042:『死者』
「人は何故死ぬとお思いですか」
そんな質問をされた事がある。
そんな事を言われたって私にそんな事わかるはずがない。
自分自身が何故生きて、何でここにいるのかさえ分からないというのに、人の死の理由だなんて、そんな壮大な 大いなる理 こんなちっぽけな私に解明できる事柄ではない。
ちっぽけとは言ったが、人間性もそりゃあちっぽけではあるのだけれど、それだけではなく、私自身の身体のサイズからしても、本当に私という人物–––神物はちっぽけという言葉が本当によく似合っている。
身長なんて久しく測ったことはないけれど、身長? それとも神長?
そんな事は今は重要ではない。
身長はもう覚えていないくらいに測った事はないけれど、体重ならば毎日測っているからわかる。
40,2瓩 まあこんなに身長も小さいのだから体重もその位が適正なのではないだろうか。
平均とかはあんまり分からないけれど
まぁでも、人が死ぬのにも理由があるのならば知ってみたい気もするのも事実ではあるね。
理由があるならばそれだけで救われる魂もあるだろうとも思う。
死は理不尽ではなく、理由があるのならば、次の人生への布石だとか、報われる為の過程だとかならば、そんな理由があるのならば死ぬのもそこまで辛くなくなる。
でも死ぬのが救いという考え方は好きじゃあないな
それじゃあ、人間の生まれた理由が死ぬ為みたいになってしまうから。
そんな考え方はしたくない。
皆、生きて幸せになってほしい
じゃあ何で人は死ぬのかと問われれば、なんと私は答える
何で人には死が訪れるのか
これは私の考えだ
本当の意味を 摂理を 理を考えるわけじゃあない
私が、私なりに考える事
こうならいいな的な そんな考え
「命を無駄にしないように」
「ほー それは感慨 美月先輩はいい考えを持っておられる」
質問されたからつい答えてしまったけれど、一体全体この人は誰なんだ
この人の事を一言で言い表すのは本当に難しい
一つ一つ特徴を言っていけば言い表せれない事もないのだろうけれども、それでもこの人の事は十分に伝えられるとは思えない。
どうしても一言で言い表さなければならないのであれば、『生きていない』
決して死んでいるわけではないけれど、生きてもいないそんな雰囲気
初めて見るタイプの人
かなり矛盾した事を言っているのはわかっているけれど、それでも一言で言い表すならば、私にはそんな表現しかできない。
灯夜と同じ学校の女子制服を着ているから、高校生なのは分かるけれど、もう分からない。
「嫌だなー 美月先輩 また私の事忘れたんですか みんな忘れっぽいなー」
「いつか会った事あったっけ? 私馬鹿だからすぐに忘れちゃうんだよ ごめんね」
「ははー ミヤじゃなくて みのりですよ 先輩にはこっちの方がわかりやすいかな」
みのり・・・ 全然分からない
私にはこんな生気を感じさせない知り合いはいない
こんな真黒な知り合いはいない
色のないこの世界でもはっきりと分かる黒
黒とは言っても、髪とか雰囲気とか、ん? 爪も黒いな マニキュアか
高校生がマニキュアなんか塗って 学校で怒られないのかな
不良なのかな 真面目そうに見えるけれどもしかしてレディースヤンキーとか
そんな髪や雰囲気、爪とは対照的に真白な肌
そんなはっきりとした白黒が、私には生気を感じさせないのかもしれない
まぁ人それぞれだから、そんな失礼な事人にはいえないけれど
みのりは後ろで手を組みながら、少し前屈みになるような姿勢をして、コツコツと履いているローファーの踵を神社の石畳に打ちつけている
緊張からか美月は下唇を少し噛む様な仕草をしながら無言で、みのりが打ちつけているローファーの踵を目で追っていた。
「単刀直入に言います」
みのりが急に話し出したモンだから美月は少し驚いた様子で右足を一歩下げた
みのりは、美月のそんな同様は全く気にも留めずに続ける
「美月先輩は死んでみて、今はどんな気持ちですか」
「はぇ?」
唐突もない事を聞かれた
全く意味が分からない
急に変な事を聞かれたもんだから、びっくりして声が裏返ってしまった。
私は今こうして生きているんだから死んでなんかいない
死んでるのは自分じゃないのかとも思ったが、どっちも死んでなんかない
私もみのりちゃんも今こうして会話しているんだから。
「何言ってんのみのりちゃん 私は死んでないよ」
「いえ、美月先輩は死んでいます」
「何をわけの分からない事を言ってんのかな」
「あれー そのままの事を言っただけなんだけれどな」
無表情のままみのりは困った風な事を言って、額に右手を当てながら続ける
「ごめんなさい 忘れてください」
訳もわからずに惚け突っ立っている美月の小さい左の胸を、みのりはギュッと握り、そんな言葉を残し森の方へと姿を消した。
「またお会いしましょう お母さん」




