第1話 農家、稲刈りをする
「稲刈りだーーっ!」
朝の田んぼに拓海の声が響き渡る。
この数か月、訓練だのダンジョンだのに振り回され、まともに農業に専念できなかった。
ようやく本業に戻れるのだ。胸が高鳴らないわけがない。
「……そんなにテンション上がるもんですかね、稲刈りって」
背後から呆れた声が飛んできた。振り返れば、作業着姿の水城教官。
白い軍手をはめ、麦わら帽子まで被っている。どう見ても農家の人だ。
「いやいや、機械化で昔より楽になったとはいえ、稲刈りは農家にとって一大イベントなんですから」
「ふーん。まあ、やったことないし、経験は大事かと思って」
水城は軽く肩をすくめたが、その目は周囲を観察するように鋭い。
——絶対、稲刈りだけが目的じゃないな。
「おはよー! 私も手伝う!」
そこに元気いっぱいの声が加わる。
田んぼ道を駆けてくるのは、幼なじみのレイカ。長靴にジャージ、手には鎌。
「お前、自分の家の畑手伝えよ」
「うちはもう終わったもん。だから暇」
「暇なら家で寝てろよ……」
結局、三人で稲刈り開始。
コンバインが唸り、稲が次々と刈り取られていく。
水城は案外器用に束ね、レイカは妙に張り切っている。
「で、本音は?」
稲を刈りながら、拓海は水城に小声で尋ねた。
「……行方不明の自衛隊員のことよ」
水城の声色が一瞬、冷える。
「先日の実習で死んだと思ってた三人のうち、一人が生き延びてた。命からがら逃げ出したらしいけど……」
「そいつが何か?」
「魔晶石を持ち出してた。それも、あのダンジョンで使われた量以上に」
稲穂を束ねる手が、思わず止まった。
つまり、まだどこかに残りの魔晶石があり、そいつが持ち出している可能性が高いということだ。
「協会は警戒中。特に、この村の周辺な」
「……それで俺の田んぼに稲刈りに来たわけね」
「まあ、そういうこと」
水城はにやりと笑うが、その笑みに油断はなかった。
秋晴れの空の下、稲刈りは続く。
だが、拓海の胸中には、刈り取った稲の重さとは別の、じわりとした緊張が広がっていた。
次回18時更新予定です。




