13話
焦ってやったのでコピペミスって後が6行くらい切れてました
* オリー *
離れに案内される途中で、玄関ポーチから入ったところのエントランスホール兼大広間ではテーブルを並べていた。食事の支度してる。毎食こんな準備をしなきゃいけないのは大変だね。ていうか、テーブルも椅子もなかなか多いな。騎士の人たちとかも一緒に食べるのかね。僕以外の客は見かけなかったと思う。
屋敷の裏側は広い庭になっていて、こちらにも噴水があり、生け垣で区切られた区画に色とりどりの花や木が植えられていた。庭の真ん中にはなんか柱が立ってる。僕は元々花には詳しくないのでわからないのだけど、植物は元の世界と結構違ってそうかなぁ? これ野菜とかどうなんだろうね。同じような進化をしている同じような系統の植物は何かしらあるんだろうか。案内の人が庭の前で自慢げになにか言ってる。まぁ何を言ってるのかわからないので、とりあえずニコニコしておく。翻訳してほしくて白猫を見てみたら蝶々を追っかけてた。ビアンコはカルネほどの身体能力は無いんだね。
庭の東西にシンメトリーに家が建っている。あれが来客用の離れなのだろう。案内の人が右手で東側の家を指し示してたから恐らくあれに泊まるのかな。外から見た感じだと、母屋のように地下階までは無い様子。屋根裏も含めたら三階建てにはなるのかな? あちらは大きすぎて落ち着かなかったし、庶民的にはこういう家の方が良いよね。こちらも勿論石造りだ。あーでも、母屋ほど冷たい感じがしないのがいい。案内の人が扉を開けて中に招き入れてくれた。入り口周辺の内外に設置されたロウソクに火を点けた案内の人がこちらに向き直って声をかけてきた。急いで庭で遊んでいるビアンコを呼ぶ。
「ビアンコ、遊んでないで通訳してよ」
「仕方がありませんね。貴方は本当に我々がいなければ何もできないのだから」
それは酷くない?
案内の人は白猫が口を開くと驚いて手に持っていたカンテラを取り落としそうになった。お嬢さんから喋る猫の話は聞いてなかったのかな。いや、すぐに何事もなかったように振る舞ってるところを見ると話は聞いてたぽい。流石に実際に目の辺りにしたら驚いたみたい。
「オリー、彼は君に食事前に入浴してもう少し綺麗にして欲しいと言っているよ」
落ち着いたのか、猫に伝えるべきことを伝えると風呂場へ案内してくれるようだ。
琺瑯の風呂桶はそれほど大きいわけではなく、足を伸ばすスペースは無い。肩まで浸かれるかも疑わしい深さかな。こちらの人はあまりお風呂に入る習慣が無いのかもしれない。おっと、ここは石鹸が常備されている。ありがたい、これで頭も綺麗にできそうだ。シャンプーは流石になさそうだけどね。おっと、床に排水口はついてないし、風呂桶からお湯をこぼしたら不味いんだろうな。体を洗うのも湯に浸かるのも全部この中でしないといけないんだ。慣れてないから結構大変そうかなぁ。
「お湯は今沸かしているのをお持ちします。だそうな」
そう言うと近くの箪笥の一番上の引き出しを開け、中にタオルが入っているのを僕に見せた。
「こちらで体を拭いてください。もしかしたらご自分で体を洗うのも体を拭くのも難しいでしょうかだと。馬鹿にしていますね。それくらい私と弟がやると言っておきましょう」
「いや君らにも無理でしょ。自分でやるって伝えてよ」
ビアンコが実際どう返事をしたのかはわからない。ともかく彼はその言葉を聞くと、一番下の引き出しから厚めのマットを取り出して、それを風呂桶の横に敷いた。
「お湯を取ってくるそうだ。なん往復かしなければならないらしい」
風呂桶満たすだけでも大変だよねぇ。
「ビアンコ。水を出すのはもう慣れたよね。お湯を出せない?」
やってみよう。というと近くの木の台に乗って風呂桶を見下ろした。彼が一言二言ニャーニャー鳴くと、すぐに小さな雲が風呂桶の上にかかる。案内の人は今度こそ腰を抜かさんばかりに驚いてタンスにぶつかってしまいそのまま寄りかかっている。
雲から水が出始めた。勢いは水量はそれほどでもない。ただし凄い湯気だ。というかグツグツ煮立ってるようにも見える。どんな熱湯なの? と見る間にお湯は止まってしまった。まだ風呂桶の半分にも届いていない。
「オリー、そこの窓を開けてくれませんか。この魔法は周囲の空気中にある水分をかき集めるものらしいのですよ。だから部屋ひとつ分ではたいした量の水は出ないのです。まぁ厳密に空気中の水分だけでなんとかしてるわけではないらしいのですが」
そういえば、魔法の前後で部屋の乾燥度合いが変わってる気がする。
「それって熱湯みたいだし、あとはもうちょっとぬるいお湯か普通の水で調整しても良いんじゃないかな」
返事をしながら窓を開けると、お湯の放出も再開したのだが、空気の流れが悪いのか結局半分くらいまでしか貯まらなかった。
「あとは持ってきてもらったお湯なり水なりでうめてください。もう少し水の精霊から搾り取る方法を考えないとこれ以上は難しいです」
なんか物騒なこと言ってるな。水の精霊から搾り取るってなんだよ。
ビアンコにお湯じゃなくて水を運んできてくれれば十分ですと伝えてもらう。案内の人は、自分もお湯を運びますのでと言うと逃げるように出ていってしまった。こちらの常識は知らないけど、猫が喋って魔法を使うのは刺激的に過ぎるのかもしれない。
風呂桶に水を足し、丁度良い湯加減にしたところで、召使いさんたちは晩餐の支度ができたらお呼びしますと言って帰っていった。
猫たちは興味なさそうに隣の木の台に乗っている。
「これはトイレらしいですよ」
これというのは木の台のことだろう。真中部分の板を開くと腰掛けられるようだ。あとで使わせてもらおう。そういえばこの都市の下水とかどうなってるんだろうね。
あまり時間もなさそうだしさっさと温まることとしよう。服を脱いで湯船に浸かると散々擦ったはずなのに、すぐにお湯が汚くなる。爪の隙間とか真っ黒だしね。
綺麗とは言えないお湯に頭までつかる。シャワーがあったらなぁ。それから濡れた頭を石鹸で洗う。髪によろしくないだろうね。まぁ仕方ない。こちらの人って禿ないのかね。しかしお湯が酷い色だわ。これ多分、排水口無いから全部汲み出して他所で捨ててくるんだろうな。めんどくせえなこりゃ、そら体を拭くだけになるわな。水を汲んでくる手間、お湯を沸かす手間、燃料を買ってくる手間、お風呂にお湯を貯める手間、浸かったあとのお湯を捨てる手間……。個人でお風呂に入るのは無理だ。
ドロドロになった湯船に浸かって一息ついてたら、力が抜けちゃってさ。これからどうしたら良いんだろうって今更になって考え始めた。なんていうか、流されてるだけだよね僕って。なんとか今日の食事と屋根のあるところは確保できた訳だけど、明日からどうしよう。いつまでもここでお世話になるのは無理だよね。僕自身にはなんの能力もないからなぁ。健康なだけが取り柄だよ。ちょっと真面目に自分に何が出来るか考えてみないとね。
僕は柳川織位、5月に19歳になったばかりの大学生だ。一応現役で国立大学の文学部に入学してる。国立って言っても旧帝じゃなくて駅弁だけどね。旧帝とか駅弁って言葉はサークルの先輩に教わった。大学入るまでは知らなかったよ。関東圏で家から通えるところを頑張って合格した。片道1時間はまだ慣れないなー。
大学入って新歓でサークルを決めて、それなりに上手くやってた。酒は弱くて新歓コンパは辛かったよ。でも、女の子の友達も結構できたし、気になる先輩や同期もいる。勿論男友達もいるさ。まぁ大学の友人よりは高校の頃の同級生の方が連絡取ってた。かっつんとたっちゃんとは高1の頃からの付き合いで今の状況なんてオタのかっつんの方が僕なんかよりよっぽど喜ぶだろうに。あいつは昔からなろうやらにはまってたし深夜アニメばかり見てたからなぁ。異世界チートがどうこう、たっちゃんと一緒に色々聞かされたよ。ほとんど覚えてないや。真面目に聞いとけばよかったのかね。
とりあえず、この世界に骨を埋める気は無いから、帰る方法を探さないといかん。神様に与えられた目標達成しないと帰れないならそうするしか無いかもしれない。いやでも、世界を救うってなんだろうね。魔王でも居て倒せば良いとか? 魔物はいるっぽいね。昼間町中で人間以外の種族もたくさん見かけたし、数は少ないものの黄色人種もチラホラいた。ここにいる間に情報を仕入れておかないといかんね。
よし、主目表は元の世界にもどる! そのための情報収集! この方向で行こう。そうそう、猫たちにも聞いておかなきゃいけないことがある。
「ビアンコ、カルネ。聞いてくれる?」
そう決めて、僕はトイレの上で寝そべっている猫たちに声をかけた。返事は無いし、視線すら返ってこない。耳が動いたので聞いているのはわかった。
「元の世界に戻るからね。そのために何が必要なのか調べないと行けないと思う。君たちが話した神様って、世界を救ったら元の世界に戻れるって言ってた? あるいは何か帰る方法についてなにか言ってなかったかな」
「覚えてねー」
まぁ君はそうだよね。最初から期待してなかったよ。言うと怒るだろうから言わないけど。
「その点について、あれは明言していませんでしたね」
「はっ?! なんで聞かなかったんだよ!」
「興味が無かったので」
「クッソマジかよ!」
これだから猫はっ!! 初手から躓いた! あとでお姫様に聞いてみよう。どこで何を調べたらいいかもわからない。
ため息付きながら体を拭いていたら召使いの人が食事の知らせに来た。
借りた服を着直すけど、僕が着てた汚れた服はどうなったんだろ。Tシャツにパジャマ、あとはトランクスだけだけど、他に着るもの無いから返してほしいんだよね。ついでに洗ってくれるとありがたいんだけど、あれだけ汚れちゃったら雑巾にも使えないとか言って処分されかねないよなぁ。
着替えてる間も待っててくれているようなので急いで服を着る。猫たちにも声を掛けて離れを出た。外はいつの間にかもう暗くなっていた。灯りは案内の人が持っているカンテラ、母屋の方から庭を淡く照らす光くらいだ。町中だからだろうか、昨日荒れ地で見たよりは少ないんだけど、それでも東京に比べたら遥かに星が多い。こちらの世界でも星座とか星座にまつわる神話はあるのかな?




