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32話 会心の一撃

「なんじゃ…声が聞こえなくなったな…」


頭がぼ〜っとする。周りの声がボヤけて聞こえる。もう老いぼれたか?なんだか胸の部分が暖かい。

チラッと体を見ると、ドクドクと血が流れているのが分かる。

そうか。

暖かいのは、血のせいか。


つい右手で胸を押さえようとするが、そこに何も動かせる物は無い。


「先生!先生!」


ん?誰かが声をかけているな。


「ハッセル先生!!!お逃げ下さい!!」


データがわしの所に向かっているのか。


そんなに必死にならんでもよい。一人で来ても、大剣を持ったわしを運べんだろう。

()いやつじゃ。


弓道者として芸も使えて頭も良く、心も強い。これからのガッドランドを引っ張ってくれるだろうな。


「先生!!」


だがハッセルは逃げる素振りを見せず、左手で巨大剣を握り立ち上がった。


はて。何でわしは立ち上がった?


え〜っと、思い出せ。何者かに右腕を斬られて…そうじゃ、その者はエルジェーベトに誘惑されていたんじゃな。正気に戻る前にわしが無事でおらぬといけぬな。


ショックを受けてしまっては可哀想じゃ。


その前に、鬼が攻めてくるきっかけは何じゃったっけかの?


そもそも何でわしは求道者になったんじゃったっけ?


ダメじゃ。頭がボーッとするの。


「こいつ、まだ私とやる気か?」


おっ。エルジェーベトめ。爪を伸ばしてこちらを睨んでおるな。そうか。あの爪で体が裂かれて血が出ているのか。そうか。


「救出しろ!」


アウンジャンが召喚士隊に声を上げる。


求道者と幻獣が大挙に本陣へ押し寄せる。


上空からリヴァイアサンが現れ、ハッセルの服を噛み、持ち上げる。


おっ。体が軽くなったの。ドラゴンが引き上げたのか。


でももう少し待っとくれよ。思い出せないのじゃ。


何でわしは今まで剣を振っていた…?


「逃がすかよ!」


エルジェーベトは爪を伸ばすが、リヴァイアサンは更に上空に上がりハッセルを逃がした。


―――


「一体どうすれば、もっと剣が強くなれますか?」


―――


あぁそうだった。剣が強くなりたいんだった。あの頃、とにかく剣が強い人が、カッコ良いと思ったんじゃった…。


あの頃の自分が憧れる剣道士になれたかの?


結局わしは、芸を覚える事は出来なかったなぁ。

周りの剣道者は芸を使っていたが、わしは馬鹿の一つ覚えの様に毎日毎日剣を振るだけ。

ずっと出遅れていた気がするな。


求めても求めても、ついぞ、剣の道の先を見る事は出来なかった。


諦めなかったのは、何でだろう?


―――


「どうしてそこまで剣を振るのです?」


若き日のハッセルに求道者学校の先生が聞いた。


「何度も同じ事を繰り返していては成長しませんよ。あなたも芸を覚えなければ」


「僕は不器用なので、魔力を使う芸を身につける事ができません」


「ならば、求道者になるのはお辞めなさい。その方があなたにとって良い」


「諦めません。母の仇を討つまでは」


「何度も剣を振るうだけでは意味がないと言っているのです」


「…他の道が見えない僕にとって、剣の道はこの一振りにあります。僕の道はここしか無いのです」


ハッセルは剣を振り続けた。


「…この一振りの道を進み続け、いつか…鬼を斬ります!」


―――


あぁそうだ。わしは鬼を斬る為に諦めなかったんじゃった。


ならば、もう少し待っていてくれ。まだ斬ってはおらぬから。


ハッセルは大剣を振り上げ、服を噛みつき上空へ引き上げているリヴァイアサンの顔を斬った。


「ヴァァァァァ!!」


リヴァイアサンは霞となり存在が消えた。


ハッセルは上空から落下する。


「何を!?ハッセル先生!」


「馬鹿な!逃がす事が出来たのに!ハッセルさん!!!」


データとアウンジャンが叫ぶ。


これがもう、最後の一振りになるじゃろうな。


「はっ!?人間の剣で私を斬れると思うなよ!」


エルジェーベトの筋肉が盛り上がり皮膚の色が変わり硬化する。黒光する鋼の様な肉体となった。


「ハッセル先生!!」


ハッセルは左手で持った剣を、上空からいつもの様に振り下ろす。


その剣は一切のブレも無く綺麗な太刀筋で、エルジェーベトの右肩を切断した。


わしが進んだ道は、目的地まで繋がっていたみたいだ。


「ギャアアアア!!」


エルジェーベトの体から血飛沫が出る。


そのままハッセルは地面に膝をつけ、左手を地面につけて頭を下げた。


その姿はまるで、立ち合いの後に相手を重んじる礼法の様だった。


「ハッセル先生…あなたは凄い剣道士です…」


一瞬、その太刀筋に心を奪われたデータだが、すぐに我に返る。


「救出だ!ハッセル先生をお守りしろ!」


「くそっ!すぐには向かえない!」


どの求道者も目の前の鬼で手一杯で近づく事すらままならなかった。


一匹の幻獣を除いては。


「……コーン、頑張れ」


召喚士・ジルの鳥籠から子どものユニコーンが飛び出す。


「あれは!ジルのユニコーン!」


ユニコーンは小さい体で鬼の隙をかいくぐり、ハッセルの元へ走った。


すでに意識を失ったハッセルをユニコーンが背中に乗せて逃げ出す。


「よし!救出したぞ!下がれ!!」


データの声に反応し、求道者達は退いた。


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