第31話 竜殺しと買い物
今回から新しい場所での話が始まります
三日ぶりに踏んだ土の感触は、積雪越しの軽いものだった。
そう、今の季節は冬。粉雪が舞い寒風が肌を突き刺す極低温の……というはずはないのだが、なぜかそうなっている。船に乗ったときにはまだそんな季節ではなかったはずだ。船でたかが三日四日程度では、気候が大きく変動するほどの距離を移動できるはずがないと思う。ファンタジー世界独特の、謎の不思議パワーが働いているのかもしれないけど。
「ところで、あなたたちは何をするつもりでここに来たんですか?」
先に船から降りていた四人へ声をかける。俺はとにかく前の街から離れたい一心で、何も考えずに船に乗り込んだせいで、予定というものが全くない。そして偶然この人たちと出会い、行動を共にする結果になった。つまり今までボッチだったと思っていたのが仲間ができたのだ。この安心感は計り知れない。だからなるべくこの人たち……というか、苦労が垣間見える頭をしている教員の行動はなるべく手助けしてあげたい。
「私たちは、この街にある迷宮と呼ばれる施設を攻略し、街の雪を溶かすために派遣されました」
「攻略とは? それに雪とは。もしかしてこの雪は、自然に降ったものじゃないんですかね」
「ええ、その通り。迷宮の最深部に居ると呼ばれるボスを……それが雪を降らしてると言われてるので、それを倒します。ゲームみたいですが、残念ながら現実です」
「ええ、まさしく。それで、どこにあるんでしょう」
「ゲームみたいに、ギルドで依頼を受け、その詳細を説明してもらいます」
「RPGみたいですね」
仲介業者を通して依頼を受けて、仕事を果たして、報酬をもらう。仕事とすれば何も特別なことはないのに、依頼内容がダンジョンの攻略だと途端にゲームっぽくなる。迷宮なんて、ゲームをはじめとする前の世界だとフィクションの中でしか触れることがなかったからだろう。チ●コボの不思議なダンジョンとか。
「私は嫌なんだけど、この人と一緒に行動するのは」
「弱者に発言権はないわ。負け犬は黙ってなさい」
ゲームと違うのは、依頼を果たすのが画面内のキャラクターでなく自分なのと、パーティ内での中が険悪すぎて居心地がひどいのと。正直、同じ世界から来た人間でなければすぐに離脱しているところだ。
「しかしその前に防寒着だね。その格好じゃ風邪をひいてしまいます」
「先生に賛成。見てて寒いし」
ここがこんなに寒いと知っていれば準備もしてきたが、ろくに話も聞かず書類も読まずに船に乗り込んだおかげで、行き先がどんな場所かなんてわかるはずがない。というわけで準備なんて一切ない。当然寒い。手あたり次第周りに火をつけて暖を取ろうかと思うほど寒い。
「というわけで、そちらに丁度服屋があります。買ってきてはどうでしょう」
「そうさせてもらいます」
ざくざくと雪を踏み固めながらその店へ。扉を開いて、中へと入る。
店内は天上に吊るされたランプから淡い光が放たれ、ほんのり明るい。でも寒い。そして商品はどれも冬用。質は、良いも悪いも一通り。
「お客さん、何をお求めで? つっても、そのカッコじゃ防寒着だろうけど」
入り口すぐ横に、小さく背を丸めた老婆が座っていて、話しかけられた。最初は衣服の山と思っていただけに、少し驚いた。
「じゃ、そっちの嬢ちゃんのもだね。いいのを持ってきてあげるから、ちょいと待っておくれ」
老婆は衣服をかきわけて奥へと消え、すぐに戻って来た。何着もの服を抱え……すぎて完全に動く布の山と化している。あれでは前など見えないだろう、大丈夫なんだろうかと思っていたら、丁度俺たちの目の前で止まった。
「ほい、好きなのを選びな。金はあるんだろう? 匂いがプンプンするよ」
目は悪そうだが、鼻はよくきくようだ。懐にため込んでいるのを見事嗅ぎつけられ、さあ金を吐き出せと、大量の衣装を用意している。おまけにどれもこれも、この世界の平均よりも質が高そうに見える。
もしやそこそこの高級店なのか。金はあっても有限なので、そろそろ節約したい気持ちはあるのだが。
「金をけちって病気になったら、余計に金がかかるよ。それでもいいなら安物を買いな。アタシはどっちでも困らないけどね、ヒヒ」
いじわるそうに笑う老婆だが、実に正論である。それだけに何も言えない。
「じゃあ燃えにくい服はないかな。俺の分だけでいい」
「少し高くなるよ。いいかい?」
「大丈夫だ、問題ない」
魔法を使うたびに燃えてしまって、二着三着と買い替えることになるなら、その方が結局安上がりだ。
「ヒヒヒ、ちょいとお待ちあれ」
また奥に消え、赤色のド派手なコートを持ってきてくれた。ただでさえ色が派手なのに、首の周りにもこもことした毛が生えていて、より派手に。
「もう少し抑えめの色は」
「ないよ。代わりに性能は一押しだ。火の中に放り込んでも大丈夫さ」
「そうで……じゃあ試しに炙ってもいいか」
「店の中はやめとくれ。買った後に、店の外でならいいけどね。もちろん燃えちまったら代金は返すよ」
「じゃあいいか。ロゼは?」
「私の分まで? いいの? ご主人様」
「主従関係は、主人が従者の面倒を見るってことだろう?」
「おや、兄妹かと思ってたら違うのかい。私の目も曇ったものだねえ、歳はとりたくないもんだ」
歳とって死ねないのもつらいけどな。と、思いを秘めて、ロゼの選択を待つ。
「じゃあ、これで」
彼女が選んだのは、いわゆるゴスロリ。黒地に白のフリルがふんだんにあしらわれていながら、縫い目にわずかの乱れもない。この世界の縫製技術はどうなっているのだか。全く不思議だ。
「この服は特別な生地なんて使ってないから燃えるし破れるよ?」
「こいつは戦わないしいいだろ。いいよな?」
「もちろん、大事にするわ。ありがとう、お兄様」
「その呼び方はやめてくれ。死人を思い出す」
あの糞竜に焼かれた村。あれさえなければ、第二の人生を平穏に暮らせるはずだった。焼き殺された家族に未練はないが、連鎖的に奴の事を想起させるので、できれば忘れておきたい。
「ごめんなさい」
「怒ってない。次がなかったらいい」
「勘定はこんだけ。一コームでも割り引かないからね」
「へいへい」
指定の金額、ピッタリはなかったので、金貨と銀貨を適当に渡す。で、お釣りがジャラジャラと。
「毎度、ひひひ、またのお越しを」
「燃えたらすぐに戻って来る」
「それは大丈夫だよ。ではよい一日を」
その後外に出てから服を弱火で焼いてみたが、焦げ目もつかなかったので、結局戻ることはなかった。そろそろ持ち金も目減りしてきたし、次の仕事でいくら金が入るだろうか。




