20話 テトラが出した条件
サンダースは、軍人が扉から出る所でテトラが放った言葉を思い出した。
『ジンが持っている『宝石』は渡さない!』
「…あの言葉で、彼を誘導した訳ですか」
数分前。
地下牢へ降りる軍人。兵隊が待つ鉄扉の前に来る。
「地下牢に入った2人に用がある」
「はっ!」
兵隊は鉄扉を鍵で開け、軍人を通す。
階段を降り、軍人はジンが入っている牢屋を探す。
「おい、ジンってのはいるか?」
牢屋にジンが一人座っているのが見えた。
「お前か?こんな身なりに似合わない物を持っているらしいな。ちょっと立ってみろ…ん?」
軍人は異変に気付く。
「もう一人はどこだ?」
ニヤリと笑うジン。
ゾフィーは軍人の背後から逞しい二の腕で首をロックする。
「グゥ……」
意識が飛ぶ軍人。
「やった!誰か来るまで待った甲斐があったな!」
「はい!テトラさんを探しましょう!」
ジンは鉄格子を外して外に出る。
ゾフィーと共に階段を上がる。
「な、お前ら!?…ぐぅ…」
軍人が倒れた地下牢に隊員の声と倒れる音が響く。
そして拷問室に到着するジンとゾフィー。
「宝石って聞いたゲスな軍人野郎は自分の物にしようと地下牢へ行くだろうと思ったよ」
テトラは、地下牢から出る事が出来れば、ジンとゾフィーは逃げられるだろうと見越していた。
だが、ジンはテトラを救出するよりも、サンダースを見て戸惑っていた。
「…サンダース、先生?」
どうして、求道者学校のサンダース先生がここに?
「…おや?誰でしたかね?」
サンダース先生は俺の顔に見覚えがないみたいだ。
当然かもしれない。印象に残らない生徒だったからな。
だが、10年前に言った言葉を俺は忘れていない。
『どうやら君に才能が無い様だね、ジン・バーネット君』
「私の事をご存知ですか?」
「…いえ、何でもないです」
もしも思い出されても、あの頃の事は考えたくも無い。
「あの…その、テトラを離して貰う事は出来ないでしょうか?」
ジンの弱気な姿勢にゾフィーは顔を歪める。
「ちょっとジンさん。こんな所まで勝手に入ってきて、丁寧にお願いしても無駄ですよ」
杖を持っていないゾフィーはファイティングポーズを取る。
「力づくでテトラさんを奪わないと」
…確かにそうだ。先生だからと言って遠慮していたんじゃ助け出す事は出来ねぇ。
「テトラを離せ……ん?」
サンダースは地面にしゃがみ込み、詠唱を唱えている。
ズゥン!!
「キャ!!」
「ぐぁ!!」
ジンとゾフィーは突然重力に押された様に地面に叩きつけられた。
遠隔グラビティだ。
この程度の距離と幅なら、先生には造作も無い。
「やれやれ。私は人に邪魔をされるのが嫌いなんですけど。ま、もうすぐ守衛が来るでしょう。それまでそこで寝ていて下さい」
「ぐっ…」
サンダースは顔をテトラに向けた。
「さ、話の途中でしたね。テトラ・クローバー。あなたの出生について、少し噂で聞いた事がありましてね」
出生?もしかして、こいつテトラの事を…?その為にテトラを拘束したのか!?
「…私は…」
「いい!テトラ!答えるな!」
「この狼狽ぶりを見ると、どうやら噂は本当の様ですね」
サンダースは真っ直ぐテトラの顔を見て言った。
「テトラ・クローバーが鬼の子だという事は」
「……えっ?」
最初に反応したのはゾフィーだった。
「テトラさんが…鬼の子?」
テトラは俯いたままだ。
何も言えなかった。初めてパーティを組んだ時、テトラが話してくれた過去の言葉を思い出した。
―――
ジンの廃部屋に座るテトラは、ゆっくりと、しかししっかりと自分の生い立ちを話した。
「テトラは、どうして求道者をしているんだ?」
「私はね、もしかしたら鬼の子どもみたいなんだ」
「…鬼…の子?」
「確証は無いけど、うちのクローバー社が鬼との裏取引で人間を卸している事が分かったの。そして、取引現場へ向かう途中に私の母が鬼に連れ去られた事がある。その時はすぐにガッドランドに戻してくれたけど、その後、産まれたのが私なんだ。母は勿論言わなかったし、私も噂で聞いた程度。だけど私の暴力的な性格はそこから来ていたりしてね」
「…そんな…」
「母は鬼を憎んでいた。そして私も。だから求道者になって、鬼とクローバー社を潰す事だけを考えて来たの」
淡々と語るテトラには、自分自身への硬い決意の様なものを感じた。
―――
拷問室は静まりかえっていた。
「…どうやら、そう言われているみたいだ」
「テトラ…まだ分からないだろ!何でそんな事をここで言うんだよ!」
「そうだったの…テトラさん…」
サンダースは拷問室に置かれた剣を取り出す。
「ならば話は早いですね。鬼の血が混じった人間を生かす理由は無い」
「待って!テトラさんを離して下さい!」
重力に抗うように、ゾフィーはゆっくりと立ち上がる。
「ほう。見た目通りのパワーだ。私のグラビティは鬼の3〜4人は動けなくさせる事が出来るんですけどね…」
「私は、私のわがままで鬼と対峙してくれたテトラさんを絶対に助けます!」
「お仲間は心中をご希望ですか」
くそっ。どうすればいい。何か無いか。考えろ!どうやったらテトラを助け出す事ができる!?くそっ。何も無いのか。くそっ!くそっ!
「…サンダースせんせ…いや、サンダースさん!今、人間は鬼との戦争に向かっているんですよね?」
「それが何か?」
「テトラは見ての通りの攻撃性は半端じゃない。テトラと俺とゾフィーで、鬼の親玉を倒すと言ったらどうします?」
「ジンさん?」
「宮廷求道者以下の3人でエルジェーベトを?寝言でももっとマシな事を言いますよ。第一、あなた方が鬼側につかないとは限らない」
「誓います!僕たちが鬼の軍を倒します!」
嘘でもホラでも何でも良い。今はとにかくテトラを解放させる。実際には戦いに協力するだけでも良いし、最悪参加するだけで良い。何なら逃げたって良いんだ!
グラビティで地面に押しつぶされながら、ジンはありったけの想いを伝えた。
そんなジンの思いを聞いたテトラは笑った。
「あぁなんだ。それで良いのか?それなら楽勝だよ。私とジンとゾフィーで、鬼の親玉と1000匹倒せば見逃してくれるか?」
「…3人で1000匹?」
サンダースの手が止まる。
「1000匹?」
ジンが青ざめる。
「あぁ、ちょっと間違えた。鬼の親玉と10000匹でどうだ?」
テトラさん。あなたは何を言っているんですか?
「私は鬼の子だからな。そんじゃそこらの人間とは違うよ。そして、ジンはもっと強いからな」
こいつ、言っていい事の限度を知らないのか?これがクローバー社の交渉か?
「もしも10000匹を倒せなかったら、その時には私にどんな処罰を与えてくれて良い」
「…なるほど。面白い。鬼軍の長、エルジェーベトと10000匹の鬼を倒せなかったら、その時は処刑でいかがです?」
「お安い御用だ」
安くない。決して安くないよ。




