34話 助けてくれよ
いつか、私の頭から角が生えるのかな…。
ガシャン。
ガシャン。
ガシャン。
テトラはクローバー邸の廊下に置かれる花瓶を落とし割りながら歩く。
「おやめなさい!データちゃん!」
メイドがテトラをなだめるが、その声はテトラの耳には届かない。
特に意味は無かったが、何か無性に壊したくなっていたのだろう。たまたま花瓶だったというだけで、それが何であろうが関係無かった。
自室に入ると、ボロボロだった家具が更にボロボロに荒れている。
テトラは自分で自分の感情をどうする事も出来なかった。
私が悪いんだ。全て、私が悪かったんだ。
ガン。
ガン。
ガン。
壊す物が無くなると、自分を痛めつける様になった。何度も壁に頭を打ち付けると皮膚が破れ赤い血が流れる。その血を見ると、また涙が流れてくる。
「テトラ!どうしたの?」
ドアを叩きながら、お母さんの声が聞こえる。そしてその後ろからお父さんの声も。
「ユーナ!一体どんな教育をしているんだ!」
「あなた、ごめんなさい。ユーナ!出てきてらっしゃい!」
ドアをこじ開けた母が部屋に飛び込み、私に抱きついてくれた。
「どうしたのテトラ。大丈夫よ」
私は血と涙でぐしゃぐしゃになった顔でお母さんの胸に飛び込んだ。洋服が汚れてしまう、と一瞬心配になったが、お母さんは気にする素振りは無かった。
「大丈夫よ。落ち着いて」
涙で胸が苦しくて言いたい事が言えない。
良かった事は、私はお母さんの子どもで間違いが無い事。
お父さんやお兄さんお姉さんとは血が繋がっていないかもしれないのは残念だけど、私はお母さんの子どもで良かった。
ひとしきり母親の胸で思いっきり泣いたら少し寝てしまった。
かすかにお母さんの声が聞こえる。
「テトラ。幸せに生きてね。だから強くなって。鬼から自分を守れる様に強く生きてね」
「お母さん…」
「ん?起きたの?」
「…何でもない」
私は鬼の子どもなの?と聞こうと口を開いたが、どうしても聞く事は出来なかった。これ以上お母さんに“ごめんね”と言わせるのが嫌だった。
私が暴れて以来、お母さんは心労が増していた様に見えた。
お母さんの部屋からは毎日泣き声が聞こえた。
こんなにもお母さんを苦しませる鬼と自分が憎くなったが、どうすれば良いのかわからず、壁に頭を打ち続けるばかりとなった。
お母さんが心労で倒れたのはそれからすぐだった。
病室で寝たきりとなったお母さんに私は毎日顔を見せたが、ついに出生について聞く事は出来なかった。
どんどん弱っていくお母さんに過去の辛い事を思い出させる訳にはいかないと思った。
剣を握る。私はお母さんの言いつけ通り、強くなろう。
今、強くなければ鍛錬して強くなれば良い。毎日剣を振って求道者になる。鬼を倒す為に。
―――ーーー
「私は鬼をぶっ殺す為にここまで来たんだよ!」
エルジェーベトに立ち向かい、剣を振り上げるテトラ。
ザクッ。
テトラの肩にエルジェーベトの爪が刺さる。
その剣は振り下ろす間もなく、テトラの体と共に地面に落ちる。
「あぁぁぁぁぁぁ!!」
大きな叫びと共にテトラの肩から血が垂れる。
「技術も力も無い奴が何言ってんだよ!」
エルジェーベトの爪がテトラの体に刺さる間一髪で救ったのはデータだった。
テトラの体を抱えて逃げる様にその場を離れる。
「大丈夫か!?」
だが、周辺は乱戦状態。
鬼が密集している中、テトラを担いで走るにも限界があった。
データは鬼の槍の中を傷だらけになりながら走った。
そしてマーク・ハッセルが築いた鬼の残骸の山の隅に身を潜め、息をつく。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「痛い…」
「君は右肩がやられている。もう剣を持つのは無理だ。僕の矢も尽きた。打つ手はまだ考えられない」
「…私を置いて逃げれば良かった」
「あぁそうしようと思ったけどね。だが置いていけば間違い無く君は死ぬ」
「この密集地帯から出られそうに無いか?」
「だろうね。だが、俺もまだここで死ぬ訳にはいかない」
「どういう事だ?」
「…昔、約束したんだ、親友と。一緒に戦場に出ようって」
「何だ?その約束」
「そいつは今、求道者として活躍していないが、俺が尊敬する強い奴なんだ。いつか求道者として一緒にガッドランドを守るって誓ったんだよ」
「そうか」
「あいつは約束を破る様な奴じゃない。信頼しているんだ」
「…私もいるぞ。信頼している奴が」
「そうか」
「あいつは約束を破る様な奴じゃない。信頼しているんだ」
「…私もいるぞ。信頼している奴が」
「そうか」
テトラとデータは鬼の集団と目が合った。
鬼達が槍を構え近づいてくるが、すぐに立ち上がる体力はもう残っていない。
「助けてくれよ…」
ボウッ!!
鬼が振り下ろそうとする槍の後ろから火柱が上がった。
「ガァァァ!!」
火は辺り一面に海の様に広がり鬼を燃やした。
「これは…一体何があった?」
「やっと見つける事が出来た。テトラの叫び声が聞こえたんだ」
「ジンさん、早く行きましょう!」
燃え盛る炎の間をジンとゾフィーがやってくる。
「テトラは!?」
ジンは火の粉を払いながらテトラを探す。
それを見て、驚いたのはデータだった。
「…ジン?」
「……データ!?」




