第1話 農家、新たな脅威に出会う
山口へ戻ってから数週間、拓海は畑仕事に没頭していた。沖縄での騒動も一段落し、ようやく「農家の平穏」を取り戻せるかと思った矢先だった。
「水没ダンジョンで異常な魔素反応が観測された」
そんな報告が基地から舞い込んできたのだ。
水没ダンジョン――拓海がかつてコアを吸い尽くし、完全に死んだはずのダンジョン。だが調査部隊の報告では、内部に不自然な生命反応が確認されたという。
拓海とレイカ、そしてベジは現地へ向かった。
ダンジョンの中は確かに荒れ果てていた。水は引き、岩肌は乾ききり、残骸のような魔素野菜が辛うじて生えているだけ。しかし、その奥で彼らは目撃する。
「……神谷?」
そこに立っていたのは、自衛隊の訓練校で共に汗を流した男、神谷だった。だがその姿は人間とは呼べない。皮膚は黒い魔結晶のように変質し、目は爛々と赤く輝いている。
「高山……やっぱりお前か」
低く響く声は、かつて聞き覚えのあるもの。しかし言葉に混じるのは憎悪と怨嗟だった。
「俺を置き去りにしたな。お前がコアを喰らったせいで、俺はこのダンジョンに取り込まれた。二ヶ月……魔素に満ちた野菜だけを食って、生き延びてきたんだよ。その結果、俺は――選ばれたんだ」
神谷の背後に黒い魔素の靄が渦巻き、床から結晶化したツタが伸び上がる。それはまるで、彼自身がダンジョンと一体化した証だった。
「違う! お前を置き去りになんてしていない! 俺だって探したんだ!」
拓海は叫ぶが、神谷は耳を貸さない。
「言い訳はいらねぇ! 俺はこの力で頂点に立つ! 人間も、ダンジョンも、すべて俺が支配する!」
もはや理性は失われていた。ダンジョンが新たなボスと認識し、彼を強制的に変質させてしまったのだ。
拓海は拳を握りしめる。救いたい――だが、それが叶わぬことも分かっていた。
背後でベジが低く唸り、レイカが刀を構える。
「神谷……もう後戻りはできないのか」
「後戻り? 俺はようやく前に進めるんだ!」
次の瞬間、神谷の体から爆発的な魔素が放たれた。床が砕け、結晶化した蔦が襲い掛かる。
拓海はスコップを握り、農家としての誓いを胸に刻む。
――罪を償わせたかった。だが、もうその望みは絶たれた。
ならばせめて、最期は自分の手で。
「いくぞ、神谷!」
崩れかけた水没ダンジョンの奥で、新たな戦いが幕を開けた。
時間ができたので新EPを投稿。
新作の「農民こそが最強です。〜うっかりダンジョンを水没させたら最強に世界最強になってしまいました〜」もよろしくお願いします。
https://ncode.syosetu.com/n6868ky/




