第30話 竜殺しと船旅その5
船旅三日目。今日は魔物ではなく賊の襲撃未遂があった。ところで川に出てくる海賊って何といえばいいのだろうか。海に出るのが海賊だから、川に出るのは川賊? なんて馬鹿なことは置いといて。「私たち海賊(ここは川だが)です」とばかりにドクロの旗を掲げて寄って来たので、旗を射散らしてやると途端に舵を切って逃げ出した。
結構結構。何であれ、誰であれ、無駄に血を流す必要はない。博愛主義万歳。平和主義万歳。別に博愛主義でも平和主義でもないけどなんとなく言ってみた。
「お見事。やはりあなたを誘ったのは正解ですね」
拍手をしながら現れたのは、昨日面倒ごとを起こしてくれた男女と、その仲間の男二人。モドキ焼きのパーティーをしていて、一緒に酒を飲んで、酔っぱらってるところにパーティー勧誘の話をもちかけられて、ホイホイと二つ返事で了承した……らしい。どうも記憶があいまいでよく覚えていない。そんなことを言ったような、言わなかったような。
まあ、どちらにせよたぶん大した問題にはならないだろう。大した問題になっても、最終手段(暴力)に訴えれば大抵のことはなんとかなるし。
「改めて、自己紹介をしましょう。昨日の事は、酒の席での話でしたから、あまり憶えていないでしょうし」
「……」
忘れているというか憶えていないというか。うん、その通りだ。ごめんなさい。
「酔ってたから仕方ないですよ」
と、フォローを入れてくれた。この人いい人だ。
「それでは私から。橘コウと申します。ご覧の通り、この中で一番の年長者で、ついでにリーダーも務めています。どうぞ、よろしく」
名前を聞いて、自分でも動揺したのがわかった。相手にも伝わったのか、首を傾げられる。
「どうしました?」
話すべきか否か……機を逃せばこの次にいつめぐって来るかもわからない。いこう。
「アイン・ジェイソン。元の名前は憶えていません。日本人、ですよね。あなたたちは。あなたたちと同郷の者です」
「なんと、ではあなたも!?」
この人たちもクソッタレな神様に使命を押し付けられて殺されたのだとしたら、心底同情する。
「ええ、こちらに贈られてからもう二十年か三十年か。そちらは?」
「一年と経っていませんよ。というkとおは、そちらが先輩になるわけですか」
「そんな呼び方はやめてくださいよ、そちらの方が年上でしょうに。私は過ごした時間こそ長いですが、見てきた町はたったの三つで、見聞は全く広くありませんから」
しかもその内二つは灰になってる。
「いえ先達には敬意を払わなければ。しかし、三十とおっしゃいましたが、随分お若く見えますね。まるで学生と変わらない」
……出自は話したが不老不死であることまでは話す必要はないだろうな。考える限りでは、メリットはなく、デメリットしかない。適当にごまかしておこう。
「不自由はいろいろとありますが、前の世界より気苦労は少ないですし」
「それは羨ましい。私は一応、こちらに来る前には教師をしておりました。ここでは学校の縛りなどないのに、その役割を捨てられず、苦労していますよ」
学校なんてないから自由に生きればいいのに。と思ったが、初めからこの世界の人間として生まれた俺と違って、彼らはそうではない。この世界での生き方を教えられた俺とは違って、この世界での生き方を知らない。
教えてやってもいいのだが、そのためには残る三人のうち二人を捨ててもらわなければ。俺はそこまでお人よしじゃない。
「ということは後三人は生徒さんで?」
「あなたに失礼を働いた二人はそうですが、もう一人はこちらの方です」
「紹介が遅れました。私、この方々の案内役を国から仰せつかっております。ルイス・ヴァンシュタイン・フォンベルグと申します。今後よろしく」
話す機をうかがっていた軽鎧を着用した男が一歩ででてきて、握手を求められる。笑顔だが、腹に一物抱えていそうだ、と第六感が囁いた。案内とは言ったが、実態は監視役なのだろう。
そして、この人たちと同じところから来ている俺も同じく監視対象になるのだろうんま。出自を明かしたのは少し迂闊だったか。
「私は嫌です。こんな外道をパーティに入れたとほかの方々に知られれば、評判が地に堕ちます!」
「やれやれ。嫌われてるな」
別に構わないんだけど。いくら同郷で美少女とはいえ、野蛮人に嫌われてもな。全くこたえない。ロゼのほうがかわいいし。
「当然の態度です。女性にその……性的奉仕を強要させお金を稼がせるなんて、日本字として恥ずかしくないのですか!」
「そもそももう日本人じゃないし。そも強制は一切していない。あとはだな、いきなり他人を切り殺そうとするやつにそんなことを言われたくない。日本字として恥ずかしくないのか?」
「あれ、あ殺すつもりはありませんでした。少し脅かして反省をしてもらおうとしただけです」
「どうだかね。口じゃ何とでも言えるし、そもその行為は野蛮じゃないのか?」
「あなただって、私を川に投げ込んだでしょう。それは」
「不当なリンチ行為に対する正当防衛だ」
「では昨日の「騒がしいわね」
話が長くなりそうだと思った矢先、丁度ロゼが船室から姿を現した。
「一応話は聞かせてもらったけど、私は本当に食事としか思ってないから気にしないで」
「不純です、認められません」
「……楓さん。多様な価値観を受け入れる余裕を持ちましょう。でなければ……」
「決闘です。そのゆがんだ性格、私が矯正して差し上げましょう」
「しょうがないわね」
「ロゼ、お前戦えるのか?」
「ご主人様ほどではないけれど、自分の身を守れる程度には」
「ならいい。行ってこい。ケガはするなよ」
「ええ。ありがとうございます。槍、お借りしますね」
そして、二人は俺たちとは離れ、マストを挟んだ船の反対側へと移動した。で、数秒後。楓と呼ばれていた少女はボールのように転がってきた。放っておけば船から落ちそうな勢いだったので、鎧の上から踏みつけて止めてやった。俺ってなんて優しいのだろう。一度は剣を向けてきた相手に情けをかけてやるなんて。
「もう終わり? 口のわりに大したことないのね」
「結構腕は立つはずなんですけどね。彼女」
「なら私が強いということね。ご主人様、あなたが毎日おいしい食事をくれるおかげよ。ありがとう」
食事をするだけで強くなるなんて。便利な種族だな。夜魔というのは。うらやま……しくはないな。俺がそうだったとして、見知らぬ相手に抱かれたいかと言えば断じて否。魔物をぶち殺す方が気楽でいい。
「食事、というのはやはり……」
「主に血だから誤解しないでください」
「いえいえ、私も若いころは店によく通っていたものです。軽蔑はしませんよ」
この教師、生徒の前でとんでもないことを……まあ文句を言ってくるPTAなんかもこの世界にはいないし、気にすることもないか。
「でも、ただの食事じゃ何百回してもこれほどにはならないわよ。ご主人様が特別に美味しいの。竜殺し」
下手なことを言ってくれるな。面倒ごとが増える、と心の中で命令した。そうすると、彼女も察してくれたのか、口を噤んで。
「ほどではないけれど、戦士としては十分すぎる力量を持っているわ。技量、腕力、魔力、どれをとってもあなたたちじゃ束になっても敵わない。首輪をつけて御そうなんて思い上がりはしない方が身のためよ」
やけに持ち上げてくれるが、そういう情報は隠しておくべきだ。こいつらは今でこそ敵ではないが、いつそうなるかわからないのだから。
俺も同郷の人間との遭遇でつい舞い上がっていたが、こうもベラベラ喋ってしまったのは実によくないことだ。反省しよう。
読めばわかると思いますが、補足を入れておきます
主人公は転生者
それ以外は集団転移者です




