19話 クローバー社の秘密
「…さてと」
サンダースは拷問室の椅子に座り紅茶のコップを手に取った。
「…止めておきましょう。埃臭い部屋では香りが台無しになる」
紅茶を置き直すサンダースはどこか不機嫌にも見える。
「安心して良いですよ。手荒な真似はしないので。鬼との繋がりを全て答えてくれたら、そのまま友人の所へ戻って頂いて結構です。テトラ・クローバーさん」
テトラはサンダースを睨んだ。
「…ジンとゾフィーをどこにやった?」
「お二人は地下牢にいます」
「あいつらは関係ないだろう。離してやってよ」
サンダースは冷たい目でテトラを見る。
「…あなた次第ですよ」
サンダースは部屋の中で待機している軍人に顔を向ける。
「ここから先は、ちょっと良いですか?」
軍人は下品な笑みを浮かべ答えた。
「へっへっへっ。宰相、こんな暴れ馬が好きですか?」
「…ま、どう思うかはご自由に」
「わかりました」
扉を開けて軍人が出て行く瞬間、テトラはチラッと様子を見る。
そして何かを考えた後、サンダースに向かって叫ぶ。
「ジンが持っている『宝石』は渡さない!」
扉を閉める軍人は叫び声を聞き、口に手を当てて考える。
「…宝石?ほう。あの牢屋の2人、そんな高価な物を持っていやがるのか…」
再度、軍人は下品な笑みを浮かべる。
拷問室では、サンダースはテトラの言葉に眉をひそめた。
「…話が見えないな」
「…いや、いい。それより、私が鬼との共謀罪だと?」
「ええ。それに関して、覚えが無いと?」
「当然だ」
「ご存知の通り、我々人間は秘密裏に鬼との協定を破棄し、襲撃の準備をしていました」
「…」
「だが、準備が仕上がる前に、鬼に先を越されてしまった訳だ。簡単に言えば、鬼と繋がっている内通者がいるという事です」
「それが私であるのは何故だ?たかだか、一求道者の女が…」
サンダースは手を伸ばしテトラを静止した。
「理由はあります」
「あなたが太陽の日に鬼の集落に向かった事は分かっています。特別な許可が無ければルッド教会への通行は禁止されているはずですよね?」
「…それがどうした?」
「ルッド教会へ向かう亀裂の岩間で、鬼の残骸は発見済みです。協定を破棄する寸前とはいえ、鬼への損害は罪となる事も、勿論ご存知ですよね?」
「…それで拷問か。大層煩わしい事をしているじゃないか。宰相っていうのは暇なのか?」
サンダースは立ち上がるとテトラの眼前に顔を寄せる。
「そしてもう1つ。クローバー社は鬼と貿易をしている」
「…」
テトラはサンダースから目を逸らさない。
「貿易会社であるクローバー社がガッドランドに卸す魔獣製品は優秀ですよね…」
サンダースは横の机に置かれている、テトラが持っていた折れた剣を触る。
「妖鳥インブンドールの卵、吸血蛍、グリーンマンの杖。そしてこの…ラングスイルのかぎ爪…」
サンダースは話を続ける。
「…どれも今のガッドランドの生活や求道者の武器、魔道具には無くてはならないものだ。それをクローバー社が雇う求道者が魔獣を討伐し、見合う数の素材を入手するのは簡単な事じゃない」
「…宮廷は、クローバー社の秘密を知っていたという事だな?」
「勿論です。クローバー社は鬼と契約し、鬼に代わりに魔獣を倒して貰い、素材を手に入れていた…そしてその見返りは?当然タダじゃない。人間界で育てた食用家畜や野菜を渡していた」
「…」
「…というのは建前…」
サンダースはテトラに剣を向けた。
「女性を鬼に流していたんですよね?」
テトラはサンダースから目を逸らした。見る事は出来なかった。
「…それに関して、私は知らないよ」
「…まっ、そうでしょうね。ですが、鬼と密接に関わっていて、情報を交換している事は事実です」
「…知らない」
「私が言いたいのはテトラ・クローバー、あなたが鬼の住処へ向かったのは、情報を鬼に流していたからですよね?」
「違う!私はあんな会社と関わっていない!」
「私も個人的にはクローバー社のやり方は認めていないです。何故なら私は鬼が嫌いだから。鬼の生活に加担しているとなれば、あなたを許すわけにはいきません」
「私は知らない!」
「勿論すぐには答えなくて結構ですよ。友人が傷付いている間にゆっくり思い出して頂ければ良いんです」
ガシャン!
テトラは鎖を思いっきり引っ張る。
「お前!!」
「後、もう1つ、聞いておかなければいけない事があります。妙な噂を耳にしましてね。あなたの出生についてです。あなたは…」
テトラの心臓が大きく動いた。血の気が引いた真っ青な顔になり、体が震える。
ドガーン!!
拷問室の扉が破られた。
「何ですか?」
扉からゾフィーが入ってくる。
「テトラさん!」
続いてジンも入ってくる。
「テトラ!」
「ジン、ゾフィー!」
「…地下牢から出た?」
サンダースはテトラを見る。
ニヤリと笑うテトラ。
「…あの時の『宝石』ですか…」