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第18幕 少女たちの解体

 六畳の和室は、すでに川添の部屋ではなかった。空間の密度(みつど)が物理的に変わっている。

 部屋の中央を占拠(せんきょ)するのは、分解された「銀槍(ブレット)」のシリンダーと、無造作に置かれた「聖矢(ストリスティ)」の部品群だ。それらが畳の上に散乱(さんらん)し、鼻を突く機械油の臭気を放っている。

 その鉱物的(こうぶつてき)な油の臭いに、イヴェットの甘ったるい香水と、階下の厨房(ちゅうぼう)から換気扇越しに昇ってくる豚骨(とんこつ)スープの獣臭(けものしゅう)が混ざり合う。

 空気は澱(よど)んで重い。劣化(れっか)した蛍光灯がジジジと音を立てて不規則に明滅(めいめつ)し、定まらない影を壁に焼き付けていた。

「……お茶、置くぞ」

 川添は湯呑(ゆの)みを二つ、ちゃぶ台の端に置いた。自分の部屋なのに、足の踏み場がない。部屋の隅、現像液のバットの横で膝を抱えて座る。

「感謝する」「ありがとう、ナッシュ」

 二人の反応は同時だった。

 飯野愛恵は、分解した銃の部品を布で拭(ぬぐ)っている。その布は薄汚れており、こびりついた汚れが赤黒い。錆(さび)なのか、凝固(ぎょうこ)しかけた血液なのか。

 彼女は手を止めず、片手で湯呑みを掴むと、熱い茶を一気に喉に流し込んだ。

 ゴクリ。

 喉仏(のどぼとけ)が上下し、液体が胃に落下する音だけが響く。熱さを確認する予備動作も、香りを楽しむ間もない。

 ただの水分補給。エンジンの冷却水を補充する作業と同じだった。

「調整が必要ね。接続端子(たんし)が歪(ゆが)んでいるわ」

 イヴェットが独り言のように言い、金属製のヤスリを取り出した。彼女の手元には、銀色の矢尻(やじり)がある。神経に突き刺して固定するための「楔(くさび)」だ。

 ガリッ、ガリッ、ガリッ。

 ヤスリが硬い金属を削(けず)る音が狭い部屋に充満(じゅうまん)する。

 高音。黒板を爪で力任せに引っ掻いたような、あるいは歯医者のドリル音にも似た不快な周波数が、川添の三半規管(さんはんきかん)を直接揺らす。

 川添は無意識に奥歯を噛み締め、耳を塞(ふサ)ぎたい衝動を堪(こら)えた。

 目の前の光景から「女子高生」という記号が剥(は)がれ落ちていく。ただ、次の解体作業に備えて道具を研ぐ、乾いた金属音だけが支配していた。

「ナッシュ、顔色が悪いわよ?」

 イヴェットが顔を上げ、口角を上げた。笑顔。だが、彼女の手は赤黒いオイルで濡れており、その指先が鋭利(えいり)な「楔(くさび)」を弄(もてあそ)んでいる。

 川添の肺に、見えない油膜が張り付いたような息苦しさが走った。

 部屋の空気が、彼女たちの呼吸によって異界の成分へと置換(ちかん)されていくようだった。

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