34話:噂
ミスコン前日。
校内はいつも以上の熱気で満ちていた。
「異様な盛り上がりよね。今年も」
友美が溜息をつきながら言った。
レアは少し不安そうな口調になる。
「大丈夫なの? 萌花」
……大丈夫な訳ないじゃん。
そう言いたかったが、私は少し微笑み返した。
私はあのバカ食いをしてしまったことで、断食を強要された。
というより、自業自得なんだけど。
まあ、5キロ減ったんだけどね。
「そういえば萌花、セナと仲直りしたんだっけ」
友美は微笑みながら言った。
まぁ、ちょっと距離は縮まったかな。
「でもさ、キスまでする仲じゃないわよね。代償はどうするの」
友美はまた言った。
キ、ス……?
そうだ、私、代償にキスを……。
「代償って何の話?」
レアがきょとんとした顔で友美を見つめた。
「あ、話してなかったけ。萌花は代償でセナにキスをすることに……」
「わーわー!! やめてよ。周りに聞こえる」
友美の声があまりにも大きかったため、私は友美を止めた。
しかし、レアはちゃんと聞いたようだった。
「ふーん。そんな約束を。でもさ、今はご褒美……みたいな感じでしょ?」
レアは悪戯っぽくニヤッと微笑んだ。
途端に顔が赤くなった。
「そ、そんなんじゃないし!!」
反論してみたが、二人はニヤニヤと笑っていた。
タイミングを計ったように、声がした。
「ねぇ、ちょっと萌花借りていいかな」
あの甘いバニラの香りとふんわりとした声。
女子が少し騒ぎ出した。
「きゃあ、セナ様よ」
「なんで、橘さんに!?」
うぅ、周りの視線が痛い……。
しかし、友美とレアはそんなものはおかまいなしにニヤニヤ笑っている。
「どうぞ、どうぞ~。お好きにしてください」
友美が笑いながら言った。
セナは少し不思議そうな顔をして、私を廊下に連れて行った。
「何の話してたの?」
「いや、何でもないから!!」
必死でごまかしたが、セナは納得しきっていない顔だった。
「まぁ、いいけど。明日のドレスと水着を選びに行くから、教室で待ってて。それと、自分の特技はどうする?」
「……歌にする」
それは前から決めていた。
歌だけは上手いってよく言われる。
何でだろ?
「分かった。じゃあ、放課後待っててね」
「うん」
セナはそう言って、去って行った。
ふぅ、何か変な感じだな。
「ねぇ、橘さんって天童君と付き合ってるの?」
ふいに後ろから声を掛けられた。
「え!?」
やば。変な声出た。
「あ、何か皆言ってるから」
「つ、付き合ってないよ!! 何か、手伝ってくれてるだけみたいな!!」
「そ、そう。……って、天童君?」
へ? セナ?
すると、頬に柔らかい感触がした。
「これでも、付き合ってないって言える?」
振り向くとセナはにやっと笑ってみせた。
な、な、何やってんの!?
頬をさすりながら、セナを睨みつけた。
「な、何やってんのよ!! あ、あんた……!?」
周りからきゃあっと声が上がる。
いや、私たち付き合ってないし!!
噂は校内全体に広まり、ミスコンよりも異様な盛り上がりを見せたのだった。




