第39話 竜殺しと旅
コーヒーじみた黒くて苦い液体を一杯飲みほして、二杯目も冷めてぬるくなる程度の間待った。しかし待ち人は未だ来ず、ぬるいコーヒーもどきを飲みほして。さて、三杯目も頼むべきかと思っていたところで、ギルドの扉が開く。視線を向ければ、待ち人がようやくあらわれた。
「遅れて申し訳ありません。馬車の調達に少し時間がかかってしまいました」
「いいえ。それほど待ってませんよ」
ほんのコーヒーもどき二杯分。
「……ところで、一つ大事なことを聞き忘れてたのですが。首都までの旅はどのくらいかかりますかね。こちらも準備はしていますが、月単位の移動になるとさすがに不足します」
「ああ……すみません。肝心なことを言っていませんでしたね。首都までの道のりは、ここからだと休憩込みで、何もなければ一週間。天候などにより路面の状況が悪ければ、倍かかることもあるので、一週間から二週間ほどですね。すぐに出られますか?」
何かやり残したことはないか、と頭を捻って考えてみる……ないな。
それに、受付嬢からは恨めしそうな視線が。周りのハンター達からは、ロゼと糞竜を値踏みするような視線が刺さって来るので、居心地も悪いし、さっさと出たい。
「そうしますか」
提案に頷いて、飲食の代金とチップをテーブルに置いたら席を立ち、外へ出る。
ギルドの前には幌付きの馬車が一台と、それを引く、角を切り落とされた一角場が二頭。確かに力は強いけど、元の気性はかなり荒かい上に人にはなつかないはず、どうやって飼いならしたんだろうか。
野生らしく、殴り合ってどっちが格上か認めさせたか……買うにしても、飼うにしても、高かったろうに。
あとは見慣れた顔が三人。馬鹿二人(タクトと茜)と引率の苦労人(橘さん)。
「御者は私と橘さんの二人交代で行います。道中賊などが出ても、私一人でかたずけますのでご安心ください。皆さまはどうぞごゆっくり」
それは頼もしい限り。では、遠慮せずに任せてみようか。荷物を幌に投げ込み、自分も乗り込む。続いてロゼ、糞竜と。その後にまた三人が乗り込んできて、馬車が動き出す。
ここから最低一週間、このメンツと顔を合わせっぱなしになるわけだが、大丈夫だろうか……何事もなければいいけど。
馬車が街の外へ出るまで、幌の中は全くの静寂。クッション越しにも振動がケツに来て痛い。痛みを紛らわそうにも、何かを話すような雰囲気でもなく、正直とてもつらい。それもそのはず、理不尽な理由で命を狙って返り討ちにされて、ケジメとして片手を潰された男と、返り討ちにした男の二人が同じ空間に居るのだから、雰囲気が悪くならないはずがない。
「アインさん。唐突な質問で悪いんですけど、そちらのお姉さまとはどういった関係なのでしょう」
そんな空気を打ち破ったのは、茜。どういう関係と聞かれても、どういう関係だろう。
「命を狙う側と狙われる側」
こいつとの馴れ初めを説明すれば、色っぽい話は微塵もなく、血なまぐさい話しかない。
「ひどいな。あれほど情熱的な交わりをしたというのに」
「誤解を招く言い方を……あんなもののどこが交わりだ」
ただの虐殺だ。象が蟻の巣を踏みつぶすような、一方的かつ理不尽な。食べるためでもなく、ただそこにあったから、襲われた。殺された。
憎悪を込めた視線を向けて抗議するも、彼女はどこ吹く風。いつも通り余裕の微笑みを絶やさず、そこにたたずむ。
「では、恋人などではないと」
首を横に振って否定する。冗談にしてもつまらない。そんなこと、天地が逆さになろうともありえないことだ。こいつへの恩讐は決して鈍ることはなく、他の情へ変わることもないだろう。
「俺が欲しいのはこいつの命だけだ。それ以外はいらん」
「……では、体は?」
「それは本人に聞け」
人じゃないんだから、本「人」というのもおかしな気もするが。それはさておき。こいつは同性愛者だったのか。初対面の時俺に向かってあれこれと突っかかってきたのは、同性愛こそがすばらしいもので、そうでないものは汚らわしいと。そんな感じの過激な思想を持っていたりするんだろうか。
「私が欲しいのか? ふふ……いいぞ」
横からするりと身を乗り出し、茜の顎に手を伸ばす糞竜。見つめられて、羞恥に頬を茜色に染め目を逸らす少女。ああ、本当に、クソ竜に対して抱える事情さえなければ、とても美しい光景だ。同じことを考えているのか、タクト君も食い入るように見つめている。
「盛るなら休憩中にしろ。御者が集中できず事故を起こしたらどうする」
俺は怪我しても問題ない。糞竜は馬車がひっくり返った程度で怪我なんてしない。が、他はそうでもない。二人ほどどうでもいい奴がいるが、その他にはあまり怪我をしてほしくない。
「ああ、君がそう言うのなら、いったんお預けだ……悪いな。茜さん?」
「は、はい……」
うっとりとした顔で返事をする茜さん。エロい。
なんとまあ、楽しい旅になりそうだ。
新年あけましておめでとうございます。小説家になろうよ、私は帰って来たぁぁあ!
というわけで、新年最初の更新となります。どうぞ、今年もよろしく。




