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猫二匹と始める異世界下水生活  作者: 友若宇兵
第二章
36/75

11話

同じ話を投稿してたことに一日気づきませなんだ

感想でもつけばどなたか指摘してくれるのかもしれませんが、うちには感想もつかないので……

* マリークレスト *


 寝台に横になったお父様の顔を眺めています。以前から顔色はよろしくありませんでしたが、今日はさらに生気を失っており、土気色に近くなっています。素人の私が見てもあまり先が長くないのがわかりました。


 家のものが異変に気づいたのは昼前だそうです。お父様は臥せりがちになってから、朝起きだすのは家中で誰よりも遅くなっていました。今日は何時まで経っても起き出さないお父様を起こしに行った女中が、発見したそうです。


 直ちにお医者さまが呼ばれ、また癒しを司る月光司祭殿にも来ていただきました。しかし、お父様は意識を取り戻しません。お二人とも、最早手の施しようがなく、もってあと数日と言われたそうです。


「お嬢様、よろしいでしょうか。少しお話があるのですがこちらへ来て頂けませんか」


 こんなときに一体。お父様の傍では話したくない内容なのでしょうか。訝しみながらも、叔父様について隣の部屋に移動します。


「明後日、ウォルズ侯爵様がニールへ参られます」


 確か王族にも連なる名家ですね。ただ、現当主は女嫌いとの噂もあって、三十半ばも近いのに結婚もせず跡継ぎもなし、浮いた噂一つ聞かないという話を聞いた覚えがあります。質実剛健を絵に描いたような方だとも。お父様がお相手できないので私が名代として接客するということでしょうか。


 国外へ出る貴族がニールに逗留すること自体はよくあることです。我が家でお客として迎え入れることもありますし、あまり付き合いの無い場合は市内の高級宿に泊まる方もいらっしゃいます。


「私がお父様の代わりに接客すればよろしいのですね」


「いえ、違います。お嬢様には侯爵とお見合いをして頂きます」


 はっ?! 何を言ってるの!


「叔父様、こんなときに何を!」


「こんなときだからこそです。当主様がご存命の間に婚約を済ませ、少しでも安心させてあげてください。お嬢様ももう良いお歳です。喪も明けましたし、もう第二王子様のことはお忘れになっても良い頃でしょう。此度の件は宰相閣下からのお話で当家としましても、侯爵家が相手なら文句の出ようがありません」


 婚約者の死亡を引き合いに出して、見合い話を断っていたのを見透かされていますね。実際、亡くなった相手が第二王子ということもあって、それほどの婚姻話も無かったのですが。


「それとも、今だに亡くなられた王子のことを思っているのですか。申し訳ありませんが、気持ちを切り替えてお家のことを考えて行動してください」


 叔父様も本気では言っていないでしょう。正直、薄情なようですが、私の中でかつての婚約者だった王子のことはとっくに整理がついています。というか、そもそも三回しか会ったことが無い人に愛情を抱けというのも難しいのでは。


 そうではなく、単に私をこの家から追い出すための計画を練っていただけでしょうか。先日の野盗の襲撃の次の手がこれでしょう。そうなると、お父様の現状も叔父様によるものである可能性が高いです。その割には性急過ぎるし、手段が短絡的過ぎる気がします。叔父様側に急がねばならない理由でもあるのかもしれません。


 しかし断れるだけの理由がないのです。世間的に見れば、私はとっくに結婚していておかしくありません。お父様のためにも、というのは正論だし、お父様が意識を失った以上、勝手に婿を取る訳にもいきません。また、お父様がお亡くなりになったら、更に一年は喪に服す必要があり、その間婚姻などもってのほかでしょう。ニールは大領なので婚姻ともなれば厳密な政治的調整が必要になります。これが王国宰相から許可を得た案件だというのもそうですし、相手が侯爵家当主だというのも、言ってみれば現状国内で望みうる最上の相手かと思われます。当家の家格として、以前の婚約者である王子に並ぶくらいの格調高い相手が必要です。そして、我が家も、元々私が第二王子に嫁ぐという話があったときに、叔父様の長男であるネスローが跡継ぎとなる、ということを王国から承認されていました。言うなればこれは既定路線に復帰しただけの話。


 考えれば考える程詰んでいますね。せめてお父様がご壮健だったらと思わずにはいられません。折角、異世界からの異能猫という奇貨が手に入りそうだったというのに。


 ……


 ダメだ。大人しく受け入れる訳にはいかない。今ここで他家に嫁いでしまっては、私の目的を達成出来なくなる。彼女を助けることが私の最終目標だ。


 いや待った。一応侯爵家を焚き付けて、この国を魔王との戦争に向けさせることが出来るかどうかくらいは考えるべきか。ニールは元々古王国の西の守りとして国内でも過剰な軍事力を有していた。しかしそれも先だっての戦いで半数が失われた以上、この地だけに影響力を持っていても戦争には勝てないかもしれない。返す返すも第二王子の戦死が悔やまれる。次代の軍権を担う権力者と言う意味では最適だったのに。彼が生きていたら今頃大陸中央に介入して、彼女の奪還を目指すこともできていたかもしれない。


 この家を自由にするのは目標ではなくて手段だ。そこは分けなければいけない。では今、可能なことは? 彼女を救うには何が必要だ? 考えろ、マリークレスト。今からでも状況を変えなければ。


 ……


 仕方がありません。侯爵様にお会いして魔王とその侵攻のことを、どうお考えか聞いてみましょう。そういえば第二王子が従士として仕えていたのが、ウォルズ侯爵だったと聞いたことがあります。案外私に好意的な考えをお持ちかもしれません。


「わかりました。侯爵様とお会い致します」


 叔父様が傍目にわかるほどほっとしたのがわかります。まさか何の抗弁もなく受け入れられるとは思っていなかったのでしょう。私がもう全て諦めたのかと思っているのかもしれません。


「そうですか、それはようございました。旦那様もお喜びになると思いますよ。では後の手配は全てお任せください」


 そう言って叔父は部屋を出ていきました。それを見届けると、お父様の傍に戻って物言わぬお父様の手をとりました。


 あれ、先程出るときはそうでもなかったのに、掛け布団から足が出ていますね。もう寝返りもうてないと思ってたのに、まだ体が動くのですね……。お父様はまだ生きているんです。そう思うと泣きそうになります。こみ上げてくる涙をぐっとこらえて、掛け布団を駆けなおそうとしたら視界に飛び込んできたものがあります。


 かかと側に小さな噛み傷が? しかも微量のマナを感じます。なんですこれ、昔先生の研究室で見せられたものに似た感じがする……呪いの類? 嘘、お父様になんでこんなものが! お父様が意識を失ったのは誰かの仕業ということ? 女中たちはなんでこんなものに気づかなかったの! これに月光司祭は気づかなかった? もしかして司祭もぐる? 


 いや、私ですら偶然がないと見逃しかけたくらいです。医者も司祭もまだなんとも言えません。とりあえず誰か信用おける人間に相談しないと。少なくとも呪いの特定が出来なければ解呪でき無さそうです。白猫ちゃんに可能かどうか聞いてみるのも良いかもしれません。あの子達が犯人でなければの話ですが。いえ、彼らに関してはお金で買収でもされない限り、そんなことはしないと思います。この噛み痕も猫にしては小さすぎる気がしますし。一応確認は必要でしょう。


 呪詛の可能性がある以上犯人は誰だか皆目検討がつきません。お父様の周囲にいる魔導師は、そもそも私と白猫ちゃんしかいません。情報が少なすぎます。今すぐにでも動かないといけないだろうに。あぁ、侯爵とお見合いをするなんて言わなければよかった。そんな暇なんて無いのに!


 ナナンにお願いしてオリー達を探してもらいました。既に離れに戻って灯りも消して眠っていそうとのこと。仕方ありません。明日の朝早くに相談してみましょう。性格はともかく、彼らの能力は優秀ですから何かの役に立ってくれるに違いありません。こういうときに動いてくれる人間が少ないのが私の弱点ですね……。


ですが、お父様に誓いましょう。必ずやお父様をこのような目に合わせたものに報いを受けさせると。


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