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1話 草原の研究者

 再び意識が戻り、目を開けるとそこにはフローリングではなく、土と草があった。

 どうやら異世界に来たらしい。


 方向性は多少違えど趣味が読書なだけあって、いわゆる異世界転生だとか、転移だとかの小説もいくつか読んだことがあるので、納得は出来なくともなんとなく状況は理解出来た。


 自室で意識を失ってから、ここで再び目を覚ますまでの間にぼやけた記憶だが女神様だかなんだかとあーだこーだとやりとりをしたような気がする。

 詳しくは思い出せない。

 使命だったか、依頼だったかも受けたような気がするが、それもいまいち思い出せない。


 理由は解らないが何故かハッキリと分かるのは、ここが日本でも地球でも無い異世界だということと、最初に何をすべきかということだけだ。

 最初にすべきことーー


「ステータス」


 すると、何もない空中にホログラムのように文字が浮かび上がる。

 ありがちだなと苦笑いしながら文字を眺める。



名前:シラベ・スオウ

年齢:15

レベル:1

体力:10

魔力:100

力:10

耐久:10

俊敏:10

スキル:錬金術師[鑑定Lv1]、言語変換



 割とあっさりしたステータス画面だ。

 年齢が10歳若返っている。

 身体も中学生か高校生くらいの頃に戻っている気がする。

 なぜだ。分からない。


 とりあえずステータスから分かったことはどうやら俺は勇者や英雄では無く、錬金術が使え、魔力だけがやたら突出しているところから、魔法使い系統の素質がありそうだということだ。

 言語変換とやらは異世界モノでありがちな言葉の壁を乗り越えるご都合スキルだろうと予測する。


 うろ覚えではあるが、女神は俺にこの世界で何かをさせたがっていたと思うので、言葉が通じず何も出来ずに終わる、ということだけは回避させるべく言語変換スキルを付けてくれたのだろう。


 はて、女神は何と言っていたか。

 だめだ。やっぱり思い出せない。

 分からないが、言語変換が女神の都合で持たされたスキルなら、もう一つの錬金術もその為に持たされたと考えるべきだろう。


「まっ、やってみるか」


 独り言ちながら、辺りを見回す。

 目の前にはずっと平原が広がり、少し先に土が露出した街道のようなものが左右に続いている。

 左手の街道のかなり向こうに点程の大きさだが、人工物のようなものが見える。

 背後には50メートルほどは平原が続いているが、段々と草の背丈が高くなり、その先は森が広がっている。

 まずは手始めに足元の石ころを拾い上げ


「鑑定」


 口に出しながら石に意識を集中してみる。

 すると先程と同じように空中に文字が浮かび上がる。



石:石



 うーん。

 鑑定とは?と、残念な気持ちになりながら、スキルの発動自体は成功していることを確認する。

 ステータスをもう一度見てみるが、魔力は減っていない。

 それならばと、そこらにあるものを手当たり次第に鑑定していく。



土:土


草:草


花:花


服:服


木の枝:木の枝


蟻:蟻



 不毛なことを繰り返しつつも、鑑定スキルを少しずつ研究していく。

 鑑定の発動はわざわざ口に出す必要は無いが、意識の集中と、鑑定したいものを特定してイメージする必要があり、[地面]のように抽象的な認識では発動しない。

 同様に空気についてもイメージが難しく発動しない。

 慣れてくれば、イメージの仕方があるのかもしれないが、今の俺には難しそうだった。

 更に頭が変になりそうだが、同時に石と草を別々に意識して鑑定を行うことで、複数の鑑定を同時に行う事も可能なようだ。3つ同時は頭がどうにかなりそうだったのでやめておいた。

 ちなみに自分自身に鑑定を掛けたらステータス画面が飛び出して少し驚いた。


 手近に新たに鑑定する物がなくなり、かなり遠くに見える人工物に向かってみるかと歩きながら、2巡目の鑑定を繰り返していると変化が起こった。



服:Tシャツ


服:ジャージパンツ


石:小石


草:ダネモ草


草:サーモギー草


花:ダネモの花


蟻:ダネモアント



 どうやら鑑定Lvが上がったらしい。ステータスを確認すると鑑定Lv2になっていた。

 なるほど。

 これもまたありがちだが、スキル毎に経験値が設定されており、使用する毎に経験値が貯まり、一定に達するとLvが上がる仕組みだろう。

 予想通り、と自画自賛しながら、本当にファンタジーのような異世界に来たという事を実感を感じた。


 スキルの研究と、自身の成長に楽しくなってきた俺は鑑定Lvを上げるべく、どんどんと鑑定を発動させていく。

 歩けど歩けど、いっこうに人工物に近づいている感じがしないが、よく目を凝らせば点だった物が壁のような感じに見えてきた頃には鑑定Lvは11になった。



石:サンドストーンの欠片

32.3g

主成分 石英 長石

硬度 30

含有魔力 0

特徴 陸地全般に見られる一般的な石


ダネモ草:ダネモ草の茎と葉

7.0g

主成分 水 繊維質

含有魔力 0

特徴 ダネモ平原に見られる植物の一種


サーモギー草:サーモギー草の茎と葉

8.1g

主成分 水 繊維質

含有魔力 0

特徴 低級の薬草として知られる一般的な植物



 Lv11での鑑定結果はこんな感じだ。

 鑑定Lvの上限は分からないが、まだまだLvは上げられそうだ。

 というのも、Lvが10になった時点で鑑定の他に精製というスキルが新たにステータスに現れたのだ。


 使ってみると元の素材から自分が認識している成分を抽出できるようだ。

 掌の上で草が一瞬光に包まれ、水と繊維の束と茶色い粉が残った。

 繊維の束は手元に残ったが、水は手を濡らして大半が溢れてしまった。

 残りのおそらくその他の雑多な成分の滓である茶色い粉も風に飛ばされてしまった。


 使用後に多少の脱力感を感じたので、またステータスを確認すると、魔力が7ほど減っていた。

 これまた予想通りというか、鑑定が魔力消費無しだったのが特殊なだけで、スキルを使えば魔力を消費するだろうと予想していた。


 新スキルの効果を確認しつつも、気になったのは鑑定のスキルLvが10で上限なのかどうかということだった。

 新スキルも気にはなるが、持ち前の知識欲が鑑定という名の「何でも図鑑」に魅了されていたのだ。

 今はまだ大した事は表示されないが、自分の知らない事を教えてくれるこのスキルは俺にとって最高のスキルとなり得るかもしれないと考えると新スキルの検証より、鑑定Lv10の先の有無を確認をせずにはいられなかったのだ。


 鑑定の連続発動を続け、先ほどまでよりも倍近い試行回数を重ねた頃、鑑定スキルがLv11に上がることを確認でき、思わず口の端が上がった。

 新たに追加された鑑定結果の項目を読みながら、あっちにフラフラこっちにフラフラと鑑定を繰り返した。

 ふと思いつき、精製で取り出した後の繊維質にも鑑定をかけていく。

 


繊維質:植物の繊維

1.7g

主成分:繊維質

含有魔力:0

特徴:植物の低質な繊維



 スキルで作成されたものでも問題なく鑑定はできるらしい。

 やはり大して目新しい事は表示はされないが、期待感が体を動かしていく。




 どれくらいの時間が経っただろうか。

 目覚めた頃には横から差していた日差しが上からになり、更に傾いていた。


 かなりの時間をスキルの研究に費やしていたらしい。1日の時間や、昼夜の概念が地球と同じなのかは分からないが、少し不味い気がしてきた。

 こんな何も無い場所で夜を迎えるわけにはいかない。

 今はたまたま周りに見当たらないだけで、野生生物が出てきて襲われるかもしれないし、なによりここは異世界だ。さっきから冴え渡っている予想が正しければ、野生動物どころか魔物が出る。

 急に不安が込み上げてきた。今手に持っている木の枝の精製と鑑定を終えたら、スキルの研究は切り上げて急いで人のいる場所を探そうと決める。


 だが、問題が発生した。

 最後の精製を発動した瞬間、急に全身が強烈な倦怠感に襲われた。なんとか倒れ込むのは堪えたが、膝をついて目眩と脱力感を耐え続ける。

 ステータスを見ると魔力が0になっていた。

 精製を使うたびに疲労感は感じていたが、0になるとここまで一気に動けなくなるとは思っていなかった。


 まるで何日も会社に泊り込み、徹夜を繰り返した後のような怠さを感じる。

 最悪な気分だ。

 過剰な疲労に警鐘を鳴らす身体の感覚が自室のベッドの横で意識を失う寸前の後悔と、辛く苦しい毎日を強制的に思い出させる。


 このままここで眠ってしまいたい。


「あぁ、異世界まで来て何やってんだ俺は。こんなになる前に辞めてやるって心底思ったはずなのに…」


 違う。

 仕事じゃなかった。

 自分で勝手にやらかしただけだった。

 酷い倦怠感で記憶が混乱してしまったようだ。

 現状を認識し直し、そして自室での断末魔のどうしようもなく乾いた後悔を思い出し、俺は決めた。


 この世界では絶対に社畜にはならない。

 人にコキ使われて、搾り取られて、使い潰されるだけの人生なんて真っ平だ。

 働かずに自分のしたい事をして生きてやる。

 思い出せない女神からの使命や依頼も知ったことか。

 この世界で俺は、俺自身の為に生きるんだ。


 未だ気分は最悪なままだが、目だけはギラギラと光を取り戻す。

 倦怠感に釣られて空腹感まで急に込み上げてきた。こっちに来る前から数えれば、ほぼ丸1日何も食べていないのだ。

 はるか向こうに見える木の柵のようなものを見据えながら思う。

 まずは、そう、飯だ。

 どうせ手持ちも無いんだ。

 誰かに奢ってもらおう。

 働いて稼いだ金で食うんじゃない。

 他人の金で飯が食いたい。


 気力を振り絞って立ち上がり、俺は再び歩き始めた。


 ここまで読んで頂きまして、ありがとうございます。

 お楽しみ頂けたでしょうか。

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 次話もご期待下さい。

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