サラサラ~
莉緒が大浴場を清掃中の頃─────
小柄な侍女が、不審者よろしく部屋を覗いていた。
「ユリアあなた、なぜ姫様の部屋を覗いているの?」
呼ばれた侍女は声のした方を振り返るなり、しーと指を口に当てた。
「サラ先輩。姫様の部屋に、おっきいワンちゃんが落ちてます(ヒソッ)」
何を言っているんだこの子は。それでも眼鏡をクイっと直しながら、小柄な彼女の頭の上から中をのぞく。
部屋の中には腹を上に向け、四肢をだらしなく伸ばしきった真っ白な犬らしき動物が絨毯の上に落ちていた。
「落ちてるわね(ヒソッ)」
「ですよね?(ヒソッ)」
すっかり絨毯の感触のとりこになっていた白陽は、新たな人の気配に遅れて気付き、慌てて伏せのポーズにビシりと姿勢を正す。
かたくなに扉の方に視線は向けない。
「誤魔化したわ(ヒソッ)」
「絶対こっちに気付いてますよね(ヒソッ)」
扉の隙間からヒソヒソ聞こえる声に、かたくなに視線を向けない白陽。
だらけきった姿なぞ最初からなかったかの様に、ピクりとも動かない。
「昼間、中庭にいたフェンリルだわ。姫様の部屋で何してるのかしら(ヒソっ)」
「単に寝てたんじゃないでしょうか?(ヒソっ)」
─────そんな事はないっ。気高き魔獣のフェンリルは、初めてお邪魔したよそのお宅で、決してへそ天で寝たりしないっ!
「ユリア。アレ持ってきてちょうだい(ヒソっ)」
「アレですよね?私も思ってました。秒で取ってきます(ヒソっ)」
報告のために廊下を急いでいたウィル少年は、一旦通り過ぎた部屋を慌ててもう一度引き返す。
そこは姫様の部屋で、部屋の主は留守なのだが、今は白い毛並みのフェンリルが、侍女達に世話を焼かれていた。
「すごーい、ふわふわ~サラサラ~」
「筋肉は多すぎず少なすぎず。しなやかでいい感じだわ」
気高き魔獣のはずのフェンリルは、侍女達に丁寧にブラッシングされていた。
「さすがの艶よね」
「うちの子達、こんなに大人しくブラッシングさせてくれないんですよ~」
二人の侍女に世話をされている白陽は、何か悟ったかのように、半目で遠くを見つめている。
「‥‥‥‥シ、シロ君?」
思わず呼びかけると、突然意識を取り戻したかの様にピクンと体がはねる。
そのまま高速で、さささと少年の後ろへ隠れる。
「あ───ウィル君ズルい───」
その声が合図となり、フェンリルは廊下を走っていった。
「逃げられちゃった~」
「僕の方がズルいって言いたいですよ~」
僕だってシロ君撫でまわしたいの我慢してたのに~。そう言うとユリアはいいでしょ~とブラシを持った手をヒラヒラさせた。
「ウィル隊員。姫様はどちらに?」
「姫様は『大浴場』です」
「『大浴場』て、あの『大浴場』の事?」
「え、どうしてそんなところに?」
─────入れるようにするそうです。
そう伝えると同時に、廊下の向こうでラング様の叫び声が聞こえてきた。
「シロ君は隊長たちの部屋に行きましたね~」
「ちぇ~残念」
ウィル少年が隊長たち三人が詰めている部屋に行くと、長椅子にどっかりと寝ころぶシロ君がいた。
床には長椅子から追い出されただろうラングが、腰をさすって座り込んでいた。
─────シロ君。態度違いすぎ~




