第40話 盗賊襲来
週に一度は更新したいのですが、どうにもめんどくさがりなもので、手が進みません。申し訳ありません。
旅の夜。幌の中は四人が横になって眠れるほど広くはないので、どうしても座ったまま、ケツの痛みを耐えながら寝ることになるのだが。揺れる車内に、ケツを叩く振動。幌を叩く雨粒の騒音。なかなかにつらい。ただ痛いだけなら慣れているせいで、耐性のない辛さが余計身に堪える。
と、ここで馬車が停まる。何事かと外を見ると、灯りに照らされた道路、その前方に、縄が括りつけられたあからさまに不自然な倒木が道をふさぐように転がっていた。
「賊ですか」
「おそらく……」
雨音の中混じる飛翔音。ほぼ同時に銀光が閃き、飛んできた何かを叩き落す。座席に切り落とされた鏃が転がった。
賊の仕業ですねわかります。死にたくなけりゃみぐるみと女を全部置いていけ的な。
「中でお待ちください。始末してきます」
ルイスさんが手に持つのは、蛇のように波打つ刀身の剣。フランベルジュ。そんなに性格が悪いようには見えないけれど、えげつない武器を使うものだ。俺が使っていた返しのついた槍が、刺して、抜く際肉を抉るように。波打つ刀身が直線でなく複雑に傷を広げ治療を難しくし、仕留め損ねた場合でも患部から菌が入りこみ、病で死ぬ可能性が上がる。
なんてひどい武器だろう。
「では、行ってきます」
彼がたっと矢が飛んできた方向へ飛び出し夜闇の向こうへ消えると、間を置かずに森の中から悲鳴が上がる。一つ断末魔が響けば、すぐにまた違う人の悲鳴が。何人いるかまではわからないが、全滅するまでそれほど時間はかからないだろう。
「ちょっと木を退かしてくるわ……竜の傍はやっぱり辛いから」
幌から顔を出したロゼが耳元で囁き、馬車から降りて、道を前へ。雨が降る中を気にせずのんびり歩き、道をふさぐ長さ三、四メートルほどの丸太の傍へ。
彼女のような細い体であんな丸太を退けられるものか、と思ったがそういえば彼女は人間じゃないので、そんな常識は当てはまらないのだろう。動向を見守っていると、彼女が丸太に触れた瞬間に、木が膨らんだ。
なんとなく、まずいと思った時には、飛び出して彼女と木の間に割り込んでいた。我ながら、驚くほどのスピードだ。
ロゼを背にかばって閃光と衝撃を全身で受け止め、吹き飛んだ。体が雨でぬかるんだ泥の上を転がる。何度も、何度も、天地がひっくり返って。上も下も、左も右もわからなくなって。
止まったときには、雨露の中に、血と体温が、意識と混ざって溶け出ていく。懐かしい感覚……最初にクソ竜と会ったときにも、こんな目に遭ったな。
あの時と違うのは、意識がすぐにハッキリすること。意識は明瞭、だが視界がどうにも悪い……目が傷む。触れて、木片が刺さっていたので引っこ抜く。目だけでなく、全身に刺さっている。一個ずつ引っこ抜いていると、頭の右から左へコンと抜ける衝撃。また、一瞬だけ意識が飛んだ。
一度膝をついて、触れる。矢、だ。
それも引っこ抜いて……さすがに腹が立つ。が、その前に。
「ロゼ、無事か?」
大事な奴隷にケガでもあれば大変だと、かばった相手を案じる。
「……ごめんなさい、服が少し破れたわ」
「怪我がないなら構わん」
金はあるのだ、服なんてまた買えばいい。大事なパートナーの身には代えられない。
そんな彼女を傷つけようとしてくれた糞共には、もちろん償ってもらう。
「走査」
自分を中心に、世界の情報が集中する。範囲は狭く。求めるものは、糞山賊の数と位置。把握にかかった時間は一秒未満。それさえわかればあとは一人ずつ狩っていくだけ。手を出す相手を間違えた、と後悔する間すら与えまい……まず手始めに、一番近い二人から。馬車の方を見る。よじ登り、幌の内側を覗こうとする輩が目に留まる。
「馬車に戻れ。糞竜のことは……悪いが我慢してくれ」
そう言って、ぬかるむ泥の上を駆ける。
相手に気取られるような真似はせず、反応する猶予は与えない。足を止めることなくその首だけを両手でかっさらう。果実を木からもぎ取るように、しかしそれよりも荒々しく乱暴に。この果実はつぶれても問題ないのだから。
そうして刈り取った首は、道路わきに投げ捨てる。
まず二人。のそりと、幌の内側へいったん顔を覗かせる。
「ひっ」
「外には賊が居る。顔を出すなよ、頭を射貫かれるぞ」
怯えた声を上げたのは誰か。まあどうでもいい。忠告だけして馬車から離れ、次の獲物へ向かう。ルイスさんの活躍で一つ、また一つと命の反応が消えていくが、獲物はまだ三つほど残っているが、二つは逃げている。一つは逃げず、近くに留まったまま。
雨粒を貫きながら、また矢が飛んできたが、短剣で受け止め。お返しに、防ぐのに使った剣を投げつける。
「ぁっ!」
雨音の中に悲鳴が上がる。三本目の矢が飛んでくる前に、泥を蹴り飛ばし水平に跳ぶ。間合いをゼロに詰め、拳を振るう。フードに隠れた男の顔が、パカン、とスイカを叩いたように赤黒く弾け、指揮者が消えた体は地面に落ちた。ついでに刺さった短剣を回収して、残り二つ。
木々の間を縫い、己に近い方の獲物を目指す。
走る。走って、背中が見えた。背後から躍るように襲いかかる。爪など生えていないが、素手で十分。それもただ一度振り抜くだけでいい。
「っ!」
殺気に気付いて振り返ったところでもう遅い。首断つ鎌はすでに振るわれた。その間際の顔は、どうにもおかしくて。言葉にすれば「どうしてこうなった」だろうか。自分たちが狩る側で、俺たちは狩られる側。そういう認識だったんだろう、きっと。襲う相手を間違えたのが運のツキだな。
パキャン、と首が捻じれて千切れ、椿の花のように地面に落ちる。
命はしばしば花に例えられる。命を散らす、とも言うように、その終わり際は。しかしこいつらの死にざまは花のように綺麗でも、見ていて楽しいものでもない。やはり花のように美しい人でなければ、花を比喩に使うのは間違いだな。
「終わりましたよルイスさん」
「お見事」
森の奥から現れたのは、雨露だけが滴る騎士。剣の先にだけ血と肉片がこびりついているが気にしない。殺戮が行われていたのだし、そうなっていて当然なのだから。
「追いかけて殴っただけですよ。腕もなにもありません」
「さすが竜殺し様。冗談にもキレがある。殴っただけで人の頭がそう簡単に千切れるものですか」
ところが案外簡単に千切れるんだよな。これが。俺がおかしいだけだろうか……まぁ、おかしいか。竜を殺すなんて、頭も体もおかしくなきゃできないことらしいし。
「馬車に戻りましょうか。もうみんな片付いたようですし」
「そうしましょう」
木の間をのんびり歩いて、馬車まで戻る。服に穴が空いてしまったが、雨があがるまでは我慢しよう。幌の中で着替えられても、迷惑だろうし。




