9話 ゾフィーとチェンチェン
グラッドバックの森の入り口には炭となったグリーンマンの焼け跡が大きく残っていた。
馬に乗った2人の男がその様子を見ている。
「これがグリーンマンを焼いた痕跡か」
データ・スコットランス。
宮廷弓道士・Cランクスナイパー。
「凄い…まるで焼け野原だ」
ジル・ケビン。
宮廷魔道士・Dランクサモナー
データは馬から降りて焼け跡を観察する。続いてジルも合わせるようにしゃがむ。
「生半可な火力じゃないね。魔獣同士の争いの可能性もある?」
ジルの言葉にデータは焼け跡を指で触りながら返答する。
「ああ、本当に人間がやったのか疑いたくなる。だけど宮廷への報告では、剣士が1人、女剣士が1人、商人が1人の3人だった」
「じゃあ、やっぱり求道者が…」
「おそらく商人は巻き込まれたんだろう。しかし5メートルはあろうかというグリーンマンを燃焼させる火力、か」
「グラッドバックの森…。データ、そういえば今日は“太陽の日”だよね?」
「…ルッド教会への洞窟に入ったかもしれない。行ってみよう」
2人は馬を駆けさせた。
―――
グラッドバックの森の中腹にある岩の亀裂に到着する二人。
「ここに入ったのか?」
「データ、あれ!」
岩壁には朽ちた鬼が倒れていた。
「…な…鬼?」
「…求道者がここで鬼と戦ったって事?」
「ジル、すぐに報告だ」
「う、うん!」
ジルは羊皮紙にメモを書き、腰に下げた“空の鳥籠”を持った。
「宮廷へ行ってくれ」
羊皮紙を構えて鳥籠の扉を開けると、何も無かったはずの鳥籠の中から蛇のように長い胴体に羽が生えた生物が飛び出す。
ー幻獣・スカイフィッシュー
召喚士が獣から錬成し生命を与えた幻の生物である。魔力と飼い主の努力によって成長する。
「そらちゃん、ちゃんと届けるんだよ!」
スカイフィッシュは羊皮紙を加えたまま空へ飛び出した。
「鬼はこのままにはしておけない。ひとまず隠そう」
データとジルは鬼を岩間に隠した。
「刺し傷もあるみたいだ。やっぱり人間の可能性が高い」
「…しかし、太陽の日とはいえ、鬼がこのエリアまで来るとは…」
「もしかしたら、僕らの知らない所で何かが起こっているのかも?」
「…洞窟の中へ行ってみよう」
「データ…用心して」
―――
タンタウン公園、ルッド教会。
2匹のチェンチェンはもう既に立ち上がっている。その後ろにローズは隠れていた。
「離れろ!」
ジンとテトラはそれぞれゾフィーと距離を置いた。
「…鱗粉対策って訳?」
「あぁ」
チェンチェンに鱗粉を飛ばされたら厄介だ。意識が朦朧とする。
それぞれ感覚を開け、タイミングを見て全員で逃げる。
「ゾフィーを助けるぞ!あの子は動けないかもしれない」
テトラはそう言ってゾフィーをフォロー出来る距離に間合いを詰めた。
だが、ゾフィーは下を向いたまま動かない。
なにをしている?距離を取るべきだ。
上空に1匹のチェンチェンが跳ねる。
「ギャ!ギャ!ギャ!」
そのままゾフィーめがけて落下する。
「おいゾフィー!行ったぞ!」
ゾフィー。何で動かない?
最高飛行速度のまま落下したチェンチェンはゾフィーの右腕に齧り付いた。
「ギャッ!ギャッ!」
「ゾフィー!!」
ゾフィーの右腕が千切られちまう…いや、えっ?
「あぁあぁぁぁぁぁ!!!!」
右腕に齧り付いたチェンチェンをそのまま地面に叩きつけた。
ドォォォォォン。
「返してよ!ねぇ!ローズを返してよぉ!!」
地面にめり込んでいるチェンチェンにゾフィーが拳を振り落とす。
ズガァァァァン。
チェンチェンの頭は潰され痙攣していた。
「鬼の頭蓋骨を砕いた…?ちょっと待て…強すぎる…」
鬼は人間より骨や筋肉、皮膚が硬く出来ている。その中でも硬い頭蓋骨を、腕力だけで砕いただと…?
地面にめり込み朽ちたチェンチェンの痙攣が止まる。
「返してよ!ねぇ!ローズを返して!」
ゾフィーは何度もチェンチェンを殴りつける。
「お、おい…」
「待ってジン!」
ゾフィーの元へ向かうジンを止めるテトラ。
ゾフィーの上空でもう1匹のチェンチェンが羽ばたき鱗粉を飛ばしている。
「マズい!」
テトラは剣を伸ばす。
…しかしチェンチェンは羽の先の両手で剣を掴んだ。
「ギャギャギャギャ!!」
バギッ!!
テトラの剣が折られる。
「クソッ!剣を…ジン!あいつを焼き尽くせ!」
「ちょ、いきなり言われても…」
この急戦でジンは何の準備も出来ていなかった。
「ギャギャ!」
ゾフィーが天を仰ぎ、地面に倒れた。
「ゾフィー!チッ!鱗粉を吸ったか!」
ゾフィーの元へ駆けるテトラ。折れた剣を変形させ“短剣”にしてチェンチェンを斬りつける。
…が、チェンチェンはさらに上空へ飛んだ。
ゾフィーは倒れたままで動かない。
「ジン!ゾフィーを!意識が飛んだ!」
「あぁ!」
ジンは倒れるゾフィー元へ駆けつけ抱きかかえるが…
「ぐっ…重すぎる…」
筋肉が発達したゾフィーを抱える事は出来なかった。
「早くしろ!」
ゾフィーを抱えるジンの元へ、チェンチェンが上空から飛びかかってきた。
…マズい。
「ギャギャギャギャ!」
避けられない。どうする?考えろ。どうする?
…それは突然だった。
飛来する槍がチェンチェンの羽を射抜いた。
…ボンッ!!
槍を追いかける様に、後方から爆発音が聞こえる。
「ギャーーーー!!!」
「えっ?何が…」
チェンチェンはそのまま地面に落下した。
「だ、誰…」
槍の方を見ると、長い帽子を被った男が立っていた。
「お前ら、そのまま逃げろ!!」




