新しい家族
「あの、なんで私を養子にしたんですか? 私、この世界の人ではありませんし、そもそも人ですよ?」
「あら、種族なんて関係ないわ。わたくしは雪狐族でソルは竜族だしね。魔国ではいろんな種族の者が暮らしているし異種族で婚姻を結ぶなんて大して問題ではないわ」
竜族……。鬼じゃなかったんだ。
「でも、見ず知らずの私を養子になんて……」
「それならこれから知っていけばいいじゃない。いろいろ教えてね」
「でも……」
否定するばかりいる鈴にそれでも高圧的に言うでもなく優しく語り掛ける。
「いい、リンちゃん。そんなに難しく考え込まなくていいのよ。わたくしがリンちゃんをわたくしの娘にしたかった。それだけなのよ。そりゃあ勝手に決めたのは悪かったかな~とは思っているのよ」
「あのときリンは我に殺してくれとそう願った。だがあんな哀しい笑顔をみせられては見殺しになど出来ん。それにな、我はなんの罪もない者を無作為に殺したりはしない。お前には幸せになってほしいと思っている」
「幸せに……」
「わたくしはね、どんな子でも幸せになる権利があると思っているのよ。出生や種族に関係なくね。なんの因果かこうして魔国にわたくしたちのもとに来たんだもの、哀しい思い出だけを抱えて終わるなんてさせないわ。笑顔でいい人生だったと寿命を全うするのが一番だとおもうのよ」
「我が拾ったからな。リンを幸せにするし、それを一番近くで見る権利がある。親子もその手段だと思ってもいい」
こんな、会って間もない、いえ、何も知らないのに私なんかにそんな優しい言葉をかけて。だって私は、なにも持っていないのに。
「わたくし、娘にやりたいことがあるのよ。可愛い服を着せたいし一緒にお茶会もしたいわ。街でショッピングもいいし、恋バナなんて憧れるわ。ねぇ、こんなわたくしの願いを叶えてくれないかしら?」
そんな笑顔で聞かれたら、断れるわけないじゃないですか……。
「ふふ。はい、お願いします。……ママ」
最後は恥ずかしくてボソリと呟くように言ったが二人にはきちんと聞こえたようだ。
「やぁ~ん、ママって、ソル聞いた!? ママって言ったわ」
「我のことはパパと」
「はい…………パパ、ママ」
自分で言い出したが恥ずかしい。とにかく恥ずかしい!
俯いてボソボソと小さい声でしか言えなかったのは許してほしい。でも……嬉しい。嬉しくてつい顔が緩む。
そんな鈴を見た二人も微笑んで部屋は和やかな空気に包まれた。
(なんか、いいなぁ。この雰囲気。懐かしい、家族みたいな暖かい感じ)
それからは好きな食べ物や趣味、生まれた地のことなど、たくさん話し合った。もちろんソーリャヴィシィスの膝の上で、だ。もはや定位置になっている。
まだパパ、ママと呼ぶのは慣れなくて、気恥ずかしさに口ごもることがあるけれど、呼ばれる度に嬉しそうな顔をしてくれるから早くこの呼び名に慣れようと鈴は思った。
その日はそのままアンジェリカの部屋で昼食をとった。昼食では当然のように手ずから食べさせられた。これは慣れなくてもいいですよね!?
というかいつまでこの食事方法なのか……。ずっとではない……ハズ。そうであってほしい。
「そういえばリンちゃん、あなた今いくつ?」
「18歳です」
(ああ、そういえば進路決めていなくって困っていたんだっけ。将来の夢とかやりたいこととかなかったし、両親も……だから進学するより就職かな~って漠然と考えていたな)
「「……」」
「……? どうしたんですか?」
「いえね、13歳ぐらいかと思っていたわ」
「え」
思わずソーリャヴィシィスの方を見たら無言で頷かれた。日本人は幼く見えるって言われるけどまさか5歳も下に見られていたとは思わず、鈴はショックを受けた。
(そんなに子供っぽく見えるの!? いや、身長は平均よりかは低いけど……胸だってまあまああるし……。だから膝に乗せられたりあーんされたりしたの!? ウソでしょ!?)
「大丈夫よ! リンちゃんが何歳だろうと扱いは変えないわ」
いえ、変えてほしい部分は大いにあるんですが。
他愛もない話をしていくとお腹が膨れたせいなのか鈴はだんだんと眠くなっていった。
「まぁ、可愛いわ! うふふ、また明日もたくさんお話しましょうね。おやすみ」
アンジェリカは鈴の額にキスをし、頭を撫でる。その心地よさにさらに瞼が下がっていく。
こうやって眠るから子供に見られるのかなっと微睡みの中でそう思いながらも睡魔には勝てず、鈴はそのままソーリャヴィシィスの膝の上で眠りに落ちた。
穏やかな寝息を立てる鈴を見やる。
「……とてもいい子ね。辛い思いをしたのに卑屈にもならずに、根っからの優しい子なのかしら」
「気に入ったか?」
「ええ、とっても。この子にはもう辛い思いなんて何一つしてほしくないわ。キレイなものだけを見せてあげたい、なんて思うことはわたくしのエゴかしら」
「いいんじゃないか」
ぐっすりと眠っている鈴を気遣ってか小声で会話を交わす二人。その眼差しは愛する我が子を見守る親のように慈しみに満ち溢れていた。