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追放令嬢アイリスの銀行経営 ~神を監査(リストラ)して世界を逆買収するまで~  作者: 雫石アイナ


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30/30

第30回 世界の時価総額――魔法が消えゆく中、アイリスが世界の『買い取り価格』を算出しますわ

 大聖堂の最奥、暗闇に沈む「神の金庫」。

 そこには、魔法の源泉であるはずの巨大な水晶が、最後の輝きを失い、黒い沈黙を守っていました。

 精算(世界の終わり)は終わった。教皇が勝ち誇ったように笑ったその時、私の懐中時計が、時代の終わりを告げるパチンという音を立てました。


「……精算? いいえ。これは『強制執行』の開始ですわ」


 私は、砕け散った門を背景に、レナードと共に神の座へと歩み寄りました。

 手には、一千枚に及ぶ『世界買収提案書』。


「教皇。……神が人類から信仰という名の資産を掠め取った挙句、利息(魔法)が払えなくなって逃げ出すなど、私の市場では一クローナの価値もない破廉恥な行為ですわ。……これより、この世界そのものを我が朝凪中央銀行が『敵対的買収(TOB)』いたします!」


「……バカな! 神の負債を、ただの人間が支払えるはずがない!」


「支払えますわ。……一千兆クローナ。……人類がこれから生み出す数千年の労働価値、石炭が生み出すエネルギー、そして——私が発明した『信用』という名の、無限の資本。これらすべてを担保に、私が神の不渡りを肩代わりして差し上げますわよ」


 私は、錆びた一クローナを真っ黒な水晶に叩きつけました。

 その瞬間、硬貨が太陽のような輝きを放ち、大聖堂の暗闇を焼き尽くしました。


 神という名の放漫経営者を解任し、人類の債務をすべて私が買い取る。

 魔法が消え、世界が静止しようとしたその瞬間、私の『鉄と蒸気』が新しい心音を響かせました。


「……取引、成立ですわ(ディール)」


 ——それから、一年。


 王都の空は、石炭の煙と、活気に満ちた人々の声で溢れていました。

 魔法は消え、人々は自分の手で働き、自分の知恵でパンを稼ぐようになりました。

 そこには、かつての『祈るだけの羊』はいません。一人一人が、自分の人生という資本を運用する『経営者』としての顔がありました。


「……アイリス様、第一四半期の決算報告です。……大陸横断鉄道の開通により、流通利益は予測の三〇〇%を達成。……それから、あちらの『従業員』二名ですが。本日、ついに借金を完済いたしましたわ」


 セレーネが指差した先。

 王宮の清掃員として泥まみれで働いていたセドリックと、救護院の事務員として走り回っていたマリアが、晴れやかな顔でこちらに一礼しました。

 彼らはもう、王子でも聖女でもありません。

 自分たちで稼いだ金で、自分たちの人生を買い戻した、誇り高き労働者でした。


「あら。完済? ……なら、次は『起業家』として、私の商会のフランチャイズ契約でも勧めておいてちょうだい。……一度掴んだ優秀な人材リソース、そう簡単に手放すほど私は甘くありませんわよ」


 レナードが、私の隣でシャンパングラスを傾けながら、愉快そうに笑いました。

 彼は帝国の総裁を辞め、今は私の商会の『最高戦略責任者』として、最も厄介で最も有能なパートナー(共犯者)に収まっています。


「アイリス。……君はついに、世界を買い取ってしまったね。……次は、何を仕掛けるつもりだい?」


「決まっていますわ。……世界を黒字にした後は、この繁栄を永遠に『持続可能サステナブル』にするだけですわ。……一クローナの誤差も、一人の無駄も出さない、完璧な市場をね」


 私は、かつて錆びついていた、今は黄金色に磨き上げられた一クローナを、指先で高く弾きました。

 魔法なき世界。

 けれど、人々が希望という名の資本を信じ続ける限り、私の帳簿が赤字に沈むことは決してありません。


「……さあ、皆様。……新時代のマーケット・オープンですわ!」


 汽笛の音が、眩しい朝の光を切り裂いて響き渡りました。

 私の、そして世界の、最高の取引は、まだ始まったばかりなのです。

完結にあたり、これまで本作品を「ポートフォリオ」に加えてくださったすべての投資家(読者)の皆様に、心より感謝を申し上げます。


婚約破棄から始まり、ドレス一枚から「神を買い叩く」まで上り詰めたアイリス様の物語。

魔法という名の詐欺を暴き、数字の力で世界を再構築する彼女の歩みは、いかがでしたでしょうか。

冷徹な経営判断の中に、一クローナの誤差も許さない彼女なりの「愛(救済)」を感じ取っていただけたなら、筆者としてこれ以上の利益カタルシスはございません。


アイリス様とレナードの「合併交渉」のその後や、セドリックたちの再起……語りきれない帳簿の裏側は尽きませんが、ひとまずメインの商談は、これにて最高の「黒字」で終了させていただきますわ。


「私の物語に投資してくださって、本当にありがとうございました。……皆様の人生の帳簿が、明日も輝かしい黒字でありますように」


最後に、もしよろしければ、完結記念の『配当金(評価・ブックマーク)』をいただけますと幸いです。それが、私の次なる新規事業(新作)の資本となりますの。


それでは、また次の商談(作品)でお会いしましょう。

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