31話 ハッセルの誤算
「うおおおお!!」
エルジェーベトの横にいた人間が槍を持ってハッセルに向かってくる。
ハッセルは驚きながら人間を打った。
なぜここに人間がいる?そして鬼軍に加勢しているのは何故だ?
ハッセルはエルジェーベトを見た。
「求道者、なぜ80年前の戦いで人間を滅ぼさなかった理由がわかるか?」
エルジェーベトはハッセルに問いを投げかける。
「人間の強さ故じゃろ」
「いいや。やろうと思えば簡単に壊滅させる事は出来たさ。でも、日常生活をするのは面倒くさいだろう?」
一体何を言っている?
「畑も耕さないといけないし、肉も必要だ」
「奴隷という事か?」
「それならまだ良いがな。何より、私の子どもに人間の血が必要だからね」
吸血鬼・ピクチェンとチェンチェンがエルジェーベトの元へ集まる。
「この子達は人間の血が大好物なんだよ。いいか?ガッドランドは私たちにとっては家畜小屋なんだよ」
「鬼が人間を家畜とし、魔獣の貴様がそれを指示していた訳か」
「うちの大切な子どもの栄養になってくれよ」
「…なぜ今となりガッドランドを攻めた?」
「懲らしめてやるだけさ。飼い主に牙を剥いた家畜に躾をしないといけないからな。大丈夫、全滅はさせないさ。80年前の様に半壊させて、しっかりルールを教え込んでやるよ。今度は人間の3分の2は処理して食べよう」
「ゲスが」
ハッセルが巨大剣を振るい戦闘が始まる。
エルジェーベトの周りにいる無数のピクチェン達がハッセルを噛みつく。
上空に飛んだチェンチェンが翼を羽ばたかせ鱗粉を飛ばす。
ハッセルは呼吸を止める。3分程度は持つだろう。
「リヴァイアサン!」
召喚士が海竜に声をかける。
リヴァイアサンは咆哮し、鱗粉を吹き飛ばす。
「ナイスフォローじゃ」
ハッセルは巨大剣を片手で軽々と操る。まるで舞う様に。
幾度となく襲ってくるピクチェンとチェンチェンが斬られ吹き飛ばされる。
「…こいつが今の、求道者の極か」
人間界から数十年に一度出てくる才能。求道者の極と呼ばれる人間だ。
奴らは貧弱な体にも関わらず、小さな魔力を芸とし魔獣はおろかドラゴンをも倒す力を持つ。
過去、求道者・クエンがそうだったように。
「見えてきたぞ!ハッセル軍だ!幻獣もいるぞ!」
「よし、合流しよう」
データとテトラが馬を駆けハッセル軍の姿を見つける。
その先には、たった一人鬼を薙ぎ払う、人間とは思えぬ異常な姿のハッセルを見た。初めてハッセルの戦いを見るテトラは驚きを隠しきれない。
「あれが宮廷求道者の頂点、マーク・ハッセルか」
「信じられない強さだろ。あの人こそが求道者の極だよ」
データはハッセル先生の側にいる事を心から誇らしげに思った。
「データ!」
ハッセル隊からデータを呼ぶ声が聞こえる。
その方向に目を向けると、召喚士隊からジルの姿を発見した。
「ジルか!」
「良かったデータ、無事だった?」
「あぁ。ジルも平気か?」
「うん。その子は?」
ジルはデータの馬に乗るテトラを見た。
「ああ、剣道士だ。えと、名前は?」
「テトラだ」
「テトラ、よし。一緒にハッセル先生の元へ向かおう!」
「あぁ、この戦いの最後が近いぞ」
「ふぅ…。周りがちょっと片付いて戦いやすくなったかの…」
ハッセルは息をついてエルジェーベトを見る。何百匹倒したのだろうか。周りに朽ち果てた鬼の残骸が山となっていた。
「ハッセルさん!」
幻獣と共にハッセル隊も本部まで駆けつけていた。
「ハッセル先生!」
ハッセル隊に混ざったデータとテトラも本部まで駆けつける事ができた。
いつの間にか、鬼軍の本部周辺の戦況は人間側の有利となっている。
「人数的に不利なら、一騎打ちでもしようか?エルジェーベト」
「嫌になっちまうよ。こういう奴らが出てこない様に、求道者の祠に細工がしてあるのによ」
「細工?」
データを始め、求道者には理解が出来なかった。
データは思考する。一体どういう事だ?求道者の祠は、全ての求道者が通る道だ。鬼や魔獣が関係しているのか?
「あんたが剣道者の才能に気がつかない様になっているって事だよ」
「才能?何の事じゃか理解出来んの。わしは、自分で剣道の才能を感じた事は一度も無いからの」
「何?」
ハッセルは剣を振り上げる。
「鬼との関係はしまいとしよう」
「お前に出来るか?」
エルジェーベトはニヤリと笑い、ハッセルの後ろを見た。
「ん?何を見ておる?」
すると、ハッセルの右腕が切断された。
「…あっ?」
時が止まったかのようだ。
全員がハッセルと、胴体から離れた右腕と落ちてくる巨大剣を見た。
何が起こった?
求道者達の思考は止まっている。
ハッセルの後ろには剣道士が剣を振り下ろしている。
「なんじゃ…」
ハッセルが振り返ると同時に数名のハッセル隊が剣を振り落とす。
「やめろ〜!!」
データを始めとしたハッセル隊が静止する。
ハッセルの腕から血が噴き出す。
「求道者といえど、何人かは操れそうだな」
ハッセルは気がついて叫ぶ。
「気の弱い奴らはこいつの目を見るな!」
そうだ。エルジェーベトと目が合えば誘惑されるという噂は本当だった。
まるでハッセル隊の数名が操られたかの様に精神を錯乱させながら周辺の人間を斬り始める。
「一旦下がれ!」
ハッセルが指示をするが、時は既に遅かった。
エルジェーベトの爪はハッセルの体を引き裂いた。




