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第32話 竜殺しと氷の迷宮

 雪で白銀に染まった街並み。厚着をしていてなお身に染みる寒さに震え、雪かきをする住民たちが目立つ。

 この寒さが自然現象でないのなら、農作物にも被害が出るだろうし。この街の人々の主な稼ぎが農業によるものだったら、それはもう目も当てられないものになるだろう。ただ、それほど悲壮な表情には見えなかったから、致命的とまではいかないんだろう。

 ともかく、この街のギルドへ入り、事情を詳しく聞いて、依頼を受けて。それから問題解決という流れになるのだが。

「あったかいよう……」

 受付窓口に人は居らず、暖炉の前に猿団子のようになって固まっていた。誰だって寒いのは嫌だし、熱源があれば自然とそこに集まるよね。わかる。これはちょっと極端だけど。

「すみません、私たち国から派遣された者で、依頼の受注をしたいのです。担当の方はどちらにいらっしゃいますか」

「あぁ、はい。私です」

 一つの塊となった人々からヌっと立ち上がったのは、巨乳。まさにそうと形容するにふさわしい、衣服の下からであっても自己の存在を強く主張する、それはもう立派な果実であった。顔よりも、服装よりも、何よりも真っ先にそちらに目が行ってしまうのは仕方ないことだ。だって男の子だもん。

 しかも結構美人。この場にクソ面倒なガキさえいなければ迷わずお茶に誘っていただろうに。そしてあわよいくばお近づきになって、その巨乳を思う存分に揉みしだこうとさえ思うのに。ああ、クソ。世の中とはこうもままならないものなのか。

「うぅ……寒い。ハイ、依頼は単純、街の北に糞迷惑なダンジョンを作って冷気をまき散らす糞をぶち殺して、この街のぬくもりを取り返してください! 手続きは全て済ませてあります! さあ、早く行って!」

 ブルリ、と寒さに身震いするたびに、豊満な胸が弾むのは、見ていて実に楽しい。俺の心はこの寒さも吹き飛ぶ幸せに包まれた。

 もう少し見ていたいなーと思っていたら、視線に気付かれて、胸を両手で隠したうえで背を向けられてしまった。残念。

「そういえば、書類には四名とありましたが。二人多いですね」

「その二人は、この方と、そばの少女です。ここに来る船の上で実力を見せてもらって、私たちよりも腕が立つので手を貸してもらうことにしました」

「どうも、この仕事が終わったら一緒に食事でもいかがでしょう。ぜひ、この街の美味しいものを教えていただきたいのですが」

「私はこの人の従者。基本的に戦わないわ」

「……まあこの際、誰でもいいです。偵察に行った人の報告に居るとっクシュン! ……報告によると、氷を鎧のように纏った魔物が多いそうですから、注意してください。あぁ寒……」

 可愛らしくくしゃみをして、彼女は暖炉の前へと戻っていった。残念、結局相手にされなかった。でもまあ、そんなものだろう。特別顔がいいわけじゃないし。ああ、そうさ。悲しくなんてない。全然悲しくなんてないとも。

 ごめんやっぱり美女に無視されるのは悲しい。

「ところで、報酬の話をしませんでしたが、それはどうなってるのでしょう」

「ええ、と。私たちは国の都合で呼ばれて、報酬も与えられているのですが。あなたは違うんでしょうか」

「根無し草のハンターですよ」

「そうですか。しかし、手を貸してもらう以上は報酬がなければ……では、こういうのはどうでしょう。ひとまず私が私費であなたを雇い、あなたが倒した獲物はあなたが自由に換金する。ではダメでしょうか。一応、こちらではそれなりの額をもらっておりますので」

「先生、こんな男なんて居なくても、私たちだけで十分です。私たちだけで行きましょう」

「私には生徒を守る義務があるのです。そのためには、使えるものは何でも使うつもりでいます。ですから、あなたの意見は却下します。というわけでよろしくお願いしますね、ジェイソンさん」

「今回だけは、縁に免じて格安で依頼をお受けしましょう。では、改めてよろしく。一応言っておきますけど、馬鹿なことをしてくれたら指を詰めるくらいはしてもらいますよ」

 もし身の程も弁えずに殴りかかってくるようなら痛い目みるぞ、と少し具体的に。腕を折るとか陳腐な言い回しでなく、ヤクザチックな例を挙げることで警告としておく。

 できれば俺もそんなことはしたくないが。やると言ったからにはやらせてもらう。



 というわけで、ロゼは宿にあずけていったん町を出て、北へと向かう。進むにつれどんどん寒さが厳しくなるので、近づいているのがわかりやすくていい。冷凍庫の中、というか南極とか北極とかはこんな感じなんだろう。これで風が吹いていたら最悪だった。

「……さすがに寒い。早く終わらせて帰りたいな」

「まだ始まってさえないのに。なんて情けない」

「最近の雌犬は人間の言葉を話すんだな。珍しい」

「誰が犬ですか。色魔」

「お前だよ。負け犬」

「も、もう着いたみたいですよ! ほら、あそこ」

 橘さんが指さしたのは、真っ白に凍てついた山。麓にいかにも入り口というような、氷柱二本と扉で作られた門があり、いかにもいかにも。いかにもと言いすぎだと思うけど、実際そうなんだから仕方ない。ここまで何もなかったが、きっとここから何かあるんだろう。何もないのが一番ではあるけれど、そうもいかないのが現実というもの。

 さあ、早速お出迎えだ。門が開き、氷の塊を無理やり人の形にくっつけたような……アイスゴーレムとでも言えばいいのだろうか。が、鈍重な足取りで出てきた。サイズは人間の倍はあるだろう、遠目で見てもその大きさはよくわかる。

 一歩歩くごとに振動が音となり伝わってきて、その氷塊の重量をうかがわせる。目も、表情もないのだが、頭にあたる部分からは、侵入者を拒む意志がはっきりと感じ取れた。退け、さもなくば痛い目を見るぞ、と言っているように。

「さあ、誰が行く」

 俺が行ってもいいのだが、できればもう少しこいつらの力量を知りたい。どんな方法で戦うのか。どの程度戦い慣れているのか。たしか一年にも満たないと言っていたが、その間に平和な日常生活から一変した世界に、どれほど順応できているのか。知りたいことは山ほどある。

 一度見るだけでその全てがわかる、なんて超人じみたことはできなくても、一部はわかる。実際船の上で戦って、少しはわかった。・二度目を見ればさらにわかるだろう。

「任せてくれ」

 そう言って剣を抜いたのは、タクト。さあ、何を見せてくれるのだろう。剣を構えて、振りかぶって。まだ間合いは遠い、そのまま振り下ろしたら剣からビームとか出るんだろうか、と期待しながら眺めていると、勢いよく空を切る。ビームは出なかったが、積もった雪がアイスゴーレムへ一直線に舞い上がっていき、氷塊が揺れ、その体積が目に見えて削れる。

 斬撃を飛ばす技術、いや魔法だろうか。ロマンがあるし、何より実用的だ。高速、高威力、視認不可能というのはなかなか良い初見殺しだ。あとは技の名前を大声で叫べば完璧だったんだけど、それをすると実用性が下がるので、まあいいか。俺も威力だけなら負けてないのにロマンが足りない。槍に炎を纏わせるくらいはやってみようか……武器が傷むからやめよう。

「しかし、一方的だな」

「当然よ。私のタクトなんだから!」

 それはどうでもいいんだが。ゴーレムもちょいちょい反撃に氷のつぶてを撃ちだしてはきているものの、そのどれもが数倍の飛ぶ斬撃で迎撃されて、ひたすら身を削られるだけである。一方タクト君はまだまだ余裕の表情。これはもう消化試合だ。勝負の行く末を見るまでもない。ものの二分ほどで、ゴーレムは小さな氷の欠片の山となってしまった。

「ご苦労さん。じゃ、行くか」

 一言労ってからダンジョンの入口に進む。そこから噴き出す冷気はより強くなり、露出する肌が凍り付くほど。これでは探索どころではない。探索する前に凍死してしまう。では、少し温度を上げてから入ろうか。面白いものも見せてもらったし。

 マスクをずらし、口を開く。途端に粘膜が凍り付いて、痛みに脳が悲鳴を上げるが、これくらいの痛みなら何度となく経験してきただろうと警告を握りつぶす。どうせ死にゃしないのだし。死なないのに、防衛反応として発生する痛みなんて不要だろうに、どうしていつまでも残っているのやら。

 ぼう、と竜の真似をして、火を吐いた。凍った粘膜は一瞬で炎に溶かされ、焼かれ。圧倒的冷気の中へ圧倒的熱量が入り込んで、生命が存在できないほどの極低温の世界の温度を上昇させる。焼け石に水の反対は、氷河に熱湯。普通なら意味などないが、量が多ければ話は別。世界から供給される魔力を薪に無尽蔵の炎を生み出し、冷気を焼き尽くす。

「さ、これで暖かくなった」

 ダンジョンの入り口から噴き出す冷気は収まり、今度は少し暑いくらい。だが、奥からはすぐに冷気が戻ってきて、厚着していて丁度いい温度に。

「……とんでもない魔法ですね」

 すぐ後ろで、熱気にあおられ前に進めなかった騎士さんが呟く。

「なに、私なんてまだまだ。世の中にはもっと上が居るでしょうよ」

 主に、あの竜とか。あれは世界そのもの。俺はあれに契約させられて力を注がれて、不死になっているだけで、この世界の法則に従って動いているが、アレは世界そのものであるからして、その気になれば法則なんていくらでも変えられるだろう。

「いえ。騎士団の中にも、あなたほどの使い手は居ませんでしたよ」

「ではあなたの世界が狭いんでしょう。さあ、前へ。もたもたしていると氷の彫像になってしまいますよ」

 そして、異変を起こしている主を早く倒してしまおう。そして、ここを終わらせたら、また竜を探しに行かなければ。竜を殺して、強くなって、あの糞を殺して俺はのんびり寿命を迎える。それがただ一つの望みなのだから。

主人公は炎使い。そしてダンジョンは氷。相性は如何に!


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