↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
和而賽遊記  作者: 蛇ィ
14/17

第一章13話『水と油』

【登場人物】

1.弓波露零(ゆみなみろあ)(主人公)

2.生明伽耶(あざみかや)(藍爛然(あいらんぜん))

3.朱珠燦(すずあきら)(朱爛然(あけらんぜん))

「あたし相手に近接戦か、バイブス上がるぜ。肝が据わった奴は嫌いじゃねェ!」


 強力な蹴り、そして大木に打ち付けられた衝撃による大ダメージ。

 そこから戦線復帰までは伽耶(かや)が飛距離から算出した猶予よりも僅かに長く、その誤差は(あきら)が回復を図ったために生じていた。

 そんな彼女はよろめきながらもどこか楽しそうな表情を浮かべていて、ゆっくりと立ち上がると多少の回復を経て戦線復帰を果たした彼女は再び藍爛然(あいらんぜん)の前に立ちはだかり、今度は自身から近接戦闘を仕掛けていく。

 拳技、足技、マナを駆使した多彩な猛連撃を繰り出す好敵手に対し、一方の藍爛然(あいらんぜん)は一切動じることなく流れるような連続猛攻撃をあしらい、マナを相殺することで露零ろあが安全地に下がるまでの時間を稼ぎ、同時に自身に注意を引き付けることに成功する。


 そんな好敵手の防戦一方な戦闘スタイルから攻撃の気配を一切感じ取ることができないあきらは見極め期間と自分に言い聞かせてしばらくは同じ土俵(たく)で茶番を嗜むも、痺れを切らすと建前ごとちゃぶ台をひっくり返して今度は言葉で挑発する。


「一ついいことを教えてやるよ伽耶かや、戦場での隙は()に直面するんだぜ。いくら相性のアドバンテージがあってもそんな余裕ねぇだろうになァ!!」


 水鏡組(ふたり)のやり取りを聞いていたのだろうか。

 直前に「肝が据わっている」と自身の土俵とくいで仕掛けてきたことに対して最大限の賛辞を送っていただけに、目前の敵とは別に意識を裂いている伽耶かやのぬるま湯のような腑抜けた気構えに腸が煮えくり返るような苛立ちを覚えたあきらは皮肉めいた言葉を吐き捨てると同時にマナを発散させ、周辺の空気中に含まれる水分を一瞬のうちに蒸発させていく。

 そんな好敵手の粗削りな脳筋戦術を前に藍爛然(あいらんぜん)は自身の固有のマナの特徴を思い返していた。


 伽耶かやの固有のマナ()にはいくつか大きな特徴がある。

 まず一つ目に、彼女のマナは零を一にすることができない。

 故にマナに起因する有利不利は状況次第で覆り得る。


 次に二つ目だが、一つ目の「零を一にすることができない」ということを前提に、マナを用いて増幅させた()にはベースとなったものによって()()効果が付与される。

 例を挙げるなら人体の水分がベースなら、一度喉を通っているため()()ができる。

 空気中の水分を増幅させたのならばいくら増幅しようと()()し続ける、といった具合だ。


 次の瞬間、大人の余裕にも見える風格を感じさせる表情を浮かべた伽耶かやは心を鷲掴むような心眼を飛ばして重圧プレッシャーを与えると、ほんの僅かに硬直した好敵手の誤算を指摘し腰元に携えた刀にそっと優しく手をかける。


「あんたに一つだけうといたるわ。自分の()()で勝てるほどウチは甘くないで」


「好きに言ってな。臨機応変、順応性、即席の戦術こそあたしの強さたる所以ゆえんだ」


「それにしてはずいぶん情報頼みやけどウチの戦術バリエーションを甘く見んことや。あんたの強みは()()でしかないんやで」


 激化する攻撃と口撃はまるで交わらない水と油そのものだ。

 片や全てを突っぱね、拳で語るスタイルがウリで腕っ節に定評のある朱珠燦すずあきら


 片や巧みな話術で相手の懐に飛び込むことに長けた生明伽耶あざみかや


 そんな二人を「バリバリの武闘派」と『穏健派』だと一口に称すのは容易いが、穏健派の中でも特に彼女は怒らせてはいけないタイプの代表例と言える。

 故に無意識のうちに逆鱗に触れていた所有者あるじの感情を代弁するように鞘に納められた眠れる「竜」は手が付けられない獰猛な『水竜』と化し、マナを封じられた形となった伽耶かやはそのまま腰に携えた刀を初めて抜刀する。

 しかし鞘から抜かれ露になったその刀身に刃はなく、言うなれば()()と表現するのが自然だろう。


 ――――刃のない刀など。


 生き死にが物を言う戦場で、刀としては(なまく)ら以下という()()の武器を使用するのは相対者に対する侮辱とも取れる行為だ。

 伽耶かや本人にそのつもりはないが、相手が必ずしも()()に捉えるとは限らない。

 彼女のそれは戦いに重きを置いているあきらの怒りを買うには十分すぎる代物しろものであり、案の定、彼女は自身に向けられた刃のない刀を見るや落胆し、活火山のように沸々と湧き上がってくる怒りの言葉を感情のままぶつける。


模造刀もぞうとうだと? 自慢の慧眼けいがんも衰えたんじゃねぇのか。それじゃあたしを取れねぇ、よッ!」


「…………」


 刃の無い刀、それ即ち咬合力が最大の強みである野生生物から牙や歯を奪った状態に相当する。

 よって如何に咬合力が強かろうと、その長所はそれ単体では発揮されないのが生存競争における残酷な現実だ。

 故にあきらの怒りは至極真っ当だがそんな彼女の(おもい)の籠った言葉をよそに、伽耶かやは脱力した状態で刀身を地面に向けると一瞬で間合いを詰め横一文字に刀を振り切る。

 これまでとはまるで比較にならない動きの洗練さに形勢は逆転、一気に防戦を強いられた朱爛然(あけらんぜん)は瞬時に後方に飛び退くと間一髪でキレの増した攻撃を躱していく。

 しかし直線状の間合いを瞬時に潰す好敵手に対し、今度は上空に飛び退くと彼女は自身が燃やした木々を飛び移りながら藍爛然(あいらんぜん)と刀の分析を開始する。


「なんだありゃ? 刃がねぇのになぜ切れる……だけならまだしも身体機能が飛躍した。あのなまくら、まさか!!」


 その時、あきらは全て躱したつもりでいたが攻撃が頬を僅かに掠めていたことに流血で気付き、切り傷から微量の血が頬を伝って流れ落ちる。

 血の一滴二滴、彼女にとってどうということはない。

 ましてや鮮血が伽耶かやマナ発動条件の対象になることなどもっての外だ。


 ――――しかしあきらの表情からは明らかな焦りが見て取れた。

 彼女が刃のない刀に切られたことに違和感を感じていると、今度は自身が放つマナにも異変が生じ始める。


「なんだこりゃ?」


 突如、(あきら)が放つ(もや)のような()()マナは風に揺られる炎ように不安定になり、彼女は切り傷から微量の水分が体内に侵入したのだと直感する。

 すると発散しているマナを今度は体内に集約させ、切り傷から体内に侵入した水分を自身の熱で飛ばしていく。


 あきらが生まれ持った固有のマナ()、これにも大きな特徴がある。

 細々《こまごま》した特徴を挙げれば切りがないが、最も有用性が高いのは何といっても「放熱」と『帯熱』、この二つを任意のタイミングで切り替えられることだろう。

 それは自身の身体を起点としている分止める手立てがないに等しく、細かな制約がある伽耶かやマナより使い勝手がいいと言えるだろう。


「流動、あるいは循環か? 身体機能の上昇に加えて水流による打撃と斬撃の併用……ウザってぇ」


「そういうことや。生憎ウチはあんたとちごうて短期決着を望んどる。悪いけど出し惜しみせえへんで」


 伽耶かやの発言はあきらがまだ全力を出していないとわかってのことだろう。

 対する彼女は自身と対等に張り合える数少ない好敵手の一見()()とも取れる、認めているからこその発破に答えるように懐からガーネットのついた指輪を取り出すと右手中指にはめていく。

 そんな二人の様子を遠く離れた安全地からただ静かに眺めていた露零ろあは手に持っていた一枚のスカーフをギュッと握りしめながら、何やら覚悟を決めた表情を浮かべていた。


「お姉ちゃんが任せてくれたんだもん。私だって――」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。