35話 フリー求道者の野良パーティだよ
「…何だ?この炎は?」
百数匹の鬼を燃やす特大の火柱を、エルジェーベトは理解出来なかった。
魔道士による集団燃焼?いや、その密集地帯に魔道士が参入する事は容易ではない。現に目に見える位置には集団は来ていない。
なのに、なぜこれだけの大炎が起きている?一体何が起きた?
その大炎の狭間に現れたジンとゾフィーの姿を見つける事は出来なかった。
そしてジンはと言うと…
データだ。驚いた。何でデータがここに?しかもテトラと。
顔を見合わせるデータとジン。
「…何で、ジンがここに…?」
データがジンに質問をする。
あっ、そうか。そりゃあそうだよな。俺の方が何で居るんだ?って感じだよな。
「おお…うん、久しぶり」
あぁ違うよな。そうじゃないよな。質問の答えになっていないよな。
でも、何と言うか…データに合わせる顔が無い。
データと会えたのは嬉しいけれど、方や宮廷求道者、方や求道者を諦めかけた肉商人。
元々同じ場所から始まった二人なのに、今では身分が違い過ぎる。
これじゃあどんな言葉を言っていいか分からないよ。
「この燃焼、ジンがやったのか?」
「まぁ、うん、まぁそうだね」
怒るよな。そりゃあな、友達が魔道士でも無いのに。
「テトラさん!大丈夫ですか?」
ゾフィーがテトラに声をかける。
「ゾフィー、ヒールを…」
「はいっ!」
ゾフィーは杖をテトラの腕に当てて詠唱を唱える。
そうだよな。データに動揺していたけれど、テトラが傷を負っていた。ここは戦場だ。テトラを守る事だけを考えろ。
ヒールの詠唱によりみるみるテトラの傷口が癒えていく。
「あなたは…」
データはゾフィーに声を掛ける。
「ゾフィーです。聖道士をしています。あっ、宮廷求道者さんもヒールをした方が良いかもしれないですね」
「助かります」
ゾフィーはデータにもヒールをかける。
「不思議だな。周りは戦場で、今は火の海だと言うのに、ジンとお仲間が来たら何だかホッと一息つける事が出来たよ」
「データ、会えてよかった」
ジンとデータは握手を交わす。
データは強く腕を握りながら満面の笑みでジンを見た。
照れ臭そうに頭を掻くジン。
めんどくさそうにその様子を見ていたテトラが声をかける。
「罠士が燃焼の魔法を使うのはダメなんじゃなかったのか?」
「いや、まぁそうなんだけどさ…」
「燃焼の魔法。やっぱりそれって…」
そうだ。データには説明しないといけない。
「ちょっと待ったデータ。その、魔法って言うのは、仕方無いって言うか…色々、データには話したい事が沢山あるんだけど、今は許して欲しい」
「…何か理由があるんだろ?」
「魔法を使うのは、テトラを守る時だけだから」
「…へっ?」
データはテトラを見た。
テトラは目を剥きながら驚いている。
「あぁ違う違う!深い意味は無いんだ。だから…」
「皆さん!鬼が来ます!」
燃焼が収まり、周辺に鬼が集まってくる。
「俺が対処する!」
データは落ちている剣を拾い鬼に斬りかかった。
「くっ。やはり剣では一匹二匹程度の足止めで精一杯か…」
「私もやります!」
ゾフィーが杖を振りかぶり、鬼の頭部をぶっ叩く。
グァァァ!!
ギャアアア!!
呆気に取られるデータ。
「君は…武道家?」
「いえ、聖道士ですよ!まぁヒールしか使えないですけどね!」
どんどん鬼を吹き飛ばしては道を作る。
「私達がここまで来た様に、こうやって鬼を飛ばせば道が出来ますよ!」
聖道士には思えないその見事なまでの筋肉はどう言う事だ?求道者にはまだ自分が理解出来ない可能性があるという事か?
「ゾフィーはデータへ道を作ってくれ!データ、他の求道者に避難の命令を!」
ジンが指示を出す。
「ジンはどうする気だ?ジンも一緒に逃げよう!」
「敵の大将に、全力の燃焼を当ててみる。誰か人間に当たると危険だから、絶対に逃げてよ」
エルジェーベトに?
「いくら何でも危険だ!ここは一度退却しよう!」
「私も行くぞ」
テトラが立ち上がりながら言った。
「ありがとうゾフィー。もうだいぶ良くなった」
「いいえ〜」
ゾフィーは鬼をぶっ飛ばしながら軽快に答えてみせた。
「何だ、君たちは…一体どんな求道者なんだ…」
「あの槍道者の隊長さんの言葉を借りるなら、俺達はフリー求道者の野良パーティだよ」
呆気に取られるデータ。
「よしジン!エルジェーベトの元へ行くぞ!」
テトラとジンは走る。
「宮廷求道者さん!こっちへ!」
「あっ、あぁ…」
ジン。見ない間に別人の様になった。でも、一緒に戦場に出れた。俺は俺の仕事をする!
「カルファーさん!退路が出来た!退却だ!」
「データ、無事だったか?」
「何とか」
近くにカルファーさんが居て良かった。俺を探していたのかもしれない。
「カルファー隊!退却!」
カルファー隊が一斉に下がっていく。
「おい!鬼達を俺の元へ集めろ!」
エルジェーベトが指示を出し、鬼が銅鑼を鳴らす。
「人間が。逃げられると思っているのか?ピクチェン!チェンチェン!求道者共を追いかけるぞ!」
…ん?
エルジェーベトの視線の先には、ジンとテトラが立っている。
「こいつが大将?」
「あぁ。こいつを倒すのがノルマだ」
「何だよ。雑魚が邪魔するんじゃねぇよ!」
エルジェーベトは怒りに震えた。雑魚の人間が。魔獣の私の邪魔をするな!と言いながら体を硬化させる。
「お前らに構っている暇は無いんだよ」
第一部・鬼編もクライマックスです。是非とも、感想・ブックマークをよろしくお願い致します。




