第71話 そして僕一人
どうしてこんな事に。護衛も出来ないのに引き受けたからかな?
でもなぜか、これ以上何もする気配がない。というか、地面に何か描いている?
「ふん。聖獣もこの薬には勝てないか」
薬? そう思っていると、近づいてきた男がサザナミを蹴った!
「やめろ!」
「は? 何!?」
蹴ったのは、合図を送っていた男だ。
僕は痛みに耐え、立ち上がった。太ももが凄く痛い。
「ふははは。さすが聖獣使い。死ね!」
男は、腰にさしていた剣に手を伸ばす。僕は咄嗟に自分に突き刺さっていた矢を抜き、男に投げ飛ばしていた。
ハッとする男だったけど、その矢はお腹に突き刺さり、仰向けに倒れた。
「はぁはぁ。いた……」
――『耐性』はランク3になりました。
痛みが引いた。え? でもこれなら!
男が倒れ、驚いてこっちを向いている人たちに向け僕は、落ちている矢を拾っては投げつけた。
矢は失速する事無く、弓で撃ったのと同じ様に飛んで行く。そして矢が当たれば、パタパタと倒れていった。
気づけば相手は、一人だけになっていた。しかも女性だ。
「まさかあの薬が効かないなんてね。聖獣にさえ効いたのに」
「薬って!? もしかして毒?」
「そうねぇ。ずっと眠ったままになるなら毒と同じかしら?」
にっこりほほ笑む女性は、山賊には見えない。そして冒険者にも見えない。どちらかというと商人風?
って待って、ずっと眠ったまま!?
「うそ! サザナミ!」
僕は、慌てて近くに倒れているサザナミをゆするも、何も反応を示さない。まるで死んでいるかのようだ。
「無駄よ。私達が長年かけて作り出した眠り薬なんだから。まあ稀に効かない奴もいるようだけど」
それって僕の事かな? 効かなかったのはスキルのおかげだけどね。
「あなた、聖獣より厄介ね。でも私の下僕にしてあげる」
「え?」
「こんな事もあるかもって、最初から描いた物も用意してあるのよ」
何かクルクルと巻いてある紙をペロッと舐めて僕に投げつけて来た!
「ぎゃ! 汚い!」
咄嗟に落ちていた矢を拾って打ち返――されてなかった!
矢の下に何かが浮かび上がる。慌てて矢を離し飛びのいた。
「なんですって!!!!」
僕より投げた女性の方が驚いている。
何かよくわからないけど、阻止できたみたい。
「もうこうなったら!」
女性は走って逃げだしたのかと思ったけど、僕達が倒れてから何かしていたところまで走っていっただけの様子。
あ、今みたいな事をする気? させない!
僕も走り出す。
彼女は、何かを描いていた。たぶん途中になっていた絵の続きみたいだけど、その彼女に体当たりした。
「え? きゃ!」
凄く吹っ飛んだ。
足元をみれば、絵というより円の中に模様を描いていたみたい。
なんだろうこれ? あ、さっきの矢の下に浮かび上がった模様に似ている。
そうだ。チェト!
「チェト! 起きて! チェト!」
抱きかかえ呼びかけるも、サザナミと同じくうんともすんとも言わない。呼吸もありぬくもりもあるから生きてはいる。
もしかしてこれって、ユイジュさんのお兄さんと同じ症状とか? 眠り病とか言っていたよね?
「うそ! じゃもう、目を覚まさないの?」
周りを見渡せば、僕が投げた矢に当たった男達が倒れ、マトルドもジョアラさんも倒れていた。みんな眠らされたんだ。
「え? どうしたらいいの?」
僕は茫然と、辺りの風景を眺めていた。
どうしたらいいかわからない。このままチェト達が目を覚まさないなんて、絶対に嫌だ!
「嫌だよう。起きてよう」
僕は、泣きながら叫んだ。
「マジか!」
声が聞こえハッと顔を上げれば、三名の冒険者が驚いて辺りを見渡している。そして僕と目があった。
「何があったんだ? お前がやったのか?」
「助けて! みんな眠っちゃったんだ!」
僕がそう言うと、顔を見合わせている。
冒険者の一人が、変な模様の上ある矢に気がつき覗き込んだ。
「魔法陣か? なでこんなのがここに?」
「あ、それ、あの人がペロッと舐めて投げて来たんだ」
僕は、吹っ飛んで気を失った女性を指差した。
「は? 舐めた?」
僕が頷くと、指差した女性に冒険者が近づいて行く。そして、その途中にある魔法陣? にも気がついた。
「ここにもか。未完成の様だけど……」
「取りあえず、SOSだしとくな!」
近づいてきた人とは違う冒険者がそう言って、走り出した。
「その犬も撃たれたのか。君の犬?」
「うん。チェトって言うんだ。起きてくれないんだ……」
「大丈夫だ。きっと助かる」
僕は、こくんと頷いた。ちゃんと目を覚ましてね。




