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猫二匹と始める異世界下水生活  作者: 友若宇兵
第三章
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3話

* オリー *


 

 水の精霊石とかいうものの扱いについて相談したかったのでお屋敷を訪問した。もちろん地下からじゃなくて地上からね。地下へ続く通路は残してあるそうだけど、お屋敷側から厳重に施錠されてるらしい。僕のねぐらにしか通じてない訳じゃないから、開けっ放しにしておくと何が入り込むかわからないからね。まぁあそこはいざという時の脱出路になるという話も聞いた。地下の何箇所かから、市街へ通じてる道もあるんだそうな。めんどくさいけど一度全部まわった方がいいのかねえ。


 カルネはお留守番だ。鼻がまだ入れ替わったままなので、日中外に出ようとはしない。僕も顔の下半分を隠してるけど、嗅覚が強くなったことにはだいぶ慣れてきた。当初は地下水道や浮浪者の匂いはきつくてしょうがなかったよ。


 本当は突然お邪魔するってのはよろしくないはず。でも僕は召使いとか居ないからね。まぁ恩人として丁重に扱われてるから門前払いは食らわされないだろうと。それに長時間かかるような要件でも無いと思うし、行ってちょっとだけ時間をもらえればそれでいいから。


 という訳で伯爵家に向かってる途中。何故かよく絡まれる。悪い意味じゃなくて、道行く人がやたらと話しかけてくる。朝の市場でもやたらと視線を感じたり、馴染みになりつつある店主が何か言いたそうにしてたのには気づいてた。流石に、見ず知らずの人間に、本当に猫の鼻なのか見せてくれ、などど突然言われたりするのは辟易した。


 『西方人の猫使いがお姫様のお供をして邪術師を打ち破り、伯爵様の命を救った』って話が誇張して広められてるようだ。猫を連れてて鼻が猫の西方人なんて間違いようがないか……。話し方も特徴的だから口を開けば一発でバレるし。


「ビアンコ、少し離れてついてきて欲しいニャ」


「良いでしょう。猿の相手も面倒になってきたところです」


 これなら顔の一部を隠してる怪しい西方人ってくらいだし、少しは被害が減るかな?


 ……。


 ダメだった。甘かった。顔を半分隠してる若い西方人男性というのがそもそも僕しか居ない。そりゃそれだけ特徴はっきりしてればわかるか。フードで頭だけ隠しても怪しくなるだけなんだよなぁ。一人一人相手にするのはもう無理なので諦めて急いでいるからと逃げることにした。人の噂もなんとやらだし、そのうち飽きるだろう。いや、多分ビアンコが鼻を戻してくれるだろう。戻るよね?


 足早に人混みを抜け、お屋敷を目指す。ビアンコがついてきてるか確認してないけど、僕より余程足が速いから大丈夫だろう。門番に軽く挨拶して敷地に入る。顔パスになってる。とはいえ、予定もなしに突然の訪問なのでしばらく待たされることになるだろうなと思いつつ、執事の人を見つける。前家宰が逮捕されて、後任はまだ決まってないらしく屋敷内はまだ落ち着いてない様子だった。執事さんによると、今伯爵は来客対応中らしく、一応知らせて参りますが、おそらくお待ちいただくことになるだろうと。タイミングが悪かったか。簡単な連絡手段があればなぁ。


 空いてた応接室に通され、お待ち下さい、と言いおかれて待つことしばし。無理そうなら次の機会でもいいかなあ。お茶を飲む習慣の無い地域は待ち時間が結構しんどいな。水差しはあるけどそれだけだわ。暇つぶしの手段が無いのよね。スマホでもあればなぁ。飾ってある絵を見たりして待ってた。本棚の本に興味があるものの、すごく大きくてごつくて重くて高そうなので触るのも怖くて背表紙見てるだけだった。仕方ないので座って猫を撫でる。


「ビアンコ」


 この際、聞いておきたかったことをきいとこ。


「なんでしょう?」


 僕の膝の上で甘えながら返事をする白猫。ビアンコは撫でられるのが好きだけど、カルネは案外そうでもない。でも自分が撫でて欲しいときはしつこい。


「この鼻はいつ戻るのかニャア」


 ほんと今すぐにでもなんとかならんかね。


「もうしばらくお待ち下さい。研究は順調に進んでおります。今ならおそらく、鼻だけでなく目も交換することが可能だと思います」


 ちげえよ! そうじゃねえよ!


「なんでそっちに進んでるニャ?! 戻す方を研究してくれニャ!!」


「暗闇でも見通すことが出来るようになるのは便利だと思いますよ。まぁ、どうやったかを解明しないとそれを戻す方法も見つからないのです」


 まあね。鼻を入れ替えられたあとに聞いてみたら、あのときは焦って色々試してたらしくて、どうやったかもよくわかってなかったって言われたし。


「それは確かにそうかもしれニャいニャ」


「やがては全身を交換することも可能になるでしょう。なに、そうはお待たせしませんよ」


 お前だからどうしてそう明後日の方に行こうとするんだよ! そっちは待ってねえよ!


「交換してどうするんだニャ! だいたいそれって意識はどうなってるニャ?!」


「魂の所在、ですか。オリーの割には哲学的なことを言いますね」


「そんな高尚な話じゃニャいニャ! 体入れ替えても中身が合ってなきゃダメだニャ!」


 カルネも嫌がるだろうな。


「現状ではやってみなければわからないとしか言いようがありませんよ。頭部を交換したときに明らかになるでしょう。まぁ問題があったとしても、そこからまた残りの部位を交換すれば全部元通りですから」


 あー……。そんな面倒なことしなきゃいけないの?


「ニャるほどニャ……」


 なんだかどっと疲れた。


「安心してください、きちんと部位交換可能なように研究は進めておきますので」


「……頼むニャ」


「それが出来ないと困るのですよね」


 ふむ? 何か困ることある?


「ニャ?」


「オリーが怪我をした時に、私の魔法では治療できませんからね。健康な猿を連れてきて損傷部位を交換します」


 ?!?!


「ニャ? ニャニャ?!」


 な、なにいってだこいつ。いや、ビアンコは冗談なんか言わない。多分こいつマジだ。僕が危なくなったら本気でやる。善意とはちょっと違うかな。ビアンコとカルネは僕に対して過度な使命感を持ってるようだ。


「あれだニャ、臓器移植とかやると拒絶反応ってが出るニャ。血液型でも一致してないと輸血出来ニャいニャ」


 ビックリしたせいか、つい変なことを聞いてしまう。そこはそんなに問題じゃないよね。


「そんなのがあるなら弟と鼻を交換した時点で発生しますよ。その鼻は触ったらきちんと感触あるし、傷をつけたら痛むでしょう。単に入れ替えただけではなく貴方の体の一部になっているのです」


 魔法のことは全然わからないけどそんな高度なことをやってたのか……。あれだなぁ、ふっと思いついたのだけど、クローンとかホムンクルスの培養とか教えない方が良いんだろうな。教えたら、絶対僕のスペアを幾つも用意するよね……。


 猫の重すぎる愛? にため息をつきながらも撫で続けていたら、先程の執事さんが扉を開いて入ってきた。


「お待たせいたしました。当主がお会いになるそうです」


「そうですかニャ。来客中だとお伺いしましたがもう帰られたのかニャ」


「いえ、そのお客様が是非貴方にお会いしたいと仰られまして」


 そう? 面倒なことにならないといいけど。

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