ミウの実?
「ああ、シロ君。私達この格好じゃ、さすがにマズイわ」
それから彼女は、我々の目の前で、水魔法を展開した。
返り血だろう血の色が一気に洗い流され、黒髪に異国風の見慣れない服装。踵が何故か武器のように見える靴を履き、白い装飾をされていた細身の剣を背中にしょった姿。
それとともにフェンリルは、毛皮に付いた汚れを落とし、真っ白な姿に‥‥‥‥。
「‥‥‥‥そんな使い方、見たことねぇよ」
ラングが呟いた瞬間。何故かフェンリルはシュルシュルと小さくなる。
‥‥‥‥どう見ても、真っ白な大型犬だ。
「ワンワンワンっ」
「「ええぇぇぇ‥‥‥‥」」
─────なんか文句あんのかっ的な感じで吠えられた。
「駄目よシロ君。ごはん奢ってくれる人には、愛想よくね?」
‥‥‥‥それでいいのかよっ! 皆のツッコミは沈黙となった。
「甘いものとか出せるとよかったんですが~あいにく、今回の視察のメニューに入っていなかったんですよ~森で何か取れればよかったんですが~」
ひりついている空気を全く感じさせない、雑用係の少年の声がやけに響く。
「やだぁ。そんな事気にしなくていいのに~」
────何だ?あそこだけ、何かの接待をしている店のような妙な空気は。
森の外に設置した野営ポイント。
全隊員が一塊になっているが、焚火ポイントは三つ設置されている。
それぞれ隊員が火を囲んでいるが、森から出てきた一人と一匹に皆の視線がどうしても集まる。
ただ、森の中に入った調査組と、留守番組では温度差があり「あんまり見るんじゃねぇ。こっち来られたらヤバいだろ」調査組に小声で注意される始末。留守番組には何がヤバいのか解らず、どうしても視線が向いてしまうのだ。────森の中から出てきただけで、ただ者ではないのは解ってはいるのだが。あの雑用係の少年とほわほわ空気を出している人物が、どうヤバいのか計りかねていた。
「そうだ、じゃあ、これなんかどう?」
美味しいものを久しぶりに食べてご機嫌な私は、─────ひょいっと掌に赤い実のイチゴを取り出す。あの後も、群生地に行き、更に育っていたオネェイチゴを大量に収穫していたのだ。相変わらずやかましかったが、今しばらくは静かだろう。また行くつもりなので、マーキング的な印も付けてきた。
自分とシロ君以外が、驚愕に目を見張っているのは気付いていなかった。
目の前に出された果物を、雑用係の少年は目いっぱい見開いて驚いていた。
「ミ、ミミミミミミ ミウの実っ!」
プルプルする両手で、その実を受け取り、まじまじと観察している。
「ミミミミミウの実?そんな名前なんだ。甘くておいしいよね~」
「い、いえ、失礼しました。ミウの実です。これは、上級貴族の方々ならまだしも、我々一般人には一生に一度でも食べられればいいという高級品です‥‥‥‥」
「え~そうなの?でも、いっぱいあるから、みんなで食べようよ。こちらばっかり食べさせてもらって悪いし」
─────お裾分けお裾分け。そう言いながら、近くにあった籠にゴロゴロゴロゴロ山積みにしていく。
「ふわああぁぁぁぁ‥‥‥‥こんな沢山のミウの実、初めて見ました~!すごくいい香りですねっ!」
キラキラした顔で、籠を捧げ持つ少年に、うんうんいいね、いいねぇ。かわいい子には笑顔が似合うよ。
─────ふと、少年が籠を持つ手に目がいった。
「その指は、どうしたの?」
「あ~、これは森の中で薬草採取してた時に、ちょっと夢中になりすぎまして。切ってしまったんですよ~」
「どれどれ?見せてごらん」
少年の手を取り、そのまま何の気もなしに『治癒』を唱える。
─────ぶわっと広範囲に風が通り抜けた。
─────あ、やべ。完全に気ぃ抜いてた。広範囲に『治癒』が広がっちゃった。シロ君ジト目で見ないで。毛並みがちょっと綺麗になっただけじゃん。見た感じ怪我している人もいなかったし、大丈夫でしょバレないバレない。─────なんて思ってました。
「うおおおォォォォォォォォ─────」
───── 突然背後から、絶叫があがった。




