そうか。私は支援される側でもあるのか……」


 思うところがあるガブリエルだが、やがて笑った。


「この肉体を得て十八年ほどになりますが、知らないことばかりです。もっと教えてください」

「お眼鏡にかなったかな」

「確認する必要はありますか? 次はかき氷です。隻翼、付き合ってください!」


 そういってガブリエルは隻翼の手をとり、かき氷屋に向かう。

 しばらくは屋台巡りに付き合う必要がありそうだった。

いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!


というわけで飯テロ回。

ジンギスカン最近食べてないですね。ラム肉は焼き肉でたまに食べます。

美味しいですよね。


ハッピートリガーは大判焼きの計です。食べ物で遊んではいけません。


隻翼一家がいなくなったら、甘美な味だけしっていなくなったらそれこそ拷問。ベルゼブブの思うがまま。

というわけで支援の一環として、調理方法を教えます。事業が継続するようにキャパシティ・ビルディング(能力構築)ですね。

せっかく作った鍋をさっくり廃棄するというのは食文化への無理解とある種の贅沢病の証でもあるのです。


応援よろしく御願いします!

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― 新着の感想 ―
旧軍が羊肉料理を研究してる時に中国の料理を導入してその時に研究者がモンゴルの英雄の名前を着けたとかなんとか カレーと同じく魔改造品っぽい
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