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猫二匹と始める異世界下水生活  作者: 友若宇兵
第一章
9/75

9話

改行を増やしてみました

見やすくなると良いのですが

* マリークレスト *



 白猫さんが水を出せるようになってからは色々早かったと思います。オリーという名前でしたっけ、あの方が酷い目に合ったのにはびっくりしましたけど。彼の世話をすることを条件に、こちらからお願いして猫たちに協力いただけることになりました。もちろんそれだけではありません。助けてもらった恩は返さないといけませんから。


 綺麗な水を適量流し続ける。言葉にすれば簡単そうに思えますが、実行するには桁違いのマナが必要になります。精霊石も手元に無いのに一体どうやってのか気になってしょうがありません。白猫さんに聞いてみますか。


「私にも自分の限界が那辺にあるのか計りきれておりません。また周囲からいくらでもマナを引き出せるので恐らく大丈夫だと思います」


 なんて返事が帰ってきました。とても信じられません。色々言いたいことはありますが、今は利用させてもらいましょう。


 まず第一に怪我人の治療。これは手の空いている人間でおこなうしかありません。とはいえ、そもそも治療手段が無く、ニールまでは一日程度の距離。恐らく重傷のものは保たないでしょう。私も火力一辺倒ではなく、もっと様々な魔術に通じておけばよかったと考えなくもありません。今更ですが。オータル卿は苦痛を長引かせない方が慈悲になりますとは言っていましたが、未だに決断できません……。もっとも、私の責務なので逃げるわけにはいかないでしょう。


 この状態ではとても当初の目的を達成することは不可能です。いえ、もしかしたら猫たちの力を借りれば可能かもしれませんが、それを依頼出来るほどの信頼関係を築いてからでしょうね。


 オータル卿とも話し合いましたが、味方負傷者の数と死者の数が合いませんでした。具体的には今回のために臨時で雇った、人足二名の遺体が見つかりません。はっきり確認していた敵の内通者は、騎士二名と従士一名でしたが、おそらく他にも居たということなのでしょう。もしかしたら猫に巻き添えを食らったのかもしれませんが……。まぁ、猫は襲撃者の一団から外れたものは処理していないと言っていますし、その言葉を信じるしか無いと思います。つまり、差し引き見つからなかった人足二名がどこかで細切れになっているということです。


 生き残った皆さんに確認してもらいましたが(流石に私は見る勇気がありません)、バラバラになったものたちはとても判別がつくような状況ではないとのこと。襲撃者たちが結局何人居たのかもわかりません。裏切り者は都合五名だったと判断するしかないでしょう。騎士と従士に人足を合わせて二十名の内五名。裏切り者を生かして捕らえられなかったことが悔やまれてなりません。


 一体誰の手引きによるものだったのでしょうか。人足二名は最初からそのつもりで紛れ込んだと考えるべきだとして、騎士団内部からの裏切り者ですか。騎士たちと領主家は長い付き合いでした。これは内部の手によるものである可能性も高いと言えるでしょう。


 猫たちの助力が無ければ負けていたのはこちらですから、必勝を期してのことだったのかもしれません。私が狙われていたのなら十中八九、叔父上の命令。そうではなく、騎士団自体の弱体化が主目標で私がオマケの場合は……判断が難しいのですよね。ニールの戦力は過日の敗戦で大きく低下しています。そこに来てこの打撃は致命傷になりかねません。……今は余計なことを考えるのはやめましょう。まずは今抱えている問題に対処しないと。




 手当が終わり次第、早めにこの場を引き払いニールへ戻ります。襲撃者に追い散らされていた馬の方はキジトラさんの助力もあって集め直すことができました。白猫さんが説得してくれまして、そこまで力を貸してもらえるとは思っていなかったので驚きました。馬は随分と怯えていたそうでなだめるのは手間かもしれませんが、居なくなるよりはマシでしょう。


 荷馬車は2つしか無いので、怪我人を優先するのは当然しょうし、特に家格の高い騎士の躯は持ち帰る必要があります。本来であれば鎧兜はかさばるので置いていきたいところですがそうもいきませんよね。オータル卿にも言われましたが結構な財産らしいですから。大部分の亡骸は後で人を送って運びますか。この時期ですから傷み始めるまで時間がかかるとは思います。しかし、放置すれば野獣に傷つけられてしまいますし、もしかしたら通りすがりの人間に武具を奪われるかもしれません。やはり何人か見張りを残さないと。馬も全部は連れて戻れませんのでそちらの監視のためにも人が必要ですね。


 結局、動ける者五人の内二人には御者、二人はこの場に残して馬と遺体の管理、もう一人は徒歩で可能な限りの馬を連れて帰ってもらうことにしました。あとはオータル卿に先触れをお願いして、報告と迎えを寄越してもらいましょう。それが最善手かと。徒歩で一日の距離なら馬で早駆けすればそこまでの時間はかからないと思いますし。


 方針を相談した上で各人に指示を出します。先触れの件は快く引き受けてくださり、すぐ出発されました。それから従士の一人に気絶したオリーの介抱を頼みました。出発までに起きなければそのまま荷馬車に乗せてあげてください、と伝えておきましたよ。


 勿論、猫たちに彼を害するつもりはないと説明してからです。彼には色々話を聞かなければいけませんし、我々の身に何が起こったのかお父様と叔父さまに報告する上で喋る猫という存在は大きな手札になるでしょう。




***




 酷い揺れで目が覚めた。周りに固いものがたくさんあってめっちゃ痛い。寝ている内に荷馬車に積まれていたらしい。って周りに積んでるのこれ死体じゃん!! 

 びっくりして飛び起きたら荷台から落ちそうになった。僕が立てた物音にびっくりした御者も驚いて落ちそうになってた。御者は慌ててなにか捲したててるけど、まぁわからない。ビアンコに通訳してもらわないと。


「ビアンコ、カルネ、どこに居るの?」


「オリー、聞こえてるぞ。前から思ってたが、お前には落ち着きがたりねーな」


 二匹はもう一台の馬車に乗ってた。そちらは怪我人を載せているらしい。え、なんで僕は死体と一緒なの? 扱い酷くない? やっぱり自然な差別があるわけ??


「ビアンコ、この人何言ってるの?」


「死体が起き上がった! 神よお助けを!! と言っていますね。どうやらこちらの世界では死体は起き上がらないようです。一つ賢くなりましたね」


 お前は何を言ってるんだ。真顔になってしまった。


「いやいや、この人に言ってよ。元から気絶してただけなんだって」


 なんとかすぐ誤解は解いてもらった。しゃべる猫のことはこの人達も聞いていたらしくて、ビアンコが言葉を話してもそれほど驚いたりはしなかったしね。


 お姫様からは丁重に扱えと言われてたようではある。あーでも、西方人(彼らの中では黄色人種=西方の人間ということになっているらしい)ってのはちょっと地位が低い様子。やっぱり差別とかあるのかな? いや、この御者の人はそもそも僕が死んでるものだと思ってたみたいだし、同じ荷馬車には地位の高い騎士だけで、従士たちはまだ現地に置きっぱなしらしいからそれと同じ扱いってことは一応丁重なのか……?


 荷台からは降りて御者の横に座らせてもらった。話すことがなにもない。というかそもそも話せない。御者さんも退屈らしくて僕に話しかけてくる。互いに何言ってるんだかさっぱりわからないんだけどねぇ。


 僕は文系とはいえ、英語は受験用に勉強しただけで会話は全然だった。そもそもこの人達は英語を喋ってるわけじゃない。このまま半日この空気ってのもしんどいなぁ。言葉の通じない異文化交流って何をやればいいのかね? 御者の人も会話ができないから話しかけるのはやめて鼻歌歌ってるし。そうか、歌か。歌ならまぁ言葉はわからなくてもふしでなんとなく楽しめたりするもんね。


 そこから、時計が無いので正確にはわからないけど、多分4時間くらいのアカペラソロが始まった。結構喜んでもらえたし、喉が乾いたら水ももらえたものの、正直しんどかった。曲のレパートリーがいい加減尽きたよ。覚えてる曲はなんでもかんでも歌ったからね。お姫様も馬に乗ったまま結構近くに来てたから歌は聞いてたんだろうなぁ。でも会話ができないと絡みづらいから話しかけてはこなかった。しかし、異世界にきて僕は何をしているんだろうね。




***




 荷物を積むのは従士たちに任せ、荷馬車に猫二匹が乗っていたのでオリーの方は亡骸側の荷台に積まれているとは気が付きませんでした。気絶しているだけだとは伝えたつもりだったのですが……。まぁ猫が気にしてないのなら気にしなくても問題ないのでしょうか。


 置き出したオリーは荷台に座ると歌を歌い始めました。伴奏が無いとは言え異国の歌というのもなかなか情緒のあるものですね。しかし彼はどれほどの歌を知っているのでしょう。街の吟遊詩人でもこれほどの曲は知らないのでは? しかも曲調も次々と変わり、歌詞がわからないのがもったいないほどですね。案外彼も旅の吟遊詩人なのかもしれません。吟遊詩人なら肉体労働者には見えないというのも理解できますし、猫を連れているというのはありえる話かも、と思いましたが吟遊詩人が公用語に通じてないはずがないですからね。悪くはないと思いますがハズレでしょう。




 荒れ地を抜け、森へさしかかりそろそろ街が見えてくるだろうというところで、進行方向から来る集団が見えました。オータル卿を始めとした騎士8名と何台かの荷馬車ですね。あちらも気づいたようで手を振ってきます。


 それに応じて馬の歩を緩めると、あちらも止まりました。


「姫様、ご無事で。ご覧の通り援軍を連れてまいりました」


 私の予想よりも多めですね。騎士がさらに来るとは思っていませんでした。


「オータル卿、皆さん、ありがとうございます。ではこれより案内しますのでついてきてください」


 そこで怪我人と亡骸だけ先に帰ってもらって、私は案内のために来た道を引き返そうするのを押し留められました。


「それには及びません。私の方で現場へ向かいますので。姫様にはお館さまから寄り道せずすぐに戻られるよう申しつかっております」


 言いたいことはありますが、責任者として責任を取らなければなりませんね。


「わかりました。では先に戻らせてもらいます」


 すると、オータル卿についてきた騎士のうち半数が私の伴をすべく馬首をめぐらすではありませんか。


「もうニールは目と鼻の先です、護衛には及びません。何か起こるとは思えませんし」


「その起こりえない事態が起こったのが此度の惨状かと。ここで姫様になにかあっては我々の首がありません。お館さまは姫様の安全を第一に考えられております」


 言葉もなく、頷いて返しました。大人しくお父様の元へ戻ることにします。オータル卿は馬上で一礼すると騎士の一部と新しく連れてきた荷馬車を引き連れて向かいました。ふと見るとオリーはぼーっとこちらを見ていましたが、言葉が通じてないのであまり関心はなさそうです。騎士たちも異邦人と猫に特別興味を示しません。恐らく詳しい話を聞く暇も無かったのでしょう。


 やがて、森が途切れ我がふるさとの城壁が見えてまいります。なぜだか感慨深い。たった1日留守にしただけなのに。失ったものが多すぎたせいでしょうか。


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